原作ネタバレ

「元夫の番犬を手なずけた」韓国の原作小説ネタバレ感想 |2巻・中編

コミカライズ連載している「元夫の番犬を手なずけた」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。

(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)

元夫の番犬を手なずけた(전남편의 미친개를 길들였다)

原作:Jkyum

8.転機

その日、ルーデンから良くない報告が飛んできました。ルーデンに移送された前リンケ侯爵の遺体が消えてしまったというものでした。ラインハルトは自ら公共墓地から水晶門まで見送り、そして棺はルーデンに届けられたはずだった。しかし、その途中で遺体は消え、届いたのは空の棺でした。

神経を尖らせた日々を送っていた時に起きた事件だったのでラインハルトは発熱し、ベッドから起き上がれなくなってしまいました。

寝込んでしまったラインハルトによって歓迎宮は騒がしくなり、その間に何者かの手紙が宮の前に置かれていたのを発見し、ビルヘルムがラインハルトに届けます。

手紙には前リンケ侯爵の遺体を返したいという旨と、待ち合わせの時間と場所の指定がされていました。護衛騎士は一人だけ同行することが書かれており、それはビルヘルムを指していました。

夜明け、ラインハルトとビルヘルムは指定された通り公共墓地の前リンケ侯爵の墓があった場所に向かいました。冷たい風が吹き、ビルヘルムは素早く自分の外套をラインハルトにかけると、そこへ剣を抜く音と共に二人を取り囲む人達が現れました。

「噂通り仲が良いのですね」

そう話す男は、前リンケ侯爵の従兄弟の息子で、後にリンケ侯爵家に養子としてやってきたエリヒだった。エリヒは自分こそが正当なリンケ侯爵家の後継としての権利があると主張しますが、ラインハルトには彼の上に誰がいるのかは明白でした。

「カストレヤ皇后は猟犬を生かしておく人ではないよ」

エリヒは権力が欲しかっただけなのでラインハルトを殺すつもりはありませんでしたが、そんなエリヒをみかねて、そばにいた兵士によってエリヒは殺されてしまいます。

退場の早いエリヒ…。ラインハルトのことは殺さず、カストレヤ皇后には誤魔化して褒美だけ受け取ろうとしていたようでした。小物ではありますが、根っからの悪人でもないのでなんとも複雑です…。さよならエリヒ。

その隙を狙って、ビルヘルムはラインハルトを抱えて逃げ、距離を離してから口笛を吹きます。公共墓地の手前で待機させていた護衛を呼ぶ合図だった。

ラインハルト達に迫った敵をビルヘルムが相手にし、ラインハルトはその光景をただ見ていました。ルーデンの雷と呼ばれる男がどんな戦いをするのかを今ままで知らなかったラインハルトは、その戦いぶりにぞっとします。

しかし、傍観していたラインハルトの視界の端から突然もう一人暗殺者が現れました。暗殺者がビルヘルムを狙っているのに気づいたラインハルトは咄嗟に短剣を投げつけるけど、金属の鎧に跳ね返されてしまいます。ラインハルトは暗殺者に捕まり、その刃がラインハルトの左頬を裂いた。すぐにビルヘルムによって暗殺者の息の根は止まったけど、ビルヘルムの瞳が憎悪に染まるのがラインハルトにはわかりました。

「ライン、ラインハルト…」

護衛達が追いつき、ラインハルトはその一人からハンカチを差し出されますが、ビルヘルムがハンカチを受け取って自らラインハルトの頬を止血しました。

「あなたは大丈夫?」とラインハルトが聞くと「はい」と返事が返ってきたので、ラインハルトはビルヘルムに手を伸ばして「歩けないから私を馬のいるところまで運んで」と言うと素直にビルヘルムは馬まで運び、そうして離れていこうとするビルヘルムの腕をラインハルトは掴みます。何をしにビルヘルムが戻ろうとするのか、ラインハルトは察していたので、「私一人では馬に乗るのも難しい。私を歓迎宮まで連れて帰って」と言いました。

ビルヘルムは少し考えた後にラインハルトの後ろに跨りました。そうして帰った歓迎宮で血にまみれたラインハルトを見てマルクは卒倒し、ラインハルトは治療を受けたあと、ビルヘルムの手を握りしめながら眠りにつきました。

翌朝、公共墓地から運ばれた暗殺者の死体はビルヘルムが全て潰し、それでも足りず犬の餌にしたのだと報告を受けました。

ビルヘルムの残虐さを知っていたからラインハルトは止めたかったのでしょうね…。

ラインハルトは前世でビル・コルーナと会った時のことを覚えています。近くに戦争に出ていたその帰路で、ビル・コルーナはヘルカに寄り、ラインハルトは領主として対応しました。

意外とビル・コルーナは丁寧な挨拶と、優雅な所作で食事を行いました。ラインハルトはその時酒に酔っていたせいもあり、ビル・コルーナのミシェルへの忠誠に皮肉を言うことにしました。

どうして10年も大切な騎士を戦争に出すのか、とラインハルトが聞くと、「最適な用途に使われただけです」と返事が返ってきました。

「私は最適な用途に使われたと思いますか?」

「………」

「人は道具ではありません」

その時、ラインハルトは「いっそあなたがその剣で私を殺したら幽霊になってミシェルの首を絞めにいけるだろうか」と思ったし、酔っていたのでもしかしたら口に出していたかもしれません。

「忠告するけど、あれを裏切った方があなたの人生で百倍役に立つ」

そんな不遜な言葉を言うと、他の騎士たちが剣を抜いたが、それをビル・コルーナは止め、侍従に「領主様は酔っているようだ」と言って引き下がりました。そうして眠った夢の中にもビル・コルーナが現れたので、ラインハルトは「愚かね。私だったらミシェルを殺してしまうのに。あれはあなたの席だったかもしれないのに」と忠告しました。

前回の人生でラインハルトは酒を大量に飲んでいました。食べ物は喉を通らなくなり、酒ばかり飲んでいたので体を壊し、やがてラインハルトは一度目の人生を終えることになります。

皇帝は復権したリンケ侯爵が傍系に襲われたと聞き、憤慨して主治医を派遣しました。世間は皇帝がそれだけリンケ侯爵を大切にしているのだと知れ渡ることになりました。

傍系(ぼうけい)… 直系から分かれて出た枝葉の系統。特に、同一の祖先から分かれて出た親族の系統。また、その分野で、主流からはずれた存在であること。

出典:コトバンク

主治医はラインハルトの頬から顎にかけてある傷を見て、「これは傷が残ります」と言いました。暫くは笑ったり泣かないようにと言って主治医は帰り、ラインハルトは一人になった部屋で鏡を投げ捨てた。

ラインハルトは夢で前の人生でビル・コルーナと会った時の夢を見ました。当時のビル・コルーナに対して「人は道具ではない」と説き、戦争に向かわせるミシェルに忠誠を誓うビル・コルーナを皮肉った。けれど、今ラインハルトがしているのはまさにミシェルと同じ行いなのだと自己嫌悪に陥りました。

そして今になってディートリッヒが言っていた「チェスの駒のように使え」という言葉を思い出します。愛情を与えるべきではなかったし、与えるのならリンケ侯爵のように与え続けるべきだったのに、ラインハルトはビルヘルムをただ不安定にさせるだけだった。

ラインハルトはマルクにビルヘルムを呼んでくるように命じ、部屋にやってきたビルヘルムはラインハルトが「こっちにおいで。隣に座って」と言っても傍に立っているだけでした。

「叱責を座って聞く人はいません」

「あなたを叱責しようと思って呼んだんじゃない」

「あなたはいつも……俺を一番苦しめる方法を知っていますね」

ラインハルトはビルヘルムの腕を掴んで無理矢理ベッドの上に座らせ、ビルヘルムの肩に額を押し付けて、ビルヘルムが平穏に自分の元で育ったらどんな人生を送っていたのかを想像して話し始めます。

「大人しいし、優しくて言うこともよく聞く。冬の夜は布団を被って一緒に穀物を焼いたものを食べながら昔話をして。春になると新芽を見て、夏は湖で遊んだりするの」

「後悔していますか?」

ラインハルトは「いいえ」と答え、自分を見下ろすビルヘルムの目を見つめながらその額、眉毛、鼻、唇を撫でました。

「ビルヘルム、私は何も後悔しない。だからあなたも後悔しないで。罪悪感を持たないで」

ビルヘルムは「罪悪感」と聞いて、なにか恐ろしい話を聞いたように顔を歪ませました。

「本当に、俺を知っているかのように話しますね」

それは怖がっているようにも、ラインハルトを探っているようにも聞こえました。ラインハルトはビルヘルムの額に口付けると、力が籠っていたビルヘルムの肩が一瞬緩んだのでラインハルトは痛みに耐えつつ笑った。

「あなたを知っているわ。あなたが何かしても、それは私のためでしょう。違うの?」

ビルヘルムはまだラインハルトに隠していることがあるようだけど、もうそれを探ったりすることをラインハルトは辞めることにしました。愛情に飢えていて、ラインハルトの為なら何でもするのだから、ラインハルトこそ揺らいではいけないのだと自分を戒めます。

「俺が何をしても、それはいつもあなたを愛しているからです」

「そう。それでいいよ」

「……本当に何をしても許してくれますか?」

ビルヘルムの視線は彼女より少し高かった。凍った冬の夜にタペストリーを少しあげて窓から眺めた、隙間から見えた冷たい星たちの光。

ラインハルトはビルヘルムの視線が幼い頃に見たあの青い星明かりのようだと思った。骨まで凍らせてしまうような、静かな乱暴さ。

それに応じてはいけないのだと直感したけど、「そうだね」とラインハルトは返答します。

ビルヘルムはラインハルトの鼻先に口付け、それから唇が重なった。やがて舌が絡まったけど、ラインハルトに口付けているのが信じられないのか、ビルヘルムは離れ、そして何度も口付けを繰り返した。確認するように唇を噛まれ、そこから血の味がしてようやくビルヘルムは「嬉しいです」と囁きました。

ラインハルトが想像していたよりビルヘルムは紳士だった。口付けを終えたビルヘルムは距離を取り、怪我人にはさすがにこれ以上は手を出せないのだと言いました。

傷を見せてとせがまれ、ラインハルトは包帯をとって頬の傷をビルヘルムに見せました。歯ぎしりして「皆殺しにするべきだった」と言うので、暗殺者の事かと思ったら、ビルヘルムは「皇后と皇太子のことです」と言います。

「二度とこんなことをしないでください」

「あなたが怪我をしたらあの場にいた私まで死ぬかもしれない」

「いいえ、俺がいくら怪我をしてもあなたを死なせることはないでしょう」

ビルヘルムはラインハルトの腰に抱きつき、その肩に自分の顔を埋めます。それはビルヘルムが少年だった頃の事を思い出し、ラインハルトは「一人で戦場に置いてごめん。本当にごめんね」と謝りました。

するとビルヘルムは驚いて顔を上げ、ラインハルトの鼻先に口付けた。

「そんなことを気にするなんて。大丈夫です。本当に何でもない。俺はただ…」

いいかけて辞めたビルヘルムは傷に薬をつけて包帯を巻き、ラインハルトが寝やすいように髪も整えました。枕を高くして横になったラインハルトは横にビルヘルムを誘ったけど、「自信がありません、ラインハルト」と言われ、ラインハルトの顔が赤く染りました。

二人は今目の前にある問題について話し合った。大宗教会でビルヘルムは私生児として公になるが、そのままだと向こうが持っている前リンケ侯爵の遺体が取り戻せない。

ビルヘルムは騎士が行うシュバリエの誓いをミシェルにするのはどうかと話します。それなら継承権を放棄するようにも見えるし、皇后も提案を受け入れる。しかし、そうなるとミシェルの騎士になるのでラインハルトの騎士ではなくなるし、騎士がシュバリエの誓いを行った主人に手をかけてしまっては、ビルヘルムは自分の地位を捨てることになってしまいます。

シュバリエの誓いとは、騎士が主人に誓う強い忠誠の儀式のことです。ミシェルとビルヘルムは異母兄弟ですが、このままでは継承権争いになりますが、ビルヘルムがミシェルに忠誠(シュバリエの誓い)を誓えば、その誓いを破ることはできないため、継承権争いから引いたことになります。また、騎士が主人を殺すことも大罪とされていたため、これによってラインハルトの復讐も遠のいてしまいます。

しかし、ビルヘルムはその心配を否定しました。

「いいえ、ラインハルト。ミシェルは必ず死ぬでしょう。そして俺は引き続きあなたのものです。ラインハルト、愛しています」

「ビルヘルム」

「俺はずっと前からあなたを愛していました。あなたに必ずミシェルの首を捧げます。だから俺を愛してください」

「だから」からビルヘルムの声は小さくなったけど、ラインハルトは長いため息を吐き、ずっと胸に溜まっていた心を差し出す事にしました。

「愛しているわ。だからミシェルの首を持ってきなさい。何をしてでも」

ビルヘルムは嬉しそうに笑いました。

9.薄氷の上で

ドルネシアの侍女であるギリアはビルヘルムに会いにいき、お礼を伝えたいので日が沈む頃に温室に来て欲しいというドルネシアからの伝言を伝えます。しかし、ビルヘルムはその時間は主人と食事をしなくてはならないので、真夜中に歓迎宮の庭園に来て欲しいと言いました。

その時間の外出が難しいことを伝えたけれど、ビルヘルムは鼻で笑い、「それならいいと伝えろ。感謝は十分に頂いたので」と言います。結局ギリアは他の侍女達の目を避けてドルネシアを歓迎宮の庭園に真夜中に連れていくことになりました。

約束の時刻に現れたビルヘルムに向かって「温室に来てくだされば良かったのに」とドルネシアが不満を口にすると、「俺が誰に仕えているのかご存知ではないですか?」と不遜な態度で返答をしました。

「知っています」と答えるドルネシアの声に、ギリアは嫌な予感がして主人の顔を見ると、ドルネシアの頬は赤く染っていた。だが、ギリアがもっと観察する前にドルネシアはギリアに人が来ないか見張っていてと命じました。

二人きりになるとドルネシアはビルヘルムに腰を抱き寄せられ、彼にしがみつつも「手袋を返しに来たのですが」と言います。ビルヘルムの体温がやけに感じられて、ドルネシアは取り繕ってはいたけど、ビルヘルムに「本当に手袋だけ返しに来たのか?」と尋ねられ、我慢できずに「口付けしてください」とねだりました。

それから、手袋を返した日からずっと、ドルネシアは影でビルヘルムと口付けをしました。触れ合うだけのものだったけど、それでもドルネシアは胸が高鳴りすぎてどうにかなってしまいそうだった。

ドルネシアはビルヘルムの指の間に口付けを落として、寝転がっているビルヘルムの隣に寝転がると、ビルヘルムは体を起こし、「無頼漢の横に尊き皇太子妃様が寝るだなんて」と言いつつ自分の外套をドルネシアの頭の下に枕のように敷いてくれます。ドルネシアは笑いながら「無頼漢だなんて。愛する恋人でしょう」と言いました。

「そう言えるかな?」

「違いますか?」

「さあ」

ドルネシアからねだらないと口付けもしてくれないけど、それでもドルネシアはこの愛を噛み締めていました。ビルヘルムは冷たい目をしつつも「どうせあの男を諦めることもないくせに」と言います。ドルネシアはミシェルから既にビルヘルムが私生児だという情報を得ていました。だからこそアランカスの男たちがドルネシアに夢中になるのに良い気分になりましたが、それでもミシェルを捨ててビルヘルムと結婚するということは考えられなかった。しかし、ビルヘルムはそんなドルネシアに囁きます。

「ドルネシア、あなたが俺を選べるとしたらどうする?」

どういう意味か聞くと、ビルヘルムは太陽の下で手を取り合い、神の前に立つことだと話しました。それは夫婦を意味することなので、ドルネシアは呆れます。

「叶わない愛なのだから来世で会ってまた愛することを祈ることしかできません」

「これは来世だ。俺は一度の人生を生きてきた」

それは恋人が交わす冗談のようなものだとドルネシアは思った。

「リンケ侯爵が羨ましいです」

「あなたが?」

「だってあなたを持っているから」

そう会話していると、密会が長すぎたのかギリアが帰りを促してきたので、二人は立ち上がった。去り際、ビルヘルムはドルネシアの耳元で「欲しいのなら奪わないと」と囁きました。

ビルヘルムの言葉の意味をドルネシアが理解したのは、大宗教会直前だった。カストレヤ皇后が皇太子夫妻に会いに来て、ラインハルトはビルヘルムをこちらに渡し、ミシェルにシュバリエの誓いをさせるつもりなのだと話しました。

シュバリエの誓いは、兄の影で生きることを決めた弟が誓いを行ったことから始まったという逸話があります。その話を知っていたドルネシアはようやくビルヘルムの言葉を理解しました。物語では、死んだ兄の妻は誓いによって弟が娶ったのです。

日本でも、亡くなった兄の代わりに弟が兄嫁を自分の妻として迎え入れるというものがありましたね。私の大祖父もその流れで大祖母を迎え入れています(めちゃくちゃ余談)

大宗教会が始まりました。ヘイツの最後の勤務日でもあったので、ヘイツは仲間たちと酒を飲み、酔っ払いつつ皇城を歩いていました。丁度皇太子妃宮の庭にさしかかり、警備の少なさを嘆いていると、森に入っていくドルネシアとビルヘルムを見てしまい、ヘイツは驚き、酔いは一気に覚めました。

見張りのギリアは丁度居眠りをしていたタイミングでした。

ラインハルトはビルヘルムに支えられながら会場に向かいました。傷は隠さずさらし、できるだけ「可哀想な廃妃」として映ればいいと思っていました。

ビルヘルムがミシェルにシュバリエの誓いをすると皇后に伝えると、それまで「遺体なんて知らない」と言ってばかりだった反応がピッタリ止みましたが、その代わり先に誓いをさせて遺体の返還は後だと要求をしてきました。

「彼らが絶対に遺体を先に渡すことはありませんから、俺を先に捧げるしかないです」

「でもビルヘルム、それで彼らが約束を守らなかったら?そうなると私は自分の美しい騎士だけを奪われたことになる」

ビルヘルムは顔を輝かせて「もう一度言ってください」と喜びました。「自分の」と表現したことに喜んだのだと理解したラインハルトは笑いながらビルヘルムの頬を撫でて「私の愛するビルヘルム」と言います。ビルヘルムは首から顔まで真っ赤になりました。

驚いているとビルヘルムはラインハルトの肩に顔を埋めました。

「あまりにも、嬉しくて」

その素直で初々しい告白に、ラインハルトの顔まで真っ赤になった。二人を見ていたマルクは嬉しそうに目を輝かせました。

ラインハルトのデレ期が到来していますが、その態度に慣れていないビルヘルムの反応が可愛いですね。

会場に向かう途中で合流したペルナハとラインハルトは皮肉をぶつけあいました。ペルナハがラインハルトにできた傷の皮肉を言うと、ビルヘルムの顔つきが凶悪になった。やはり犬は犬だったかとペルナハが思っていると、ラインハルトは素早くビルヘルムを落ち着かせ、ペルナハに冷静に言葉を返してきました。

その飄々としている様子を見て、広大なルーデンはきっと前リンケ侯爵のように統率の取れた経営をラインハルトは行うのだろうとペルナハは評価しました。

会場につくと皇帝夫妻の後ろにペルナハと、もう一つの大領主地あるレンボーの領主、そしてラインハルトという席配置でした。通常、席の配置は皇后が決めるので、これは周りの貴族に対する皇后からの牽制でした。話も皇后の耳によく入る。しかもこの席の配置ではラインハルトの左側が他の席に晒されているため、傷がよく見えてしまった。

さすがに自分の頬を見て息を飲む貴族たちの反応をラインハルトが気にしていると、席を変わろうかとビルヘルムが申し出ますが、ラインハルトは断ります。しかし、貴族たちは逆にそれが一層ラインハルトが気の毒に見え、皇后の印象が悪くなりました。

そこへ「殿下」と、皇太子妃時代の敬称で呼ぶ者が現れました。それはラインハルトの侍女だったヨハナで、彼女は目に涙をいっぱいためながらラインハルトの前に跪きました。

「ヨハナ!」

二人は手を取り合い再会を喜びました。この空気の中、ラインハルトに声をかけるのにはとてつもない勇気が必要だったはず。そのヨハナの元に、諦めた顔で近づいてきたのはヨハナの夫となったフレデリック・シュナイダー伯爵でした。

ラインハルトは歓迎宮に遊びに来るよう話し、ヨハナは去り際にラインハルトから預かっていた宝石箱を自分の母が売ってしまったことを謝りました。それはリンケ侯爵家に伝わるものでしたが、ヨハナの手に渡ったものだったので気にせず、ラインハルトは今朝マルクが付けてくれた指輪を取ってヨハナに渡します。

「殿下、こんなもの貰えません!」

断ろうとするヨハナを夫であるシュナイダー伯爵の元に送り出しました。それから顔をしかめているビルヘルムに理由を尋ねますが、ラインハルトがルーデンにいた時に一度も尋ねてこなかったヨハナは「大切な友達」とは言えないのではないかとビルヘルムは主張します。

「……あなたは優しすぎます」

ラインハルトは人には優しくなるべき時があり、人の関係はそう簡単に切れるものでもないのだと説明しました。

「私があなたに大きな過ちをしたら、あなたは一夜にして私を見捨てるの?」

「いいえ」

「そうでしょ。ヨハナもそうだよ」

ラインハルトがビルヘルムの腕の内側を何度か握ると、その内密な遊びにビルヘルムの顔が緩んだ。

「ヨハナが私を訪ねて来られなかった歳月以前に、彼女と私が過ごした歳月があるでしょ。その友情の期間から見て、ヨハナにも私を見つけられず苦しい歳月があったはず。そう考えた方が私にもいいの 」

「どうしてですか?」

「彼女があえて私を探さなかったと思うと、心が痛すぎる」

ビルヘルムは祈祷が始まるとラインハルトにこっそり「あなたもですか?」と尋ねました。

「俺があなたに大きな過ちをしたとしても、あなたは俺の苦しみを理解しようとしてくれるでしょうか」

ラインハルトはなぜそんな事を言うのか尋ねたけど、ビルヘルムは「あなたが他人に甘いように私にも甘いといい」と言いました。

「……甘いでしょ」

「いいえ、そう思うことはできません」

話している間に皇帝夫妻は順に貴族の所を周り、挨拶を受けていました。ラインハルトの前に来た皇帝はビルヘルムしか目に入っていないのか、ビルヘルムに声をかけてから思い出したかのようにラインハルトの傷について話し、前リンケ侯爵との友情もあるので彼の遺体が奪われたことは許せないと話しました。けれど、本当に友情などあったら父は死ぬことはなかったのではないかとラインハルトは思いました。

皇后はビルヘルムが手の甲に口付けしようとしたのを払い除け、ラインハルトの挨拶は「そう」だけで終わらせます。次にミシェルがやって来てラインハルトの傷を見て「ルーデンの雷だというのに自分の主人を傷つけるなんて騎士の資格もない」と皮肉を言うので、ラインハルトは皇帝が口にしたリンケ侯爵家との友情という言葉を聞いた後なのだから礼儀を守れと叱りました。

ミシェルは怒りながら立ち去り、ビルヘルムの事はそのまま無視したが、以外にもドルネシアがラインハルトの前で立ち止まった。以前はミシェルにドルネシアの手首を切り落とせと言ったけど、今ではこの女にはそんな価値は無いのだとラインハルトは理解していました。異国から人質として来た女にどれほどの選択肢があったのか。

そう思いつつ挨拶を口にして腰を下げると、ドルネシアはその挨拶を無視して隣に立つビルヘルムに手を差し伸べます。ラインハルトを無視するなら騎士も無視するべきでしたが、ドルネシアは違いました。

ビルヘルムは差し出された手の甲を見て小さく笑ったあと、挨拶をしてその手の甲にやや長い口付けを落としました。そうして手袋を嵌めて席に帰っていき、その手を撫でたドルネシアはラインハルトに勝利の笑みを浮かべました。

皇帝の薄情さ、皇后の自分勝手さ、ミシェルの小物さ、ドルネシアの自己陶酔さがよく目立っていましたね。

ヘイツがラインハルトを尋ねたのはその日の祈祷が終わった後でした。商人がこの時期は花をたくさん売っているのでヘイツも花を持参してラインハルトに贈りました。マルクが毒がないかを確認してからラインハルトの手に渡り、その香りを嗅いで「いい香りね」と褒めます。

ヘイツはラインハルトにビルヘルムの密会の件を報告しようか迷ったけど、主人となる人の腹心を攻撃したら良くないだろうと考え、結局口に出すことはありませんでした。

ヘイツとの話はいつルーデンにラインハルトが帰るのかという話になりますが、行事を終えるまでは動けないラインハルトのことを考えると、ヘイツが先にルーデンに行くしかありませんでした。

「私の主城はオリエントになるから、あなたもそこへ行けばいい。あなたは全ての領地を回って税収計画を立てないと」

「考えただけでも恐ろしい」

「楽しくないかな?帳簿が丸ごとあなたの手に握られるのだから」

「私は領主様が一番怖いです。いくら推薦人がいると言っても、何を信じて丸ごと帳簿を任せるのか」

「その花を買えと言った人の存在を信じている」

ヘイツが大きく動揺したので、ラインハルトは笑いながら貰った花を生けた花瓶を眺め「私は知っているから、ヘイツ・イェルター」と言いました。

話のついでにラインハルトは売られた宝石を買い戻すことはできるのかヘイツに尋ね、有名な宝石なら可能だと答えます。ヘイツは財務庁にいる自分の親友達に探させることを約束しました。

ラインハルトはヘイツを食事に誘ったが、ヘイツが返事を返す前にビルヘルムが「遅れます」と遮りました。ルーデンに神殿を立てたいという大臣と神官がラインハルトの訪問を待っているとの話だったため、仕方なく食事は流れました。

ヘイツは帰路につきつつ、自分が兄から貰った手紙を取り出します。ルーデンの下で働くという報告をしたヘイツへの、兄からの手紙だった。そこには「お前はいつも女性に嫌われるから何か贈り物を持っていきなさい。わからなければ花がいいだろう」と書いてありました。

ヘイツとお兄さんはとても兄弟仲が良いし、ヘイツも兄をとても信頼していたようですね。

ラインハルトが髪を整えるようマルクに命じますが、櫛を持ってきたのはビルヘルムでした。

「あなたが?」

「俺がしてあげたいです」

「やり方は知っているの?」

隣で何度も見たと話したビルヘルムはリボンを解き、ラインハルトの頭をマッサージしました。貴婦人にはマッサージを行う侍従がいると言うけど、ルーデンの雷をそのように使ったと知れれば大層驚くだろうと考えていると、ビルヘルムがラインハルトの額に口付けをしました。

「求愛する男の前でこんなに無防備でいてどうするんですか」

ビルヘルムは首と肩もマッサージしたあと、丁寧に髪をとかして束ねてから、「あなたが指一本動かさなくてもいいように全部やってあげたい」と言いました。

ラインハルトは外に出るとビルヘルムと二人で大きな馬に乗ります。そうして皇城を出るなり「わざとでしょ?」とラインハルトは尋ねました。

「ヘルツとの夕食のこと」

「気づきましたか?」

「やめて。どうして最近そんなに文句が増えたの」

「俺がそんなに可愛いんですか」

「はぁ……?」

この子は本当に。ラインハルトは結局、首を回してビルヘルムを見た。ビルヘルムは待っていたかのように目を合わせながら笑った。

ラインハルトが腰を掴んだビルヘルムの体温に緊張していると、ビルヘルムはラインハルトの左耳の後ろに鼻を埋めました。

「あなたが俺の代わりに怪我をした時、皆殺しにしたかったし、皆殺しにしたあと俺も殺したかったんです。首を吊ろうと思いながらあなたの部屋に行きました。でも不思議なことに、あなたは前よりもっと優しくなりました」

ビルヘルムはそれが不思議だったけど、理解したのだと話しました。ラインハルトはビルヘルムに死んで欲しくないから怪我をした。それはラインハルトの愛情の証拠だからこそ、ビルヘルムはその頬の傷が辛くもあり、嬉しくもあるのだと言いました。

「いつも言っていますが、あなたが好きです。ラインハルト、愛しています。以前よりもっと愛しています。本当に……」

ラインハルトの顔は真っ赤に染まりました。ラインハルトはこれまでこの男のことを家族、弟、子供。それらだと考え、彼からの求愛を返すことは出来ないと思い、取引しようとしたりしていました。しかし、今考えたらそうでは無いのではないかと、ラインハルトは思いました。

しかし、ラインハルトは同時に不安に思った。盲目的に捧げる愛は無限なのだろうか、と。首を振って否定しつつ振り返った。

しかし、振り向いた瞬間、目に合った視線でラインハルトは言おうとした言葉を失った。魅惑的だった。

祭りの明かりを受けて薄暗く輝く、恋に落ちた男の目。その後ろからうごめく影まですべてのぞき込んだ。

ラインハルトは直感した。あれをつかまえた瞬間、自分もあの影に飲み込まれるだろうと。それにもかかわらず抵抗できないことがあるものだ。

ラインハルトは首を少しひねったままあごを上げて目を閉じた。衝動的だったが、悪魔は待っていたかのように口づけしてきた。通りかかった人々がざわめくのも、2人を随行していた運転手たちが慌てて言葉を止めるのも関係なかった。

影がラインハルトの目を覆って踊るのがまぶた越しに見えるようだった。手綱が緩んだ。言葉が止まった。力なくガチャガチャと音を立てていた剣の音も止まった。

2巻中編を読んだ感想

消毒液!!!消毒液をください!!!ビルヘルムにふりかけよう!!!!!

いや、二人のやりとりはめちゃくちゃ甘いのですが、ドルネシアとの関係が不穏すぎる。消毒してほしい(してそうだけど)

2巻は前・中・後で怒涛の展開を迎えます。次でどんな展開がやってくるのかをお楽しみに!次回の更新はtwitterにてお知らせします!

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いり
異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

POSTED COMMENT

  1. 匿名 より:

    大祖父と大祖母のくだり、めっさ笑いましたww

    • いり より:

      コメントありがとうございます!
      私の大祖父母たちのくだりで笑いをとりたかったわけではないのですが、少しでも気分が和んだのならよかったです!

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