永遠なる君の嘘(영원한 너의 거짓말)の韓国の原作小説3巻(前編)のネタバレ感想です。
原作:jeonhoochi
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11章 魔女狩り
船長室にたどり着くと、魔晶石でつくられた探知機が赤い点で覆われていました。赤い点は全て海洋魔獣を指し示していて、魔獣に取り囲まれているせいで船が動けなくなっていたのです。副船長はこの事態は魔女が船に乗っているからだと言いました。魔女を海に投げたら魔獣も静かになるはずだと主張しますが、アレックスが副船長に真っ向から反対します。
「馬鹿げたことを言うな。迷信を根拠に人ひとり生贄にして、良くなる事なんてあると思っているのか?」
「ローゼン・ウォーカーが魔女であろうとなかろうと、海に投げて失うものはありません。私たちは常に乗客が優先です!」
「この船に乗った以上、囚人も乗客だ!」
アレックスが口論の末に副船長の胸ぐらを掴んだ瞬間、副船長の頭にイアンの拳銃が向けられました。イアンはゆっくり拳銃を近づけながら、引き金に指をかけて、感情を入れないよう淡々と言いました。
「いくら副船長でも、船上で船長の命令に逆らう者は即処分します」
「青二才が…」
「私はアルカペズ刑務所の囚人24601をモンテ島まで無事に護送せよという命令を受けました。任務の邪魔になったら船長だけでなく、私も副船長を処分できるということです」
副船長の顔色は赤くなったり青くなったりしました。副船長が両手を挙げて降参し、アレックスが探知機を見ていると、ライラが泣きながら船長室に入ってきました。
「みんな……ローゼン!ローゼンが……」
イアンは泣いているライラを見て、船長室の扉を蹴って甲板に向かいました。
ローゼンは既に魔力鑑別検査を3度も受けて、魔女では無いことが証明されていましたが、副船長などの魔女たちを排除すべきだと信じている人達はその結果すら、魔女が作り出したものだと思っていました。迫害を受けた魔女が復讐するのだと信じていたので、それだけ自分たちが追いやった魔女が怖かったのでしょうね。
船室を離れると冷たい冬の風にさらされて、ローゼンはすぐに目を覚ましました。自分を監獄に連れていくヘンリーの様子から、ローゼンは何か尋常ではないことが起こったことを理解しました。
「魔獣たちが押し寄せて船を囲んだ」
「……なんで?」
「みんなお前が魔女だと思ってる。海が怒ってお前を生贄に要求していて、海に投げるまで船は動かないという意見が大半だ。甲板で火刑式でもする勢いだった」
ひとまずローゼンは鉄格子の中の方が安全だと話すヘンリーに従って監獄に向かいました。ローゼンは既に睡眠薬を仕込んだ後だったので、ワイン樽だけでなく飲料水にまで入れておいて良かったと思いました。この雰囲気の中ではワインは飲まないだろうけど、飲料水ならいずれ飲むはず。そうすればこの船の人達はみんな眠るはずです。
鉄格子が開いてローゼンが中に入ると、ローゼンの綺麗な格好を見てマリアが声をかけてきました。マリアに外の事情を説明し、ヘンリーは鉄格子の外に座りました。
マリアはヘンリーに「あの海に落ちたら死ぬの?」と聞きました。ローゼンはリオリトンでしか暮らしたことがなくて、捕まる前は洗濯をする小川が見たことのある最大の水辺でした。もちろん泳げません。
「装備無しでこの海域に落ちたら5分で死ぬ。それは低体温症のためで…」
ヘンリーが答え終わる前に、闇に包まれていた監獄が一気に明るくなりました。群衆が灯りを掲げ、ヘンリーの頭に拳銃をつきつけます。
「拳銃はあなただけにあるのではない、ヘンリー・リービル」
灯りに照らされたその顔に、ローゼンは見覚えがありました。ジョシュア・グレコイ。相手はローゼンのことは知らないだろうけど、昨夜ローゼンに深い印象を残した男だった。
「監獄の鍵はあけられない」
頭に拳銃がつきつけられているのにそうヘンリーは抵抗しますが、鉄のてこを持った男たちが前に進み出ました。そこからローゼンが引きずり出されるのはあっという間だった。
ローゼンは必死に抵抗したけれど、ヘンリーと共に甲板の上に連れてこられました。グレゴイはローゼンを海に投げ入れ、それで魔獣がいなくなれば魔女だとわかると話します。その方法ではローゼンはどちらにしても死んでしまう。魔女なら監獄で待つことなく逃げていたとローゼンが主張しても状況は変わりませんでした。
数十、数百の瞳が、魔獣に取り囲まれたことに恐怖し、改善策を求めて魔女を投げ込むことを選び、ローゼンを見つめます。そこにはローゼンに親切にしてくれた船員もいたかもしれないけれど、ローゼンは恐怖の前では人の善意や良心がどれだけ簡単に壊れるか知っていました。
「皆さん!アレックス・リービルは数多くの戦争で勝利に導き、退役後も旅客船の船長として安全に乗客を運んできました。まさにそのアレックス・リービルの船が止まりました。これは可能なことでしょうか?」
グレゴイの言葉に、群衆の中から「船長は反対しています」と慎重な声が聞こえました。
「あの方は魔女を庇っているのでしょう。ところで、誰よりも乗客を大切にしている方が急にどうしたのでしょうか?庇うなんておかしくないですか?魔女の仕業でなけれは説明がつきません!」
ローゼンは時間を稼ぐ必要がありました。勝利は目前なのに、海に投げ込まれるわけにはいかない。しかし、ローゼンから守るように子供を後ろに隠す人や、必死にローゼンの視線を避ける人を見て、力が抜けてしまいました。
17歳から25歳。いや、もしかしたら一生彼らの前で叫んできた。
「私は魔女じゃない!」
そう、今はわかった。何の役にも立たなかった。壁に向かって叫ぶようなものだった。
ああ、どうせ魔女扱いされるなら、むしろ本当に魔女だったらよかったのに。そうしたら、ここから逃げることもできたのに。
ローゼンの前にはたくさんの人がいて、両側には船員がいて、ローゼンを縛っている。後ろは黒い海。逃げ場がなかった。そして、彼らだけの魔女裁判はどうやら終わったようでした。
これまでローゼンには時間があって、そこから血のにじむ手で希望を掴み、これまで逃げてこられた。しかし、その幸運さえ、もう使い果たしてしまったようでした。大人しく監獄にいるのではなく、隠れるべきだった。監獄の鍵はヘンリーとイアンとアレックスしか持っていない。ローゼンは無意識に彼らが自分を守ってくれると信じていました。
ローゼンは自分を掴んでいる船員の腕に噛み付き、心の中で、再会の約束を守れないことをエミリーに謝りました。
ローゼンは甲板から海に落ちないように必死に手すりに捕まっていた。ほぼ体はもう落ちかけていて、もう諦めるべきなのに。意味の無いことだと知りつつも、それでもしがみついていた。そこへ、「ローゼン!」と呼ぶイアンの声が聞こえました。
集まった人々の後ろに、赤いマフラーを巻いた真っ白な顔のイアンが見えました。イアンは人々をかき分けてこちらに向かっていた。その光景が、ローゼンには幻のようでした。現実であるなら、イアンは本当に正気では無い。大勢の前で「ローゼン」と呼ぶなんて有り得なかった。イアン・コナーはローゼンを助けることは出来ない。なぜなら彼は英雄で、魔女の味方であってはいけないから。
「ローゼン・ウォーカー!」
ローゼンはイアンがどう人々に思われるか心配になって、彼のことが本当に好きなんだと自覚しました。人々は進んでいくイアンを掴もうとするけど、それでも前に進み、手すりを掴んで目の前にやってきました。ローゼンの前で赤いマフラーが散った。
しかし、その瞬間。誰かが手すりを掴んでいたローゼンの手を踏み、そのまま海へ落下しました。イアンが手すりから身を乗り出して何か叫んでいる姿が見えたが、聞き取ることはできなかったし、ローゼンにはその言葉を聞き取れたとしても、もはやなんの意味もなかった。
海に落ちると水の流れがローゼンの全身を殴り、強い痛みが広がりました。溺れたからといって静かに窒息できるわけでもないので、あっという間に鼻と口に水が入り込む。エミリーが溺れた時は体の力を抜くと浮かぶと言っていたけれど、ローゼンは今そんなことができる状況ではありませんでした。
足の踏み場がないのがとても恐ろしかった。水を飲み込みすぎて胸が張り裂けそうで、すぐに頭がぼうっとしました。
短い時間の中で様々な考えが浮かびました。2度した脱獄のこと。このままローゼンが死ねば新聞に乗り、全帝国民が拍手するはず。こんなことになるんなら、なぜあんな苦労をしてきたのか。しかし、ローゼンは後悔はしませんでした。例えエミリーとの約束がなくても、ローゼンはスプーンで地面を掘っていた。生きたかったから。生きてずっと世の中に叫びたかった。たとえ認められなくても。
逮捕されることはローゼンにとって全く悲惨な事ではありません。逃げても帝国が追う限り、結局また捕まるし、永遠に幸せに暮らせる場所なんてないことをローゼンはわかっていました。しかし、逮捕されればまた法廷に立つことができて、ローゼンは発言権を得ることができる。誰にも認められなくても、それでも世の中に叫びたかった。叫ぶ瞬間だけは、胸に残ったしこりが少しは解けるから。
『私には罪なんてない!』
すぐに考えができないほど息が詰まって、ローゼンは死を覚悟します。そこに、明るく青い光を放つ魔獣が現れました。食べられることを覚悟したローゼンだけど、痛みはなく、魔獣はローゼンの襟を噛んで海面へと押し上げていました。海面で食べる意図でもあるのかと勘繰ったけれど、それよりもローゼンは生きたかった。魔獣の頭を踏み台にして海面を目指しますす。そこへ、救命具が海に投げ込まれたのが見えました。続いて、1人が海の中に飛び込むのも。
水面の中で見るカーキ色。軍服を着たその男を見て、ローゼンは驚きました。
私は生きてるのかな?
いくら幻想でもこんなことはなかった。これは幻想ではなく妄想の水準だった。流れに舞う黒髪、灰色の瞳。イアン・コナーだった。
彼は私が死ぬ直前に見る影のような存在に違いない。彼に近づいた瞬間、彼の暖かい胸に抱かれて動けなくなりそうだった。歌うセイレーンに取り憑かれて溺死する航海者のように。
思わずローゼンはイアンを押しのけるけど、すぐに硬い腕がローゼンを抱きしめました。ローゼンの考えとは違って、イアンはローゼンを下に引きずり込むことなく、海面を目指しました。あともう少し耐えれば。それでも限界を迎えたローゼンの意識が薄れ、ぐったりすると、イアンはローゼンの顔を掴みます。そして、イアンはローゼンの口を指で開け、息を吹き込みました。恵みの雨のような息。ローゼンの視界は明るくなり、そのまま意識を手放しました。
再びローゼンが意識を取り戻すと甲板の上でした。「息をして」というイアンの声が聞こえます。「お願いと言えば考える」とからかいたかったけど、ローゼンにはもうそんな力も残っていません。
「ヘンリー、毛布を持ってきて。船室に移す」
「お前、正気なのか?今は…」
「私と士官学校の時のように誰が先に死ぬのか賭けをしたくないなら黙っていることだ、グレゴイ」
言い争いの声を聞きながらローゼンはまた意識を手放して、次に目が覚めると船室のベッドの中だった。1番先に見えたのは、ストーブをローゼンの傍に運びながら涙を流すヘンリーです。
「ウォーカー、気がついた?呼吸できる?お湯、お湯を持ってこようか」
「今何時なの?」
ヘンリーは昼だと教え、ローゼンの体が氷のように冷えているのでお湯を飲むように進めました。ローゼンがそれよりもイアンについて聞くと、ヘンリーは顎でイアンを指し示します。イアンは背を向けて座っていました。元気そうに見えたので海に飛び込んだと思ったのはやはり夢だと思いました。けれど、イアンの毛先がまだ濡れているのをローゼンは見つけてしまいました。ローゼンはそのままヘンリーに尋ねます。
「どうしたの?」
ヘンリーは「わからない」と答えたあと、お湯を飲めとまた勧めました。どうやらローゼンが海で見たのは本当に現実だったようです。お湯を拒否してローゼンは布団に埋もれました。命は助かったけど、冬の海のせいでローゼンの体は冷えきっていました。言葉を吐き出そうとしてもままらない。
ヘンリーは無理矢理お湯を飲ませようとして、眠り薬が入っていることがわかっているローゼンがそれに抵抗していると、それまで石像のようだったイアンが立ち上がり、「出ていけ」とヘンリーに命じました。
「外で時間を稼げ。この状態で監獄に戻せば死んでしまう」
「……どうするつもりですか?」
「ドアを閉めて出ていけ」
ヘンリーが出ていって船室に2人になると、ローゼンは甲板でのことを咎めました。
「あんたは狂ってるに違いない。私を助けようと海に飛び込む?死ぬかもしれないのに。…しかもみんなの前で。なんて思われると思う?」
「勝手に考えるだろう」
イアンの答えを聞いて、ローゼンはイアンに対する印象を書き換える必要があると思いました。イアンがここまで衝動的だとは思っていなかった。
「あんたは狂ってるよ、イアン・コナー。ヤバいね」
「飲んで」
「飲まない」
ローゼンはイアンが持ったお湯のグラスを手で払いのけました。中身は床にこぼれ、イアンは怒るかと思ったのに、彼はローゼンをじっと見つめるだけでした。
「生きたいのか?」
ローゼンは心を見抜かれたようで、答えることができませんでした。
「答えて。生きたい?」
「あんたバカ?考えてみてわからないの?私は脱獄囚よ。私は1度も死にたかったことなんてない」
それは本心でした。
ローゼンの言葉を聞いてイアンは口を開いて言いました。では服を脱いで、と。
「え?」
無表情なイアンの顔を見て問い返すけれど、イアンはボタンを外し、上着を脱ぎ捨ててしまいます。
「生きたいなら脱いで」
ローゼンが固まっている間にイアンはベッドに上がり、ローゼンを抱きしめてローゼンの囚人服を脱がせました。下着にしこんだ睡眠薬を思い出したけど、どうやら海に落ちる時に無くしたようでした。
下着がベッドの下に落ちた。
彼の肌が私の体に触れた瞬間、私は彼の言った意味を悟った。素肌が触れた所から体温を取り戻し始めた。
寒さがおさまった。ストーブと比べ物にならなかった。私は本能的に、凍え死ぬ直前の小さな動物のように彼にしがみついた。私は彼の顔に頬を擦り付けた。彼は幸い、私を撫でて擦りながらも何も言わなかったし、淡白な手からは別の意図は感じられなかった。
逃げる直前だというのに病気になっている場合ではなかった。ローゼンはこれは神様が与えた最後のチャンスだと思いました。しかし、気を引き締めてもぬくもりが体に熔けた途端、現実と夢が入り交じり、ローゼンはまた気を失いました。
唐突に肌の触れ合い(人命救助)がやってきて鼻血吹くかと思いました。ごちそうさまです。
ローゼン17歳。
エミリーが死産して以降、ヒンドリーは完全にエミリーから息子を見ることを諦めたようでした。そして、その分ローゼンが苦しむことになりました。エミリーが毎朝決まった時間に渡す薬草を飲み、毎月やってくる血を夜明けに起きて罪人のように洗いました。
なぜローゼンが身ごもらないのかヒンドリーか疑わないよう、ローゼンはまだ初潮を迎えていない子供のふりをしていました。
薬はヒンドリーの種の定着を防いだけれど、ローゼンの成長まで止めてくれるわけではなかった。背が伸び、体重が増え、洗濯場で受ける視線が違うものに変わり、兵士たちから口笛を吹かれるようになりました。
ヒンドリーはローゼンに年齢を尋ね、ローゼンは「14か16」と曖昧に答えます。しかしヒンドリーはローゼンを連れてきた年を覚えていたので「17になのに子供ができないのは問題がある」と言いました。
「誰が言ったんですか?」
「みんなそう言う」
「その人たちは医者ですか?ヒンドリーの方がよく知っているじゃないですか。努力しているからいつかはできますよ」
ヒンドリーはローゼンを小突き、「売ってまた買って来なければいけないのか」と愚痴をこぼしました。ローゼンは相変わらずイアンの宣伝物を拾い集め、彼の放送を聞いていたけれど、前とは違った心境でした。
『こちらはリオリトン飛行隊。聞こえますか?』
「聞こえてるよ」
『私の名前はイアン・コナー。ここで私たち編隊はあなたを守っています』
「いや、あなたは遠すぎるよ。空にいるじゃん」
私は彼を見る度に大尉の瞳を思い出した。イアン・コナーに直接会ったら、彼も私に向かって同じ表情をするだろうか。
ローゼンは時々悪夢を見ました。以前のチケット売り場に戻され、そこには名前も知らない大尉のかわりにイアンが立っていて、「助けて」と言っても彼は冷たく背を向けます。
『お守りします。どこにいても』
そんなことは出来ないとわかっていたのに、ローゼンは一方的に裏切られたと思いました。残酷な現実を受け入れたくなかったから。
その冬、リオリトンに熱病が蔓延しました。果てしなく続く戦争のさなかで、食糧は底を尽き、人々は病魔に襲われました。毎朝目が覚めて窓を開けると、昨夜なくなった人が担架で運ばれていました。治療所は人で溢れ、エミリーとローゼンは寝る間も惜しんで働き、ヒンドリーは金を数えてニヤニヤしていました。
エミリーは患者の体液には触れるなと忠告していたけれど、看病していて完全に触れるなというのは無理がありました。最初にローゼンが倒れ、次にエミリーが倒れました。エミリーの熱は中々下がらず、ローゼンは泣きながら看病しました。
「……ねえ、ローゼン。これからどんな事があっても、あなたは必ず幸せに暮らさなければならない。わかった?」
エミリーは「不吉な事を言わないで」と言うローゼンの頭を撫でます。
「約束して。何があっても幸せに暮らすって」
返事を聞くまでは寝ないつもりのエミリーを無理矢理寝かせ、ローゼンは自分も仮眠を取りました。ヒンドリーからはエミリーの看病のせいで仕事が疎かになるのは許さないと言われていました。
目を覚まして薬草の保管場所に行くともう備蓄がありません。ヒンドリーはローゼンに薬草を取りに行くように命じ、ローゼンは1人で薬草を取りに向かい、夜遅くに帰宅しました。エミリーの部屋に行くと、動くことができないはずのエミリーの姿がベッドになかった。そのかわりにヒンドリーがそこにいました。
「エミリーはどこですか?」
ヒンドリーは答えずにローゼンの両頬を殴りつけ、ローゼンは床に尻もちを着きます。ヒンドリーは引き出しを探り、避妊薬に使う薬草を取り出したのを見て、ローゼンはバレたことを理解しました。「エミリーに貰ったんだな」と言われ、ローゼンは「私がひとりで手に入れたの!」と言ったけれど信じて貰えません。辺りを見回すと、エミリーの髪の毛が床に散らばっていました。
「エミリーはどこにいますか?エミリーに何をしたんですか?」
ヒンドリーはエミリーを倉庫に閉じ込めていました。エミリーが死ぬことを指摘しても聞く耳も持たず、ローゼンはヒンドリーに髪を掴まれてベッドまで引きずられました。
そうして、全てが終わったあと。ヒンドリーはローゼンの傷に薬を塗って囁きました。
「ローゼン、やめよう。私たちは幸せに暮らせるじゃないか。もちろん君はまだ幼くて…子供を持つことが怖かったかもしれない。だから今回は許すよ」
「エミリーは?」とローゼンが聞くと、ヒンドリーは「エミリーの話はやめて」と言いました。エミリーではなくこれからはローゼンだけを見ると言いながら。ローゼンが答えないでいるとヒンドリーは寝返りを打って寝てしまいます。
ローゼンはヒンドリーが眠ってから立ち上がり、密かに集めていた宣伝物を眺めました。それで紙飛行機を追って外へ飛ばし、ローゼンは夜空を飛ぶ紙飛行機を見つめます。
「もうわかった。あなたは私を守ってくれない。…誰も私を守ってくれない」
これは戦争だった。ヒンドリーかローゼンたちか、どちらかが死ぬまで終わらない戦争。息を殺してじっとしてもおさまるようなものではなかった。
ローゼンは寝ているヒンドリーを見下ろします。
ヒンドリーはローゼンたちをきっと殺すのでしょう。ローゼンたちが生きるためにはヒンドリーが死ななければならなかった。その事実を、ようやくローゼンは悟ったのです。
……世の中にはどうしようもないことがあった。
ヒンドリー・ハワーズは死ななければならなかった。
そう思わないか。
ヒンドリー・ハワーズは死んで当然の人だった。
正午、ヘンリーはイアンに軍部から届いた電報を伝えました。このまま夜まで魔獣が引かなければローゼンを処分するというものでした。
軍部はローゼンを捨てました。魔獣を操って乗客に復讐しようとした魔女を処分したというのも宣伝には悪くない話だからでしょう。
「人々の反応は?」
「監獄に連れていかなくてはなりません。卿まで一緒に拘束する勢いです。みんなが…もう卿を信じていません。魔女に取り憑かれたって」
「もう少し時間を稼いで。熱がもう少し下がるまで」
「頑張ってみます」
ヘンリーが船室を出ていくと、イアンは上着を脱いでベッドに戻り、またローゼンを抱きしめました。氷のように冷えていた体を溶かすと、今度は熱を出してしまった。外ではアレックスが耐えてくれているけれど、それでもアレックスはこの戦いには決して勝てないことをイアンは知っていました。大衆の強い圧力に勝てる者はいない。ひいては帝国への反抗にもなってしまう。
ローゼンは熱に浮かれてうわ言を口にしました。エミリーやヒンドリー、たまにイアンの名前が出て、その度にイアンは返事をします。そうするとたまに会話が成立することもありました。
「そこにいるの?今触ってるのはあんた?」
「……聞いている。言って」
「わあ、体が本当に最高ね。本当にあんたと寝たくなった」
「だからといって冗談を言わないで」
冗談じゃないのに、とローゼンは言いながら、どうして素肌をくっつけているのにイアンは彫刻のようにじっとしていられるのか尋ねました。ほかの看守だったらそうではなかった。
「お前の体調が悪くなかったら、私もそのように反応していたかもしれない」
「本当に?あんたの目にも私が魅力的なの?綺麗な人をたくさん見てきたでしょ?」
「こんな風に会わなかったら、私はお前を追いかけただろう」
ローゼンは咳き込んでから笑いました。
「本当?私の気分を良くする冗談じゃないよね?」
「冗談じゃない」
ローゼンは「水泳できたの?」とイアンに尋ね、イアンはパイロットは墜落する時に海に落ちるから泳げなくてはいけないことを話しました。
「士官学校では魔女を救うために水泳を教えたわけじゃなかったはず」
「……」
「外でみんながあんたを待ってる」
イアンは選択を思い出します。一方を選択すると、もう一方を失う選択。甲板でローゼンの名前を呼んだ時に、周りから向けられた視線に、イアンは一瞬凍りつきました。そして、その一瞬で、ローゼンが落下するのに間に合わなかった。
「望んだことはなかったが、人々に私が必要なら一生英雄として生きることが出来た。それが贖罪だと思った。私の手についた血に対する……でもそれを初めて後悔している」
ローゼンは笑って「大丈夫。あんたは悪くない」と慰めました。
「あんたはうっかり私に騙されたの。もう騙されないで。刑務官が囚人に優しく振舞ってどうするの」
「生きたいと言ったのも嘘か?」
「それは本当」
「それならいい。他のことは関係ない」
「コナー卿もついに焼きが回ったね」
ローゼンは元気なく笑って、また聞き取れないうわ言を言い始め、また意識を失ったのか、やがて目を閉じました。
「……新聞に載っているお前の写真を持ち歩いていた。複雑な感情じゃなかった。私は……ただお前に会いたかった」
「………」
ローゼンは寝たフリをしていたようで、イアンの方に寝返りを打って咳をしました。
「欲しいものはあるか?」
イアンが水を勧めてもローゼンは断り、かわりにタバコを要求するけど、それは咳が酷くなるからとイアンが却下しました。
「じゃあ声を出して」
「……何の声?」
「放送用。あの時の放送のように。聞いたら元気が出ると思うから」
ローゼンはイアンの腕にしがみつきました。こんな状況なのにローゼンは自分ではなくイアンを慰めます。
「良くなるから。あんたは最善を尽くした。戦争は終わった。もう大丈夫だし、元気になるよ。だから私にもリオリトンにも罪悪感を持たないで。わかった?」
イアンは初めてマイクの前に立った日を思い出しました。当時は指示された内容を読むだけの若造だった。
「ここはリオリトン。私の名前はイアン・コナー。飛行隊の司令官です」
「………」
「お守りします」
魔女を抱えて始めた放送の台詞は、声が震えました。
「……あなたは安全です。私が守ります」
ローゼンの手がイアンの目元に伸びた。そこで初めてイアンは自分が泣いていることにことに気がつきました。
午後、船室の扉が開いてヘンリーがやってきました。イアンはローゼンを連れていくようにヘンリーに命じます。毛布を入れることも忘れずに伝えながら、イアンはポケットに入れた金貨を取り出しました。そして船室の窓から黒い海を眺めます。考えるのはイアンの得意な事でした。
12章 告白 前半
エミリーの夢を見ました。ローゼンはエミリーの元に走り、膝に頭を埋めます。
「エミリー、どうして最近夢に出てこなかったんですか?私は本当にエミリーに会いたかった」
「ローゼン、起きて」
いつもは抱きしめてくれるはずのエミリーはローゼンの体を押し返しました。そして「起きてこそ私に会える」とエミリーは言います。もうすぐ着くからと。
「ワルプルギス島はモンテ島の近くにある。それがどういう意味なのかわからない?もう本当に私が目の前にいるの。だから夢にも出てきたんだよ」
ローゼンは約束のために動いてきたけど、まさかエミリーが辿り着いてるなんて思っていませんでした。もうエミリーが生きているという希望さえ捨てていました。これが頭で作りだした幻想なのだとしたら今度こそ死んでしまいたいとすら思いました。
「じゃあなぜ私をもっと早く迎えに来なかったのですか?」
「ごめんね。ここまで来るのはあなた1人でやるべきことだったの。卵から出てくるひよこと同じ」
「ワルプルギス島の正確な座標は誰も知りません。魔女だけが接近できるんでしょ」
「あなたも知ってるよ。辿り着ける。本当にもうすぐだよ、ローゼン。お疲れ様。もう少しだけ耐えて。私が迎えに行くから」
エミリーはローゼンの涙を拭い、そのまま遠ざかります。
ローゼンは魔女になりたかった。魔女と呼ばれるなら実際にも力が欲しかった。けれど本当はエミリーと同じ存在になりたかったからでした。
ローゼン、と呼びかけられて目を覚まします。
「ローゼン・ウォーカー起きて。今寝てる場合?みんなが白ワインを飲んだよ」
とても長い夢を見ていたようだった。マリアに白ワインのことを教えられてもまだぼんやりとしていました。肩には高級な毛布がかかっていて、そこでローゼンは現実に立ち戻ります。監獄にこんなものをくれる人は限られる。
マリアは午後から酒を飲んでた酔っ払っいはもう眠っていて、甲板にいる人々ももうすぐ眠るとローゼンに教えました。それでも甲板にいる人々全員が酒を飲んだのが信じられないでいると、マリアが説明してくれました。
「船がこんなに静かなのを見てわからないの?供え物として捧げるのが怖くて飲んだんでしょ。いくらなんでも正気じゃ人を海に落とせない」
それからマリアは監獄の片隅を指さします。そこには猫ほどのサイズの生き物がいました。両生類に見える黒い魚。赤いエラとウロコをつけいるので魚にしか見えないのに、足が4本もついていました。その魔獣はローゼンがつけていたネックレスをくわえています。海に落ちた時に無くしたと思ったのに。
「拾ってくれたの?」
返事なんてかえってこないと思ったのに、魔獣はそのまま頷きました。ローゼンの手のひらにネックレスを落とした魔獣は、鋭い歯が並んでいるのに飼い慣らされた獣のようだった。
ローゼンは夢でのエミリーの言葉と目の前にいる魔獣を見て笑いました。
「一人の血」はヒンドリー・ハワーズ。
「一つの願い」はイアン・コナーがくれたケーキの前で祈った願い。
そして「一度の魔法」。ローゼンは既にふたつの条件を満たしていました。魔法がどれかはわからなかったけれど、とにかくローゼンは魔女になっていました。ローゼンが願いを頭に思い浮かべると鎖がひとりでに砕け散りました。
「マリア、見た?私が魔女だって!なんと!本物の魔女だった!」
魔獣はエミリーが送った迎えだと理解しました。そのまま自分についてくるような仕草をする魔獣を見てから、ローゼンはマリアを見て魔法を使おうとしました。けれど、それをマリアは首に降って拒絶します。
「ローゼン、力を無駄にしないで」
「私ひとりでこのまま行く訳には行かない」
「いや、あんた1人で行くんだ」
マリアの助けがなかったらローゼンはアルカペズを脱獄することはできませんでした。これはローゼンの人間として最低限の義理でした。けれど、マリアは断固として拒否します。
「私はモンテ島に行くよ」
「そこに行ったらみんな死ぬよ。誰もそこを生き残ることは…」
「じゃあ私がその最初の囚人にならなくちゃ」
「……」
「私は一生監獄で生きてきた。そこを支配して王になって生きてきた。今更くだらない外に脱出しろって?面白くないよ、それは」
マリアが大笑いする様子を見て、ローゼンは改めて「アルカペズの魔女」はマリアにこそ相応しい称号だと思いました。
「あんたはどうかわからないけど、私はあんたの事が今までかなり好きだった、ローゼン。何故か知ってる?」
「……私が脱獄囚だから?」
「いや、あんたが私のようなバカげた嘘つきで、本当に悪い女だからだよ」
「悪口?褒め言葉?」
「ローゼン・ウォーカー、よく聞いて。いい年になれば天国に行くだろう。でも、絶対にいい年にならない私たちのような悪い年寄りはどこにでも行けるんだよ」
「……」
「どこでもね。あんた、もしかして死んでから病める天国に行きたいの?」
「いや、全然」
「じゃあ振り向かないで行って。後頭部を叩いて逃げるのがあんたの得意技じゃない。行きたいところに行って」
マリアと話しているとヘンリーがやって来て、魔獣は影に隠れてしまいました。ヘンリーはローゼンの鎖がないことに気づかないほど動揺しているようで、監獄の鍵を開けると「時間が無い。ついてこい」と言い、ローゼンを連れて機関室を目指しました。
「機関室にはコナー卿がいる。会って最後にキスをするか話をするか勝手にしろ。卿がお前に会いたがっているだろう」
ローゼンは聞かないでおこうと思っていたのに、結局「どうして」と聞いてしまいました。ヘンリーは「お前は有名な脱獄囚だろ」と言います。
「このまま放せば、ここからでも逃げられるか?」
「なんでそんなこと言うの」
「お前はライラを助けただろ。命には命で返さないと」
イアンに許可を得ているか尋ねるが、ヘンリーは答えませんでした。ヘンリーの独断だと悟って、ローゼンは「イアン・コナーがまさかこんなことを放っておくと思うの?あんたの上官は私的な感情で任務を放棄すると思うの?」と聞きます。
ヘンリーは「違うよ」と答えながらも、島に行ったら本当にみんな死ぬのかローゼンに尋ねました。マリアほどの人でない限り、とローゼンは答えます。ローゼンも脱獄を何度もやってのけた有名な囚人だけど、マリアとは系統が全く違う。
ヘンリーは自分ではローゼンを解放できないことがわかっていました。それでも、何かをしたくてここまで連れてきたのでした。ローゼンはヘンリーの頭に手を伸ばすと、彼は腰を屈めてくれたのでそのまま撫でました。
「あんた、話が本当に下手ね。でもありがとう」
「頭はどうして撫でるの」
ヘンリーはもう泣きそうだった。彼は心が弱すぎる。ローゼンはヘンリーに時間を尋ねたあと、酒を飲んだどうかも聞きました。ヘンリーは任務中だというのに飲んでいた。そして、ほぼ全員が酒を飲んだことを教えてくれました。
「コナー卿は飲んだ?」
「知らない。私はずっと閉じ込められていたから。でもお前が海に投げ込まれるんだから飲んだかもしれない」
「そうだといいな」
ローゼンは前を歩くヘンリーを見ながら心の中で「眠れ」と10回唱えたけれど、ローゼンが使うには高度な魔法だったのか効き目がなかった。しかし、それ以上悩む必要はなく、ヘンリーはやがて睡眠薬の効果によって床に倒れました。
「あんたに責任はないよ。苦しまないで。私にはちょっと間違ったことをしたけど……だから引き分けにしよう」
ローゼンはそう言ってヘンリーの額に口付けを落としました。照れくさかったけど、魔女のキスを受けた者は海に落ちて死なないという話があったから。ヘンリーはかつてはパイロットで、今は所属を変えて海軍なのだから話が本当なら役に立つ。ヴァールブルクが愛するのは女の子だけなので効果があるかは分からないけど、それでもヘンリーの無事をローゼンは願いました。
ローゼンはヘンリーから時計と拳銃を奪って先を急ぎます。向かうのは機関室ではなく甲板。そこには人が転がっていて、ローゼンはそのまま突き進みます。頭に浮かぶのは『ローゼン・ウォーカー!本物の魔女だった!魔法で船を止め、人々が眠ってしまった間に再び脱獄する!』という新聞に乗りそうな記事の内容だった。完璧な話。魔女だと知らないイアンもこれで言い訳が立つはず。
救命ボートの前までたどり着くけれど、それをどうやって海に下ろして浮かべるのかがローゼンにはわかりませんでした。壁にはレバーと歯車が数え切れないほどついています。アレックスは救命ボートにたどり着いた時に自分の船から切り離す方法までは教えてくれませんでした。アレックスにとって、それは当然すぎることだったのでしょう。魔獣に聞いてみるがまともな答えは帰ってきません。
そこへ、靴音が聞こえた。軍靴の鈍い音。
ローゼンは振り返って拳銃を向けます。暗闇の中、ガス灯の光の下に照らし出された顔を見て、ローゼンは苦笑いをしました。
イアン・コナー。彼の姿を見ると、ローゼンはまだ下がりきってない熱がぶり返したのか、気が遠くなる気がしました。
「手をあげて」
「………」
「手をあげて、イアン・コナー。私が今銃を持っているのが見えない?」
イアンは両手をあげたけど、拳銃にもローゼンの連れてる魔獣にも驚いていません。そのまま躊躇うことなくローゼンに近づいてきます。
「手をちゃんとあげて!近寄らないで!」
「ヘンリーのか?」
「なんの関係があるの!」
「……それは空砲銃だ。装填されてない」
イアンがあげた手をおろしてベルトにかかった拳銃に手をかけます。撃ち合いになれば誰が勝つかは明らかだった。崖まで追い込まれたローゼンはイアンに引き金を引きました。
しかし、弾は発射されることなく音だけ響きました。
イアンの言う通りだったことに気づいて、ローゼンはその場に座り込みます。反射的に頭を腕で隠してぎゅっと目を閉じ、魔法が使えることさえ忘れた。しかしいつまでも静かなので顔を上げると、イアンはローゼンの目の前にしゃがんでいました。
「これは実弾だ」
イアンは自分の握っていた拳銃もローゼンに渡しました。
「装填されてるから簡単だ。引き金を引けば終わる」
イアンはローゼンに拳銃を握らせ、そのまま腕を引っ張ってイアンの頭に拳銃を当てました。
「……何してるの?」
「不安なら撃ってもいい」
「あんた、本当におかしくなったの?」
「話がしたくて」
「私はあんたと話すことなんてない」
「私はある」
イアンはポケットから金貨を取り出して、それがローゼンがライラにあげたコインだったものだと説明しました。ローゼンは「一度の魔法」がコインを金貨に変えたことだと気づき、イアンがローゼンが魔女だと気づいたことを理解しました。
「あなたも機関室に閉じ込められたんじゃないの?」
「閉じ込められてない。お前を海に投げることに結局同意したから」
ではなぜイアンひとりが眠ることなくここにいるのか。ローゼンはそれを考えて笑いました。なぜ全員がこうも上手く眠ったのか、なぜイアンだけ起きているのか、わかってしまったから。
「あんたがみんなにワインを飲ませたの?」
イアンは答えなかったけど、それこそが答えでした。イアンはローゼンの話を信じて、ローゼンの無罪を信じて、ローゼンが魔女では無いことを信じました。
「あんたは間違ってる。私は本当の魔女だよ」
「あれがお前に従ってるのを見ると、そうみたいだな」
ローゼンは自分に何をして欲しいのか、これからどうするのかイアンに尋ねました。イアンはローゼンが望むのなら再び裁判を受けられるよう努力すると話しました。
「皇帝と知り合いだ。士官学校の同期だよ。そして皇帝には裁判所に特別裁判を求める権利がある」
「ああ、あのかかし皇帝?」
ローゼンは政治について詳しくなかったけれど、皇帝が何の力も持っていないことは知っていました。例え裁判をやり直したところで、結果は変わらない。それはイアンも知っているはずです。
「どうしたの?あんた一体何が欲しいの?」
イアンがローゼンのためにしてきたことが何を意味するのか、それに気づくことがローゼンは怖かった。けれど、イアンはローゼンを信じ、ローゼンのために帝国を裏切り、命を今握らせている。だから、ローゼンもイアンを欺瞞することはしたくありませんでした。
欺瞞(ぎまん)…あざむくこと。だますこと。
引用:goo辞書
「真実を知りたいの?」
「……」
「あんた、私が何を言っても信じられる?」
「構わない。だからなんでも言ってくれ、ローゼン」
人々は正しくて、ローゼンは嘘つきでした。今ではローゼン自身でさえ、何が真実なのかわからないほど。しかし、それでもまだローゼンが保管していることがありました。ローゼンの人生を奈落に落とした罪であり、同時に誇り。
ローゼンはヒンドリー・ハワーズ殺人事件の真犯人でした。
強盗でも、エミリーが犯した罪を被ったわけでもありません。ローゼン1人がやったのです。
私は17歳のときに計画的に悪意を持ってヒンドリー・ハワーズを殺した。ナイフで彼を36回刺して残酷に殺害した。それでも数年間、厚かましく無罪を主張し、2度の脱獄をして帝国を混乱に陥れた。
私は誰にも打ち明けなかった事実を初めて口にした。
「私は殺人者だよ。 ヒンドリー・ハワーズは私が殺した」
それがこの瞬間彼に私が言える唯一の真実だったからだ。
「イアン、あんたは騙されたの」
3巻前編を読んだ感想
ついに最終巻に入りました!いろんな方向に叫んだ回で、楽しかったけど、とても疲れました。次は過去に戻って真相を明かしつつ、ローゼンの脱出がどうなっていくのか、という話になります。できれば次の記事で本編完結まで持っていきたいと思っています。そのあとは外伝が続いていく予定です。
それにしてもローゼンの行動は本当に健気ですね。自分を助けにきたイアンに感謝するのではなく、むしろそれによってイアンの立場が悪くなることを心配するなんて、中々できないことです。
体調が悪い時でさえ、イアンを苦痛から解放しようとしています。本当に好きなんだなあ、と思って涙腺緩みました…。
ヒンドリー殺害事件の犯人については漫画連載を追っている方のために、Twitterなどでは伏せておいてもらえると助かります。ネタバレありきの感想はここのコメント欄などをご活用ください。
次回の更新は来週を予定しています。更新はtwitterにてお知らせします!
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