原作ネタバレ

「元夫の番犬を手なずけた」韓国の原作小説ネタバレ感想 |1巻・前編

コミカライズ連載している「元夫の番犬を手なずけた」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。

(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)

元夫の番犬を手なずけた(전남편의 미친개를 길들였다)

原作:Jkyum

1.復讐

気がつくと、ラインハルトは過去に戻っていました。目の前には15年前に死んでしまった父親が棺桶に入っています。もう記憶からも薄れて、夢にも現れない父親の顔が、すぐそこにありました。

夢だと思ったので思い切り泣き、気絶し、また目を覚ますと泣きました。周りが自分を見て何と言おうと気にもならなかった。

そんなラインハルトに向かって「離婚してほしい」と男が言いました。男はアランカス帝国の皇太子であるミシェル・アランカス。ラインハルトの夫でした。

ラインハルトはそこで違和感を覚えました。なぜなら全てが15年前に自分が体験した記憶だったから。

「今それが私の父の棺の前で言うことですか?ミシェル・アランカス。私の父はあなたのかわりに戦争で亡くなりました」

「アランカスの将軍としての責務を果たしたのだ」

胸が怒りで張り裂けそうになり、ラインハルトは15年前には言えなかったことを吐き出しました

「皇太子としての義務を投げ捨てたあなたのせいで死にました」

「言葉に気をつけろ」

「あなたこそ言葉に気をつけて、ミシェル・アランカス!」

ラインハルトの父親であるリンケ侯爵は娘にこの国で最高の地位を与えたかった。ミシェルの隣はラインハルトが12歳の頃から自分のもので、愛する間柄ではなかったが、ラインハルトは悲しがったこともなかった。政略結婚とはそういうものだから。この国の最高の女性として生きていくことに、愛のような虚しい感情を望んだこともなかった。

しかし、ラインハルトはこの瞬間から15年間、ミシェルを憎悪しながら自分の父の判断を疑った。父が選んでくれた男は、果たしてこの国の最高の男だったのか?

ミシェルはリンケ侯爵の死に対する補償として、裕福なヘルカ地方と100万アランカ(帝国での通貨)を与えると言いますが、ラインハルトは納得できませんでした。

「私が、このリンケ侯爵家が100万アランカが欲しくて今あなたに怒っているように見えますか?命には命で。カナリア公女の命を持ってきて」

ミシェルはアランカス帝国に人質として来たドルネシア・カナリアを溺愛していました。そのカナリア公女のワガママのせいで、ラインハルトの父は命を落とすことになったのだから、命で償うべきだとラインハルトは思いました。

「あなたの首を差し出して。切って犬の餌にするから。そしてあなたの目玉を漬けた酒をカナリア公女に飲ませる。飲み終わった後は裸足でサワラク砂漠に追い出す。あなたの死体がそこに埋まっているはずだからカナリア公女も幸せでしょう」

顔色を変えて「ラインハルト・デルフィーナ・リンケ!」と憤慨するミシェルに、ラインハルトは自分の名前を呼ばないでと言いました。リンケ侯爵はラインハルトを溺愛していて、本来ならば嫡子につけるべき名前をラインハルトに与えてくれた、大事な名前でした。

『私の愛する小さなアップルパイ。お前をこの国で一番高貴な女性にしてやろう』

その暖かい声を思い出して涙が流れ、我慢できなくなったラインハルトはミシェルの頬を拳で殴った。ミシェルが手を挙げるが、ラインハルトも負けじと膝を足で蹴る。ミシェルは暴れるラインハルトの首を絞め、抵抗できなくなったラインハルトを床に投げ捨てた。棺桶の蓋が落ち、ラインハルトは父親の剣を見つけてミシェルに斬りかかりました。

事の発端は、カナリア公女によるワガママだった。

アランカス帝国はサワラクとの塩供給契約を結んでいたが、カナリア公女が自分の公国(カナリア公国)の塩を買って欲しいとねだり、ミシェルはカナリア公女の願いを聞き、それを不満に思ったサワラクでデモが発生しました。

皇帝は頭を痛め、皇太子に直接出征して解決するように命じたけれど、行きたくなかったミシェルは義父であるリンケ侯爵を代わりに行かせることにした。

すでに引退していたリンケ侯爵だったが、自分が出征するかわりにカナリア公女との関係を解消するように頼みました。リンケ侯爵は帝国領土を数十年守ってきた百千老将でしたが、乗っていた馬が暴れ、落馬して命を落としました。

そうしてその補償としてヘルカの土地を渡され、離婚となったラインハルトはそこからヘルカの領地にしがみついた。ヘルカは首都から遠く、裕福で広大だったため、ラインハルトはそこで密かに兵士を育てて反乱を計画していた。しかし、ラインハルトは酷い風邪をひいてしまった。

「ミシェルの子供に一度でも会えたら」

その首に一突きしてやるのに、とラインハルトはベッドの中から願った。すでに40歳近くになっていたラインハルトは自分の死期が分かっていたけれど、「私に機会さえあれば」と願い続けた。

そして、目が覚めるとどういうわけか15年前、ミシェルに離婚を切り出された24歳の頃に戻っていました。

ミシェルの右足に剣を突き刺し、悲鳴をあげるミシェルの声を聞いて、ラインハルトはこれが夢ではないことを理解しました。

そうして15年前とは違って、ミシェルの足に傷を負わせたラインハルトは帝国の監獄に閉じ込められました。ラインハルトの侍女だったヨハナが様子を見にやってきて、ミシェルが右足を使うことが出来なくなったのだと教えてくれて、ラインハルトは大声で笑いました。報復として受けた拷問の痛みも忘れるくらいの喜びだった。その命を終わりにできなかったことだけが残念ではあったけど、爽快だった。

そうしてラインハルトは皇太子妃の地位とリンケ侯爵家に下された権限を剥奪されるという宣告を皇帝から受けました。皇帝はラインハルトの母方であるペールドン家の嫡子が亡くなり、その権限がラインハルトに渡ったので、それは剥奪しないと言います。

「ラインハルト・リンケの首都居住権も剥奪し、ペールドン家の領地であるルーデンに追放する」

ルーデンは帝国の東北側にあり、領土は広大だが半年は雪が降る残酷な土地で、ペールドンの領地で最も不毛な土地だった。そこで凍死しろという事だとわかるとラインハルトは呆れて笑いが出ました。

「罪人は皇帝陛下に感謝を捧げ、死ぬまで、そして生まれ変わって死んで、また生まれ、竜がフラン山脈の上に昇るまで罪を悔い改めなさい」

代理人は判決の最後を締めくくる慣用句を投げた。ラインハルトは鼻で笑った。

死ぬまで、そして生まれ変わって死んで、また生まれて竜がフラン山脈の上に昇るまで。アランカスを呪うだろう。

2.ビルヘルム

ラインハルトに残ったのは母親から受け継いだ宝石箱と父親の剣ひとつだけだった。ヨハナは家柄が良く、宝石にも詳しかったため、ラインハルトはヨハナに宝石を買うように頼み、そこから得た金で馬と服を買いました。ルーデンまでは道のりが遠いため、ヨハナが傭兵をひとり付けてくれました。

ミシェルは2日や3日も持たないと予想していたようだったけど、首都を離れて1ヶ月半経過したが、ラインハルトは生きていた。以前のラインハルトだったならば、ミシェルの予想通り、身を投げ捨てていたかもしれないけれど、今回のラインハルトは違った。

ルーデンまではあと山を2つ越える必要がありが、まもなく帝国東北部が冬にはいるため悪天候の中を進むことになりました。

最初は大口を叩いていた傭兵は、段々とイライラするようになり、ルーデンに急いで向かおうとすると文句を言い出すようになりました。

「私はもう行けません」

「……ヨハナからお金を貰ったんじゃないの?」

「契約の2/3は遂行したので有効です。それと帰る旅費を頂きたい」

「はあ?」

怠け者のくせになぜ山をここまで登ってきたのかをラインハルトは理解しました。人が少ない東北部の山で契約終了を宣告し、さらに強盗までするつもりだったのでしょう。そうして傭兵に金や剣を渡したラインハルトですが、傭兵はさらにラインハルトを汚そうと襲いかかってきました。必死に抵抗していると鈍い音が聞こえた後に、傭兵が血まみれになって倒れました。

ラインハルトはそのチャンスを逃さないよう床に落ちた剣を拾って鞘から抜き、傭兵の背中に突きさしました。男が絶命し、ようやく周りを見ると、傭兵の頭のそばに大きくて硬い木の実が落ちていました。

誰かが助けてくれたのだろうと思って周りを見渡すと、真っ黒な塊がいた。ぐちゃぐちゃに伸びた髪、長い間洗っていない衣服を来ていて、ラインハルトはそれが魔物ではなく人間なのだと判断すると「助けてください!」と叫びます。

「私はルーデンに向かっています。欲しいものは全部差し上げるので助けてください!」

北部国境の向こうにはアランカスの数十年間敵対してきた野蛮族がいるという。野蛮族は極寒の冬に耐えられず人喰いするとも聞いていたので、もしかしてその野蛮族かと思ったけれど、塊はラインハルトに近づいてラインハルトの左手を握ると、そのまま自分の口の中に入れました。

食べられると思ったラインハルトでしたが、塊はラインハルトの怪我をした指を辞めていた。そうして今度は同じように怪我をしたラインハルトの左足に顔を近づけるので「辞めて!」と叫びます。

すると塊は「やめて」とラインハルトの言葉を繰り返してラインハルトを見上げたので、塊が自分を害するつもりが無いのだとラインハルトは理解しました。

塊は12から13歳くらいの子供だった。血のついた木の実を見せると頷いたので、ラインハルトはお礼を言い、死体から剣を引き抜こうとしました。しかし中々抜けず、子供に手伝ってもらうと簡単に抜くことが出来た。傭兵の血まで舐め出すのではないかと慌てたけれど、子供は血を気にすることなく剣をラインハルトに渡しました。

感謝の気持ちとして頭を撫でようと手を伸ばすと、子供は身をかがめてうずくまってしまい、ラインハルトはこの子供が誰かに殴られることに慣れていることに気づき、慌てて「違うよ」と言いました。

「殴らないよ」

「…….」

「殴らない。本当にありがとう」

ラインハルトが「ありがとう」と繰り返すと、光っていた子供の目が大きく揺れました。

その後、ラインハルトはルーデンに向けて出発したが子供もなぜかラインハルトの後ろをついてきました。夜、火打ち石を使って火をつけると、「ひゃあ」と子供が声を出しました。「寒いからこっちにおいで」と呼んだが遠くから見ているだけだった。しかし、ラインハルトが火打ち石を打ち付けているとまた口を開くので、ラインハルトは火打ち石を子供にあげた。その夜は一晩中打つ音がひびき、ラインハルトは眠れなかった。

子供はそれからもずっとラインハルトの周りをうろついていた。ラインハルトが途中で村に立ち寄ると幽霊のように消え、山に登ればまた現れました。

村でラインハルトはパンを2つ買いました。子供はラインハルトには近づいてこないのでパンを子供に向かって投げ、ラインハルトも自分の分のパンをわざと地面に落とし、拾って土を叩いて食べるふりをすると、子供はラインハルトを真似してパンを叩いてから食べました。

ルーデン城にラインハルトが到着できたのは子供のおかげでした。子供は地図に沿って行くラインハルトに「ちがう」と言い、試しに子供を追いかけると村があったり、獣道に入っていったりもしたけど、子供が教えてくれた道のおかげで道のりが飛躍的に短縮できました。

ルーデンの城下町の前まで来たラインハルトは子供の手を握り、しゃがんで目線を合わせ、「私と行こう」と誘います。

子供がもがくので「パンをたくさんあげる」と言って大人しくさせ、「パン」と言葉を繰り返すと子供はようやく力を抜き、ラインハルトの手をぎゅっと握った。

そうしてラインハルトがルーデンの城内に入ると、代々ペールダン家からルーデンの管理を任されてきたサラという婦人が挨拶をしました。子供について「私の命を救ってくれた子なの。よく洗って…」と言っている途中で、悲鳴が聞こえ、窓から除くと子供が全速力で走って逃げいるのが見えました。それを見て笑いながら、サラ婦人に「パンをたくさん用意して」とラインハルトは頼みました。

女中たちでは子供が暴れて逃げてしまうので、ラインハルトは下着だけになって子供と浴場に来ました。子供をお湯に入れようとしても言うことを聞かないので、ラインハルトは子供を抱きしめてそのまま自分ごと湯の中に入った。

人を洗ったことがないラインハルトだったけれど、大人しく子供はラインハルトに身を任せていて、そうしてぐちゃぐちゃの髪の毛から出てきた顔は意外とすっきりとした少年の顔でした。

少年の体には大きな傷もあり、誰かに虐待された痕跡があった。「ちがう」「うん」程度の言葉しか話せない子供がどれだけの虐待を受けたのかラインハルトは考えました。

子供を洗っていると指輪をつけているのを見つけ、もしかしたら出生がわかるかもしれないと思い、保管することにしました。子供を洗い終えてラインハルトも洗うが、監獄で受けた拷問の傷は治ることはなく、傭兵に襲われた際に受けた足の傷も痛みがあった。傷はどれも凄惨で、傷跡も残っています。

子供がラインハルトの足の甲を叩くので、その温もりが父親を思い出させました。

『おやすみ、可愛いアップルパイ』

眠れなかった夜、ラインハルトの肩を叩いてくれた父親のぬくもりを思い出し、ラインハルトはお湯に頭を浸して泣きました。子供はラインハルトを見つめ、ラインハルトの肩を軽く叩きました。

監獄に入れたれた際に、ラインハルトは報復として膝に怪我を負わされていました。怪我は悪化し、首都を発つ前までは足がうまく動かないほどでした…。

ルーデン城に来てから2ヶ月が経過しました。ラインハルトがルーデン城の生活に慣れたように、子供も慣れました。ラインハルトだけに盲目的に従う子供は、夜はラインハルトと離れると泣き叫んだけど、ラインハルトが懇々と説得し、ようやく別の部屋で眠るようになりました。それでも勝手に窓から入って、ラインハルトのベッドにパンを置いていくのは辞められないようでした。

ラインハルトは今回の人生で復讐を遂げるつもりでした。前回はミシェルは皇帝となり、カナリア公女は皇妃になって子供を三人産んでいました。そのためにはルーデンで燻っているのではなく、まずは今の領地を理解するために動くほうが良いと判断しました。

ルーデンでは冬は既に始まっていて、もうすぐ感謝祭を迎えます。主な特産品はじゃがいもとトウモロコシ、麦だったが、領地内での消費に留まっており、開墾できる土地が少ない。

金があってこそ復讐できるというのに、ルーデンは金になるようなものが無かった。

サラ婦人が部屋にやって来て、子供を知っている者が見つかったので、分かったことがあるのだと報告しました。子供は平民の出身ではなく、ルーデンから離れたコルーナ子爵家の息子だと言った。コルーナ家は野蛮族に襲われて没落し、そこの娘は生き延びたが子供を産んで首を吊ったのだと話しました。

「あの子の名前はビルです」

ビル・コルーナ。ラインハルトはその名前に聞き覚えがありました。ある日突然現れ、アランカスの戦争英雄となった男。野蛮族とのハーフだと言われていて、ミシェルの番犬とも呼ばれていたが、ラインハルトは本当の出自を知っていました。ビル・コルーナは野蛮族とのハーフではなく、皇帝の私生児だった。

ラインハルトが反乱を起こせなかった理由はまさに、ビル・コルーナでした。ミシェルは簡単に人を突き放すので、お金さえ出せば簡単に情報が手に入ったし、リンケ侯爵の死に憤る者もいたので、反乱に成功する自信があった。しかしそれはビル・コルーナが現れるまででした。

皇帝は約17年前に北部視察に赴き、そこでコルーナ子爵に随行した娘と出会い、娘は子供を産むが、それを知った皇后が手を打ちました。しかしビル・コルーナは生き残り、ミシェルが34歳の時に自分の騎士にした。

ビル・コルーナは広大な領土をミシェルにもたらし、野蛮族も彼の名前を聞けば領土侵略を起こすこともなかったが、ラインハルトもそれは同じで、ビル・コルーナに挑む自信がなかった。ビル・コルーナは1万の兵士を指揮し、野蛮族の本拠地を全ておさめ、そうして高まった名声はミシェルのものとなり、ミシェルは国民の歓声と声援に包まれて皇帝となりました。

「それが本当なら…」

ラインハルトは父親に感謝しました。子供が本当にビル・コルーナなら、復讐のために父親が行った采配だと思いました。

子供を前にしたラインハルトはサラ婦人の確認を取りながら、子供が少なくとも16歳になるのだとわかり、もっと幼く見えていたので驚きました。

子供は他人を怖がるのでサラ婦人には退室してもらい、ラインハルトは目線を合わせて改めて子供の顔を見てみました。子供の右眉には傷があり、まるで眉毛が切れているように見える。それはビル・コルーナにもあったものなので、やはり子供がビル・コルーナなのだとラインハルトは思いました。

「ビル…、ビルヘルム。そうだね、ビルヘルムがいい」

ラインハルトがそう言いながら頭を撫でると、ビルヘルムは笑顔を見せました。

ラインハルトに執着する少年に自ら名前を与えてしまったので、さらに執着を強める結果になったような…。とはいえ、名前をつけてもらって喜んでいるビルヘルム可愛いですね。

ビルヘルムには教育が必要でしたが適切な教師が見つからず、ひとまずラインハルトが教えていました。渡していた石版を見ようとすると隠されるので、ラインハルトはビルヘルムを抱きしめて強引に覗き見ます。たまにビルヘルムは恥ずかしそうな様子を見せて後退してしまうこともあるけれど、ラインハルトの言うことはよく聞きました。

ラインハルトはミシェルがどうしてビルヘルムを自分の騎士に抜擢したのかが不思議でした。おまけに私生児だということも知っていたし、そもそもビルヘルムが生き残ったことも釈然としなかった。

そうして考え込んでいるラインハルトの前に、文字がびっしりと書かれた石版をビルヘルムが差し出していました。

「もう終わったの?すごいね」

頭を撫でると、ビルヘルムは「ちがう」と言ってラインハルトの額を触ります。理解出来ていないラインハルトに焦れて、ビルヘルムは自分の額をラインハルトの唇に押し付けました。

そのまま真っ赤になって走り去ったビルヘルムに、「子供なのに可愛いことするね」と言ってラインハルトは笑いました。

感謝祭の朝、ラインハルトに訪問客がやってきました。リンケ侯爵家に長く仕えた家臣の一人であるディートリッヒで、幼なじみでもあり、ラインハルトの初恋の相手でもありました。

「家を追い出されたの?捨ててきたの?」

「敢えて言えば後者です」

ディートリッヒはリンケの騎士の何人かが皇太子の指揮下に入ったことを伝え、「まともに歩けない奴がリンケの騎士を指先で振り回すのを見ていられませんでした」と言いました。ディートリッヒは、幼馴染を心配して様子を見にきたのではなく、ラインハルトに忠誠を誓いにルーデンまで追いかけてきたのです。

そうしてディートリッヒはルーデンに残ることになり、感謝祭の晩餐会場にディートリッヒのエスコートを受けて現れたラインハルトを見たビルヘルムは衝撃を受けました。ビルヘルムは食事も食べずに逃げてしまい、ラインハルトが何をやっても近づいてこなかった。

ビルヘルムは部屋の扉を閉めて2日も籠り、ラインハルトはディートリッヒに扉の蝶番を壊させてようやく部屋の中に入ることができました。

ディートリッヒはビルヘルムか16歳だと聞くと驚き、ビルヘルムをどうするつもりなのかと聞いてきました。成長して帝国の英雄になると言っても信じて貰えないので、ラインハルトは「命の恩人よ」と答えます。

「そうなると子爵様は俺にも誠意を尽くさなければなりませんね」

「何言ってるの?」

「9歳の時にあんずの木から落ちて…」

あんずの木から落ちた時、ラインハルトを受け止めたディートリッヒの緑色の瞳を見て、ラインハルトは何日か胸焼けを起こしました。そうしてプロポーズしましたが、当時は既に皇太子妃に内定しており、ディートリッヒが断ったことを2人で笑いながら話していると、ビルヘルムは柱から顔を出してディートリッヒを睨んでいました。

「呆れた。子爵様、あいつを俺に預けてみませんか?どうやら子爵様はあれが子猫のようだと思っているようですから」

ディートリッヒはビルヘルムに近づくと「子爵様がつけてくださった名前だそうだが、そんなことでは一生お前はその名前に相応しい男にはなれない」と言い、「お前は16歳だろ。俺は18歳でラインハルトにプロポーズされた」と言うと、ビルヘルムは露骨に顔を歪ませました。

「聞き取れないふりをするな。お前が頭の回るやつだってことは気づいてる。お前が18歳になった時も柱の後ろで兎のようにラインハルトを眺めてばかりなのか?」

「…..ちがう」

ディートリッヒは笑うとビルヘルムの首筋を持って歩き始めました。ラインハルトが驚いて叫ぶが、「剣術の先生として今から始めるので割り込まないでください」とディートリッヒは言いました。ディートリッヒは自分を見上げる毒気のこもったビルヘルムの目付きをみて、これは毒蛇なのだと思いました。こんな毒蛇に対して、水辺を前にした子猫でも相手にしているかのようなラインハルトを見て、ディートリッヒは苦笑いをしました。

ディートリッヒはビルヘルムを連れて練兵場にやって来ると、そこにビルヘルムを投げ捨てます。

「よく聞け。二度と言わない」

「………」

「俺は話が分からない子供が嫌いだ。子爵様はそんな子供の額にも口付けてくれたかもしれないが俺は違う。俺が子爵様のそばでいつもやっていた事がわかるか?お前みたいな目つきの奴らを追い出すことだ」

ビルヘルムは返事をしなかったが、全て聞き取れて理解しているのがディートリッヒにはわかりました。目つきの中に欲が流れているやつは危ない。それが金や食べ物ならいいが、ビルヘルムは、と考えてディートリッヒは舌打ちをしました。

「子爵様の命を救えたことを光栄に思え。俺はお前をその光栄に相応しい男にする。子爵様が望んでいるから」

ディートリッヒは子供に木刀を投げて渡します。本当はディートリッヒはラインハルトを説得してこの地を、帝国すら捨てて立ち去るつもりでした。しかし、こうしてなぜか今は目の前の子供に剣を握らせている状況を見て、帝国を捨てる日は遠いことを察しました。

ここからラインハルト、ビルヘルム、ディートリッヒの奇妙な生活が始まります。

「らいんはるど」

名前を呼ばれて横を向くとビルヘルムがいましたが、その髪の毛がボロボロに切られていた。犯人はディートリッヒだったようで、ビルヘルムは不満そうな顔をしていました。

「おかしいですか?」

ビルヘルムは以前より口数が増えました。ラインハルトはビルヘルムを座らせ、「もう少し整えよう」と言ってハサミを握り、生まれて初めて人の髪を切ってみました。

いつの間にか少しビルヘルムの体は大きくなっていたけれど、「かっこいい」よりはまだ「かわいい」だったので「よし、かわいい」と言ってビルヘルムの散髪を終えて、彼の額に口付けをすると、ビルヘルムの頬が赤く染まりました。

しかし、ディートリッヒはさらに短くなったビルヘルムの頭を見るなり笑いました。ディートリッヒはビルヘルムの体づくりのためには肉が必要だと話し、トナカイを狩ることになりました。

その夜、トナカイの童話を話して聞かせ、そのまま寝たビルヘルムに毛布をかけてやると、「侯爵様のことを思い出しましたか」とディートリッヒが尋ねました。

ラインハルトは、リンケ侯爵が大事にしていた娘です。しかし、実は幼い頃に拾ってきた子供で、ラインハルトはリンケ侯爵の実の子供ではなかった。

「わかってる。お父様は亡くなった」

「いいえ。その子供を愛でることで忘れられるならそうしてください」

ラインハルトは父親のことを思い出しました。初めて会ったとき、ラインハルトを見てリンケ侯爵は「君の目は潤う蜜を塗ったりんごみたいだね」と言いました。

ラインハルトは当初の目的を再確認します。父親の復讐をすること。それを遂げるために今の人生を生きている。

ディートリッヒはビルヘルムを起こして自分の部屋で寝るように言うと、「でぃどりひ」と発音が不安定な言葉が返ってきたのを聞いて、ラインハルトは「狩りから帰ってきたらラインと呼ばせてあげる」と言いました。

2人は警備隊員5人を連れて翌朝狩りに出かけ、その狩猟期間は1週間にも及んだが、捕まえてきたトナカイは巨大で、ビルヘルムが斧で切ったというトナカイの首は、剥製にしてラインハルトの部屋に飾られました。

食事と運動によって16際に見えなかったビルヘルムの体は少しずつ成長を始めていますが、ラインハルトにとってはまだ子犬のようなものだという認識がありそうですね。

ラインハルトは3年後に北東部で起こる大きな火事のことを考えていました。乾燥しているため山火事が起こりやすいが、レイラン湿地で起こる山火事は鎮火に一年以上かかり、壊滅状態なってしまうため、皇帝が民心を失ったきっかけでもありました。

レイラン湿地には泥炭の産地であり、燃えやすいため鎮火に時間がかかり、そのうえ山火事のせいで生産が途絶えてしまいました。ラインハルトはこの山火事を防ぎ、レイラン湿地を自分のものにして泥炭を売ることを考えていました。

湿地の下に積もる泥が燃える材料になるのですが、この時はまだほとんどの人が知りません。

3.ルーデンの領地

ひとつの季節を超えて(他の領地では2つの季節)、ビルヘルムは更に大きくなりました。まだ男というには難しいけれど、同世代の少女なら頬を染めるだろうと思えるほど、しっかりした体格に育ちました。顔も綺麗で、真っ黒な瞳がラインハルトを見ると明るくなるのは本当に可愛いのとラインハルトは思いました。

ディートリッヒはビルヘルムに礼儀作法を教え、今ではラインハルト以外にはきちんと敬語を使えるようになっていました。ラインハルトに対してはどうやら使いたくない様子で、敬語とタメ口を混ぜて話していました。ディートリッヒに対しては一切敬語を使わず、むしろ使いたくない様子で、言い争いはしても仲は良さそうだったのでラインハルトもそのままにしていました。

ディートリッヒはビルヘルムに対してとても厳しく教えるので、妹ばかりいるディートリッヒはビルヘルムのことを弟のように思っているのだろうかと思って尋ねてみると、ディートリッヒは「鈍いですね」とラインハルトに言いました。

夜にビルヘルムがラインハルトの部屋に入るのをディートリッヒが禁じ、「廃妃とはいえ若い男を連れ込んでいると思われますよ」と言われてしまいました。

「ディートリッヒが馬小屋に来て欲しいって」

伝言を持ってきたビルヘルムと一緒に馬小屋に行くと、いつも笑顔を浮かべているディートリッヒが珍しく顔をしかめていました。理由は首都からルーデンに徴収命令がくだされていたからでした。徴収人数は30人と騎士一人。

冬を越え、春がやってくると、その厳しい冬に領地民は体力を奪われており、そこへ飢えた野蛮族が攻めてきます。そのため、春頃には帝国は兵士を徴収して北部の領土に向かわせていました。徴収命令を下された諸侯は、金を払うか、兵士を送るかの二択ですが、ルーデンにはお金がありません。

本来であれば人の少ないルーデンに科せられる徴収人数は10人程度のはずですが、普段の3倍で、しかも騎士を一人。完全にラインハルトとディートリッヒへの報復でした。

春には獣が子供を産んで食べ物を探しに民家に降りてくるので警備兵が必要なのに、30人も出してしまうとルーデンでは人手不足で耐えきれません。

小さな領地で徴収された兵士は近くの大きな領地に送られ、まとめて中央領地に集められます。そのため、管理を任せる大きな領地の領主は徴収人数をある程度調整出来る権限を持っていました。

しかし、ラインハルトへの報復のために、ミシェルはルーデンの周りの領地にも普段よりも多い徴収命令を出してしまっているため、人数交渉もできない状況になってしまっています。

ルーデンや周りの領地の徴収をまとめる役を担うナダンティンでは、今回50人と騎士2人が徴収命令を出され、騎士が足りないナダンティンでは領主の家の次男が出征することになっていました。しかも、長男は亡くなっているのでその次男がナダンティンの跡継ぎです

そこでディートリッヒは、ルーデンは騎士2人に増やし、騎士1人をナダンティンに貸すので、兵士を代わりに出すよう交渉するべきだと言いました。ルーデンはナダンティンに騎士を貸し、ナダンティンは自分の跡継ぎを出さない代わりに、ルーデンに兵士を貸すという方法です。

ルーデンには現在ディートリッヒしか騎士がいませんが、そこへ更にビルヘルムを騎士としてナダンティンに貸そうという話でした。

騎士の称号を得ていないので詐称することになりますが、徴収命令が出された時に詐称する際は罪に問われません。なぜなら、初陣ではその八割が死んでしまうから。それでも、ディートリッヒはビルヘルムがここで死んでしまうとは思っていませんでした。

ラインハルトが難色を示しますが、「あなたは人をチェスの駒のように使わなければ」とディートリッヒに言われてしまいました。ラインハルトは、自分には優しいリンケ侯爵が戦場で人をどのように使うのかを見てきた事を思い出しました。

ディートリッヒもリンケ侯爵を思い出し、その娘はどうだろうかと考えます。皇太子妃のティアラをつけて結婚式へ歩く後ろ姿は堂々としていて、今でもその姿をディートリッヒは覚えていました。しかし、冷酷にはなれず、皇太子妃時代に自分を陥れた侍女を殺さず追放だけしていたことも知っていたので、だからこそラインハルトがミシェルの足を刺したと聞いた時は驚きました。

しかし、ルーデンに来て、やはりディートリッヒは自分の知る冷酷になりきれないラインハルトのままなのだと実感していました。ビルヘルムの目を半日だけでもきちんと見ていれば、子犬のように可愛がって育てる生き物では無いことを理解できるはずなのに。

ディートリッヒは、ビルヘルムが好きではありませんでした。子犬ではなく、貪欲な獣のような目でラインハルトを見る目付きが好きになれなかった。

しかし、それとは別に、ビルヘルムは成長さえ妨げなければ自分より広い胸や大きな体格を持っていただろうと思っていました。ラインハルトには欲を込めた目を向け、ディートリッヒには嫉妬の籠った目を向ける。ビルヘルムが力をつけたのも、ディートリッヒを負かしたいからという理由でした。

今まで誰にも愛された事がないからあれだけラインハルトに執着するのかもしれない。しかし、そろそろ引き離すべきだとディートリッヒは思っていて、そこで今回の徴収命令でした。ルーデンには痛手だが、タイミングが良かった。

「兵士は15人だけ連れて、あとはナダンティンに補充してもらいましょう」

ラインハルトが断るとは思っていなかった。しかし、ラインハルトの回答はディートリッヒの予想の上をいっていました。

「たかがそれだけ?あなたの言うとおり、ビルヘルムが本当に騎士一人の役割を果たすなら、むしろ足りない兵士の分だけでは足りない。レイラン湿地くらいは貰わないと」

リンケ侯爵の冷静さ、そして計算高さ。ラインハルトという名前を受け継いだ彼女はそれらを全て持っていました。

出征前に待機する際には食糧が必要になりますが、その金もないルーデンがどうするべきか、ナダンティンと合流したあとはナダンティンからの支援を受けれるが…とサラ婦人とディートリッヒで話していると、ラインハルトは自身に唯一残された侯爵婦人の形見である真珠のネックレスをサラ婦人に渡し、それをお金に変えて食糧を買うよう命じました。

サラ婦人はなぜ価値のないレイラン湿地をラインハルトが求めたのか疑問だったようだが、何か意図があるのだろうと察して深くは聞きませんでした。

その夜、ラインハルトは母方の系譜を見ながら考えに耽っていました。リンケ侯爵婦人はラインハルトに愛情を与えることも、嫌うことも無かった。しかし、こうして母方の土地を受け継いでいくのなら、もう少し彼女に優しくするべきだったとラインハルトは考えました。

夫婦仲の良かったリンケ侯爵夫妻でしたが、ラインハルトが入ったことであらゆる噂を、リンケ侯爵婦人は耐えなければならなかったはずです。

系譜を閉じて別の本を開くと、著者の名前が「リル・アランカス」とあり、それはアランカス帝国を築いた初代皇帝アマリリス・デパピ・アランカスの略称だった。彼女は大陸に残った魔法の遺産の中で聖杯と剣を手に入れて帝国を築きました。多忙な人でもあり、「私は9回人生を生きた」と冗談を言う人でもあった。

そんな彼女の本なら読まなくては、と開いてみるが内容は北東部のありふれた話で、ラインハルトは初代皇帝のファンが彼女の名前を借りて著者名にしたのだろうと思いました。

そこへビルヘルムがノックをして部屋に入ってきました。しかし、ラインハルトに近づこうとしないので理由を聞くと「まだ洗っていないから」と言います。

「騎士たちの汗の匂いには慣れてる。近くに来てもいいよ」

リンケ侯爵家で育ったラインハルトは慣れていたし、むしろ親しみさえ感じていました。しかし、むしろビルヘルムは「慣れてる…..」と混乱しながら呟きました。

「…ディートリッヒのせいで?」

「そうだね。ディートリッヒのせいとも言えるね」

なぜならリンケ侯爵の隣にはいつも汗だくのディートリッヒがいたから。ビルヘルムは、ラインハルトに近づいてそのまま抱きしめ、「やだ」と言いました。

「ディートリッヒに慣れてるの、嫌です」

ラインハルトは意味を理解して笑い、背中を叩いてやってからビルヘルムの首筋に鼻を埋めて深く息を吸い、「これがあなたの匂いね」と言いました。ビルヘルムが震えたので、もしかしたら痒かったのかもしれないとラインハルトは思いました。

前回の人生で、ラインハルトはビル・コルーナに会ったことがあるが、野蛮族のように見えたし、戦場での汚れもあって、鼻を塞ぎたくなるほどでした。けれど、今自分が胸に抱いているビルヘルムは違います。

ラインハルトはまだ幼さが抜けないこの少年を戦地に送らなければいけないことに罪悪感を抱えつつ、「私のことを考えて」と言いました。

「私は毎晩あなたの無事を祈るよ」

「…ラインがですか?毎日?」

「そう。毎日あなたのことを考えて、そしてあなたが戦場で一番輝くことを祈って、帰りを待ってる」

ラインハルトはビルヘルムの手の甲に、まるで騎士のように口付けを落とし、父の形見である剣を渡します。

「これは父の剣。私にはとても大切なものだから、必ずこの件を持って帰ってきて」

ビルヘルムはもう一度抱擁を求めたので抱きしめてやると、ビルヘルムは「騎士は出征する時にはレディーにハンカチを貰うそうです」と言いました。ラインハルトは自分の袖を切り、剣の取っ手に長い紐のようにくるくると巻きました。

「剣と共に帰ってきなさい」

「はい。必ず剣をラインハルトに返します」

そうしてビルヘルムはディートリッヒと共に15人の兵士を連れてナダンティンに向かった。ラインハルトは出発の際にディートリッヒにも同じように袖を裂いてやると、ビルヘルムはそれを不満そうに眺めました。ラインハルトがミシェルの足を突き刺して、9ヶ月過ぎた、春先のことでした。

1巻前編を読んだ感想

小さいビルヘルム可愛い。火打ち石に喜んでるビルヘルム可愛いです。

ラインハルトは相手が子供だと思い込んでいるからこその行動なのでしょうけど…行動が魔性ですね。「これがあなたの匂いね」なんて絶対魔性の女です。

2巻ではさらに成長したビルヘルムがラインハルトを手に入れるために行動を起こしていくきます。復讐についてもどのような形で成就されるのか楽しみにしてください!

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いり
異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

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