コミカライズ連載している「元夫の番犬を手なずけた」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。
(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)
元夫の番犬を手なずけた(전남편의 미친개를 길들였다)
原作:Jkyum
10.二度目の復習
可愛いと思うこと
ドルネシアは今日の祈祷の場での行いを皇后から非難されました。ドルネシアは「皇室が全員無視しては悪い噂が立ちます」とそれらしい理由を述べたけれど、皇后は納得しませんでした。疲弊したドルネシアは今日の手袋を撫でて悲しみを和らげました。
そしてその夜、ビルヘルムと密会したドルネシアはその胸に飛び込んで泣きました。心配しているビルヘルムの様子を見て、ドルネシアは喜びます。
「ちょっと大変な一日でした。あなたはどうでしたか?」
「……嬉しい日だった。あなたに人前で口付けができたから」
「人前であの女性があなたを自分のもののように振舞っている姿を見たくなかったんです」
「……ああ」
「あなたはもう私のものでしょう?」
ドルネシアにはいつも確信がなかった。ビルヘルムは無表情だったり生意気だったりしていたから。ドルネシアはビルヘルムに抱きつき、唇を重ねます。
しかし、いつもならすぐ離れるはずが、ビルヘルムがドルネシアの顎を掴んで口を開けたのを見て、胸が歓喜しました。そうして初めて二人は深く口付けをしました。
ドルネシアはシュバリエの誓いを本当にミシェルにするのか聞くと、ビルヘルムは「あなたが欲しいから行うもので、それ以外には大きな意味が無い」と言い、その言葉にドルネシアは感激します。けれど完全に信用することはできませんでした。
ドルネシアは自分の元を尋ねる男が、実は妻がいる皇太子だと初めから知っていました。皇太子が来た朝、しわくちゃのドレスを着た惨めな姿になったけど、それでも人質として皇城の隅で枯れるよりマシだったので後悔はしていませんでした。その時の自分の目と、今のビルヘルムの目は似ています。ビルヘルムはドルネシアが欲しいのか、その愛が欲しいのか。そんなことを考え、やがてドルネシアは決断しました。
「私は何をすればいいですか?」
ドルネシアも幼少期にアランカス帝国に人質としてやってきた経緯があるので同情はするんですけど…そこからドルネシアがラインハルト達にもたらしたものは本当に同情できないので、可哀想なキャラクターですね…。
その日は女性しか入れない神殿に赴くラインハルトの元にヨハナが訪れました。神殿に歩き出すラインハルトについてきたヨハナは、二人に関する噂が本当なのか聞きます。
「噂好きは相変わらずね」
ラインハルトはそう言いつつも「まだ」と期待を持たせるような答え方をします。弟のように可愛がっていたのに急に大きくなって求愛をされたので、分からないのだとラインハルトはヨハナに相談しました。そのまま神殿に入ろうとするとビルヘルムに呼び止められ、「すぐ出てくる」と伝えてヨハナの元へ戻ると「わからないって顔じゃなさそうですけど」と指摘されました。
「ただ、ちょっと可愛いくらいだよ、今は」
そう言い訳しつつ赤くなっている自分の耳を触るラインハルトを見て、ヨハナは自分の結婚の話をします。ヨハナとシュナイダー伯爵は元々幼なじみだった。元々あまり好きではなく、最初にプロポーズを受けた時もヨハナは両親に泣きついたほどでした。
するとシュナイダー伯爵はヨハナに「幼い頃からあなたが好きだったので、あなたが嫌がるとは思いませんでした。あなたを不快にさせたら謝ります。婚約は破棄されても大丈夫です」と言い、ヨハナは「そこまでじゃないのに!」と答えると、彼は馬鹿みたいな顔になったのだとヨハナは話しました。
実はヨハナはシュナイダー伯爵が不快だったのではなく、結婚させられるのが嫌なだけで、シュナイダー伯爵をそういう相手として見たことがなかったからでした。
「でも、その馬鹿な顔がとても可愛く見えたんです」
ヨハナの元にはそれから毎日違う花が届き、花を貰ってヨハナは自分が落ちたのだと理解しました。それから母親に婚約の取り消しをなかったことにして欲しいと申し出て、結果的に二人は結婚して子供も生まれました。
「殿下はもう落ちていますよ。かっこよく見えているならまだ抜け出せるから大丈夫です。でも可愛く見えているなら手遅れですよ」
そう言って笑うヨハナの言葉に、ラインハルトは昨夜の口付けを思い出しました。
神殿を出たラインハルトを迎えたビルヘルムはヨハナに対して無愛想だったので、ヨハナと別れたあとになぜ無愛想なのか聞くと、「自分の知らないラインハルトを知っているから」とビルヘルムは答えました。
二人が何か思い出話に花を咲かせていたのだと思ったようだが、まさかビルヘルムを可愛いと思っているという話をしていたとは言えないラインハルトが言葉につまると、ますますビルヘルムは不機嫌になりました。
「俺があなたを知らずに生きていた頃、あなたは他の男の妻でした。あの人はあなたがあの男の妻だった時にあった人です」
ラインハルトは自分もビルヘルムの幼い頃を知らないと言うと、「俺の幼い頃に意味は無い」と言うので、「こう考えたら?」と提案しました。
「私はあの男と結婚し、裏切られ、追い出された。ヨハナが雇った傭兵に裏切られて山の中で強姦される危機に陥った。それを助けたのは誰?」
「……俺です」
「あなたの子供時代に意味がないように、私の皇太子妃時代もそう。だけど私とあなたが出会って今は意味ができた。そうでしょ?」
ビルヘルムの不満は吹き飛び、ぱっと顔が輝いた。その美しい顔を見て、自分が落ちたのも当然だったのではないかとラインハルトは考えました。
「ラインハルト」
青年は震える声でささやいた。
「口づけしたいです。してもいいですか」と鼻を私の鼻にこすりつけながらそんなことを言うので、どう断るのか答える代わりにラインハルトは目を閉じた。待っていたかのように唇が重なった。指を組んだ手に心地よい圧迫感が伝わってきた。
「大好き。あなたが本当に好きです。」
ビルヘルムは「俺はあなたのためなら何でもします。どんな嫌なことでもするしどんな嘘でも言います」と言いました。
嫌なことをしないで、と言う前にまた唇が重なり、ラインハルトは「終わり」と言って押しのけると、ビルヘルムは満面の笑顔で体を離しました。
シュバリエの誓い
ついにビルヘルムの血統が証明される日になりました。皇帝がビルヘルムを連れて行ってしまったので、ラインハルトはペルナハと一緒に会場に来ていました。先に皇太子夫妻と、その後に皇后が続き、そして皇帝とビルヘルムが入ってきます。ビルヘルムは髪を後ろに流し、いつもより豪華な服に身を包み、その顔には笑顔が浮かんでいました。
しかしラインハルトはその表情を見て、怒った獣のようだと思いました。
ペルナハは自分がビルヘルムと交渉した時の話をしました。自分の妹を差し出そうとしたけれど断られ、「俺のそばに立つ女はいらない。俺がそばに立ちたい女がいる」のだと、照れもせずに言ったのだと話しました。
そのままペルナハは話を続け、ディートリッヒのことを持ち出します。ディートリッヒが大領主にすると計画したのなら、ビルヘルムのようにしたのだろうかとラインハルトに尋ねました。
「彼なら私兵を借りるところから閣下と相談したはずです。愛する女性のそばで秘密を隠してるというのは臭いから。それを忠誠や愛として覆い隠そうとするのはおかしいんじゃないですか?」
「言いたいことはなんですか?仲違いが目的でなければ私のために言っているのですか?」
ビルヘルムとの取引では、ペルナハはビルヘルムの下に入るという条件が付けられていました。ペルナハもそのつもりでルーデンに移住するつもりでしたが、いざビルヘルムに会うと「移らなくていい」と条件を撤回されました。
ペルナハを罠にかけるつもりでないなら、愛で覆い隠したその罠は誰の為のものなのか、とペルナハは考えました。ペルナハはその疑いを話すのではなく、「甘い蜜だけ吸って捨ててくださいね」とラインハルトに忠告します。
その時、ミシェルが前に出て「陛下、私はこの場で異母弟にシュバリエの誓いを求めます」と発言しました。
「受け入れます」と答えるビルヘルムを見て、皇帝は青ざめ、皇后が勝利の笑みを浮かべました。
しかし、その時になってラインハルトは突然不安に襲われていました。ラインハルトの足元に跪き、哀願し、時には口を閉ざし、ついにはラインハルトの目を愛で覆い隠してしまったビルヘルムへの不安。その不安に、ラインハルトは耐えられなかった。
不安と取引
そしてその日の夕方、歓迎宮に皇后宮から贈り物が届きました。新しい子への母からの贈り物との事だったが、その中にカワセミの羽で飾られた大きな箱がありました。前リンケ侯爵の遺体だった。
ラインハルトはそれを抱えて涙を流しました。顔の包帯が付けていられないほどだったので、マルクが氷を持ってきてくれます。それで腫れたまぶたを冷やし、横を見るとビルヘルムがいました。
ビルヘルムは今日の祈祷会のあと皇帝に怒鳴られたのだと話しました。皇后となぜ結託したのかは皇帝にも見当がついているようだった。皇帝は前リンケ侯爵の遺体を皇后が盗んだことを知っていましたが、それを明かすとラインハルト達に恨まれてしまうため伏せていたようです。
ラインハルトはそろそろルーデンに帰る話をしました。ラインハルトの復讐の相手はミシェルと皇后の二人になったけど、今すぐそれらを叶えることはできないので領地の整備を行いたかった。しかし、ビルヘルムは皇室の一員となったので権限に関する書類に署名する仕事があり、あとひと月は伸ばしたいと言います。
そこでラインハルトは父の遺体をこのままここに置いておくのは嫌なので、水晶門で遺体を安置しに一旦帰り、すぐに首都に戻ってくると話します。だいたい10日ほどだと話すラインハルトは、「首都に戻ったら邸宅を探しましょう。ここにいるのはもう嫌」と言います。
「俺もここが嫌いです」
「あなたにはもう家族がいるじゃない」
「冗談はやめてください。俺はアランカスの婚外子なので、そういったもの達に与えられる邸宅があるそうです。だから、その冗談を取り消さないのなら俺が一人で使います」
「一人で使えるの?」
「また子供扱いですか」
「先にルーデンに帰るなと言ったのは誰?」
「確かに言いました。疲れているなら先に帰っても構いません」
「そうしようか?」
「ライン!」
ラインハルトは床に寝転がり、そこから起こそうとするビルヘルムの腕を逆に引っ張って二人とも転がりました。しかし、口付けしようとするビルヘルムをラインハルトは止めて、「取引がまだ」と話を持ち出します。
ラインハルトはミシェルの首を望んでいる。勝手に動いているようだけど、それだけは譲れないのだとラインハルトは話し、そして思わず「ミシェルの首が届くまで、あなたは私を愛しているのかな」と不安を口にしました。
もし、ビルヘルムが他の人を愛するようになったのだとしたら。そんな不安を感じているラインハルトに、ビルヘルムが「そんなことはありえない」と言いました。
「そんなに心配ならラインハルト。できるだけ早く取引を終わらせます。だからそんな悩みで時間を無駄にしないで。あなたは既に長い長い時間を過ごしてきたのだから」
ビルヘルムはラインハルトの髪と手の甲に口付けて、彼女にアマリリス牌を「離れている間に必要になるかもしれないから」と言って渡しました。
犬
ビルヘルムが現れると、森で泣いていたドルネシアは直ぐにその胸に飛び込んだ。城の警備は二倍になり、会うのは以前より困難になっていました。ミシェルも皇后も馬鹿では無いので、シュバリエの誓いの後にミシェルが暗殺される可能性を危惧していたからです。
ビルヘルムとドルネシアは今や同じ姓を名乗るようになっていたけど、その事をドルネシアは快く思っていないだろうとビルヘルムは指摘します。
「いいえ、どうしてそんな…」
「あなたに伏せて哀願して、ただ俺が永遠にあなたの犬だったらいいと思っていない?違う?」
違う、と反射的に答えそうになりながらドルネシアは自問自答します。そしてビルヘルムに首輪をつけた姿を想像してドルネシアの瞳が揺れました。
「私を知っている人はそんなふうに思いません」
「俺の主人を追い出したのだから汚名を付けられているだろう」
ビルヘルムの口から「俺の主人」という言葉が出て、ドルネシアはラインハルトに対して初めて強烈な憎悪心を感じました。
「カナリアの雌犬、塩売りの女。それと今度もいくつか増えるだろう」
「どんな?」
「兄と弟を夫に迎えた女のことをなんと呼ぶんだっけ?」
そう言って笑うビルヘルムを見て、ドルネシアは勝利感を味わった。計画を実行することを決めたドルネシアにビルヘルムは「まだ出会って1ヶ月だし、今のまま表では挨拶を交わす仲でもいい」と言われ、ドルネシアは激昂します。ドルネシアはミシェルのことを愛していなかったし、あの冷たい体は苦痛で、気を紛らわすためにビルヘルムのことを考えるくらいだった。
「愛していない人と口付けしたことがありますか?」
「……二人ですね」
ドルネシアは怒りのままビルヘルムの頬を叩き、爪でビルヘルムの頬が傷ついたのを見て、ドルネシアは慌てて謝ります。
「ドルネシア、謝るな。夫を殺すのならこんなことには慣れなくては」
二人の唇が重なり、そうしてドルネシアは自分の愛を貫くことにしました。
ビルヘルムは「愛していないのに口づけした人数は2人」と言うことでしたが、1人は絶対に目の前にいるドルネシアですね。ではもう一人は、となります。
皇太子宮は人で賑わっていました。機嫌の良いミシェルによって貴族たちが迎え入れられ、様々な話題が飛び交いました。話題の多くは婚外子であるビルヘルムのことだったけど、どれも根も葉もない噂ばかりでした。
ドルネシアはビルヘルムから皇帝に結婚相手はラインハルトを勧められたのだと聞かされていました。皇帝はラインハルトをビルヘルムの妻にすることで大領地を得ようとしているのだと。
ドルネシアは指先に力を入れ、「私のものだ」と心の中で強く思います。
その夜、ドルネシアは半月の間、体調不良を理由にミシェルからの誘いを断り続けていましたが、母親から後継者を早く作れとせっつかれたミシェルによって、ドルネシアは同衾を強要されました。
ドルネシアの執着がどんどん強くなっているのがわかりますね…。
ラインハルトは10日で首都に戻るつもりだったけど、領地の仕事は思ったよりもやることが多く、もう10日伸びることを手紙でビルヘルムに送りました。
サラ婦人はすでにヘイツに会っていて、彼はオリエントに滞在する三日のうち二日をサラ婦人を助けることに使い、そうして出立したとのだと報告を受けました。
サラ婦人は小さなビルヘルムが小猿のように城内を走っていたのを思い出しました。
「これからはコルーナ卿になるのですか?」
「おそらくそうでしょうね」
「結婚するつもりですか?」
その質問に、ラインハルトは顔が赤くなるのを止められなかった。まだそこまで考えていないし、まだビルヘルムは若いと話すと、サラ婦人は自分の長女は18歳で結婚したし、ラインハルトも20歳で皇太子妃になったと話しました。
「あの青年は領主様を愛しているのではありませんか」
ラインハルトは離れてこそビルヘルムの存在の大きさに、そしてビルヘルムを愛しているのだと気づきました。しかし、祈祷会で最後ラインハルトを睨みつけた皇帝の様子を考えれば、ビルヘルムとの結婚は遠そうだと思いました。
そうしてサラ婦人と話していた翌日に、ミシェル・アランカスの訃報が届きました。
訃報
ミシェルは眠るように自室で死んでいました。いつもの時間に目覚めないミシェルを不審に思って部屋に入った侍従が見たのは、まるで眠るように死んでいるミシェルでした。その話を聞いた皇后は気絶し、遺体に傷がないのを見て毒を疑われ、料理人やお茶を出した侍従たちが拷問を受けたけれど、医者によって「毒ではなさそうだ」と判断が下されました。
亡くなる前夜に一緒にいたドルネシアは泣きながら眠る前は生きていたと話し、彼女が使う香に問題があったのかと没収されたけれど、それは普段から皇太子も皇太子妃もよく使うものだと侍女達が証言し、ドルネシアは同じ香を焚いて部屋に閉じこもりました。
皇后は目を覚ますなり犯人はビルヘルムだと叫び、皇帝はビルヘルムと単独で会うことになりましたが、どうやったのかと聞いても「俺は何もしませんでした。そもそも帝位が欲しかったらシュバリエの誓いはしません」と言われてしまいます。
「その誓いこそ今疑われている理由だ」
それでもビルヘルムは明確な回答をしませんでしたが、それが毒蛇の目なのを見て、皇帝はビルヘルムを邸宅に帰しました。その帰路で皇后はビルヘルムを殺す勢いで迫ったけど、ビルヘルムが涙を流し「俺を産んだ母も俺をこんなに愛してくれたんでしょうか」と言うと、皇后は泡を吹いて倒れました。
それを見ていた人々の間で、噂が飛び交った。皇后がビルヘルムを産んだ母を殺したこと、ラインハルトに傷を負わせ、前リンケ侯爵の遺体を盗んだこと。それらが全て皇后の行ったことだという話が周り、自分の子を失ったのは因果応報ではないかと人々は口々に話しました。
皇后は目が覚めては気絶するのを繰り返し、結局ミシェルの葬儀にも出れませんでした。
皇太子にシュバリエの誓いをしていた男が、今度は皇太子になっていた。
皇后は目を覚ますと皇太子の墓で泣き叫び、埋められたばかりのその墓の上に既に草が生えているのを見つけると「私の息子が頑張って墓から出てきたのかも!墓を掘り起こして!」と叫んだが、侍女によって止められ、皇后は自分の宮に戻り、そしてそこで待っていた女中と侍従からとんでもない話を聞くことになりました。
皇太子妃の侍女が、ドルネシアは無味無臭の毒を持っており、そんな人質の世話なんてごめんだと話していたのだと皇后に知らせました。
皇后によってドルネシアは部屋から引きずり出され、頬を打たれました。すでに侍女のギリアは死んでしまっており、その事が疑いをさらに深めました。ドルネシアが皇后を押しのけると、皇后はテーブルに頭をぶつけ、血を流しながら剣を持ってこいと叫びます。そこへ皇帝が仲裁に入り、ドルネシアに説明を求めたが、「勝手にしてください」とドルネシアは言いました。
「12歳の時に人質として帝国に来て、そこから12年が経ちました。覚えてもいない国が地図から消えようと構いません」
「もう一つだけ聞こう。ビルヘルム・コルーナと結託した事実はあるのか?」
「密通しました。でも、4年ほど前に殿下としたことも密通ではないですか?」
「……不埒な!」
「その時は結婚もさせてくださったのに」
ドルネシアは狂ったように笑い、皇帝はドルネシアを監獄に閉じ込め、カナリア公国に賠償金を求めると発表しました。
邸宅の地下
ラインハルトは水晶門を通って首都に来ると、ビルヘルムがいる赤い邸宅に向かいました。しかしそこには警備兵がいて「皇帝の許可なしには入れません」と言われてますが、ビルヘルムから渡されていたアマリリスの牌を見せることで、邸宅の中に入ることができました。
ラインハルトは侍従にビルヘルムのいる部屋まで案内されました。部屋の前には騎士が二人いて、その部屋の扉が開くと座っていたビルヘルムが立ち上がり、ラインハルトも駆け込むように部屋に入りました。
ラインハルトはビルヘルムのやつれた頬を撫で、ビルヘルムはラインハルトを抱きしめました。ビルヘルムはラインハルトの額に口付けを落とし、それを見ていたマルクが慌てて部屋を退室して扉を閉めました。
「会いたかったです」
ビルヘルムはラインハルトの首に顔を埋め、その首から頬にかけて残る傷に口付けます。
「あなたから遅れるという手紙をもらってどれだけ泣いたか知っていますか?」
「嘘つかないで」
「実は泣いたというのは嘘です。その時は監獄にいました」
監獄と聞いたラインハルトの顔がくもったけど、ビルヘルムは「とても嬉しい」と言いました。「あなたは嬉しくないですか?」というビルヘルムの言葉の中には、「皇太子が死んだのに」という言葉がこもっていました。
「ラインハルト、俺たちの取引はどうなりますか?」
「それで嬉しいの?でも寝て死んだのでしょ。あなたが成し遂げたことではないから対価もないよ。あのろくでなしが楽に死んで恨めしいだけ」
「それではラインハルト、もし俺がそれをしていたら?俺は手段と方法を選ばずにあなたの復讐を遂げると言いました。だから必ず許してください」
ラインハルトには意味がわからなかったけど、ラインハルトを抱きしめる腕は岩のように固くて、結局ラインハルトは頷きました。
そうして邸宅で食事をして部屋で眠っていたラインハルトは、明け方にビルヘルムに起こされました。ビルヘルムは自分について来て欲しいと言い、ラインハルトが部屋の外までついて行くとそこには皇室騎士が4人もいました。皇室騎士は長年皇室に奉仕して認められた騎士達で、それを味方につけたビルヘルムに、どうやったのか尋ねました。
「あなたがあの茶髪の財務官を採用したように、俺もそうしました」
何を、というラインハルトの言葉はそれ以上続かなかった。ビルヘルムも前回の記憶を持っている。それなら、全てのことが腑に落ちました。
ビルヘルムに邸宅の地下に案内されると、そこは皇城まで続く秘密の通路になっていました。足場が悪いためラインハルトはビルヘルムに抱き上げられて連れていかれました。歩いた先は監獄で、ビルヘルムが手を回したのか警備兵はいなかった。
監獄からは「どうして」と声が聞こえ、ビルヘルムは「こんな状況になったあなたを見に来ないわけがない」と言います。その言葉に、監獄にいたドルネシアは嬉しそうに「ああ、私の愛」と言い、その言葉にラインハルトがギクリとすると、ビルヘルムはラインハルトの額に口付けをしながら「俺を許して下さるのでしょう?」と言いました。
「ああ私の愛、あなたも……その女は」
喜びに満ちていたドルネシアの顔が一気に青ざめました。ビルヘルムは「俺の主人に話さなければなさないことがあって」と言うけれど、ラインハルトはビルヘルムの名前を呼んで下ろすよう頼んだが、聞き入れて貰えませんでした。
「駄目です。この監獄はあまりにも汚い。あなたの足が踏める所はありません」
ラインハルトは根気よく頼み、ビルヘルムは仕方なくラインハルトを下ろしました。ビルヘルムは「俺の主人に確認させてあげてほしい」とドルネシアに言いました。
「どうしてあの女に」
「ドルネシア。言葉に気をつけて」
それはラインハルトでさえ恐怖を感じるほど冷たい声でした。しかし、鉄格子を握るドルネシアの手をビルヘルムは優しく握ります。
「あなたは俺を愛し、俺はシュバリエの誓いをした。だからあなたは俺といるためにミシェルを殺した。そうだよな?」
「あなたの主人はそれが知りたかったの?私たちの仲を?」
「そうだ。俺の主人が必ず知っておくべきことだ」
ドルネシアの愛
ドルネシアはラインハルトが苦痛だと感じていたように、自分もミシェルとの生活が苦痛で、そんなところに自分の欲しいものを持ったラインハルトが現れたのだと話します。
「私はあなたの騎士を愛し、私の夫を殺しました。誓いをした彼を私の夫として引き継ぐためです」
監獄に来た時からある程度予想していた事だったのでラインハルトは驚かなかった。話を聞いていたビルヘルムは「面白い話をしましょうか」と切り出します。その話し方は、今まで甘やかな態度を取っていたビルヘルムではなく、かつて見たビル・コルーナのものでした。
ドルネシアに前世の話をしたことを覚えているか聞いたビルヘルムは、ドルネシアの手を握る手に力を入れた。ドルネシアが痛いと言っても止めず、まるでその骨を砕こうとしてるようだった。
「あなたは俺の首を絞めた。足元に跪くよう命令して」
「放してください!」
「俺も離してくれとあなたに頼んだ」
そうしてパキパキと音が鳴って骨が砕かれました。涙を流すドルネシアには目も向けず、ビルヘルムはラインハルトを見つめながら「ラインハルト、これが俺の話です」と言いました。
ラインハルトがミシェルを憎んでいたように、ビルヘルムもドルネシアを憎んでいたという話にしては簡単すぎて、もっと何かがあるはずだとラインハルトが思っていると、その心を呼んだのか、ビルヘルムが「一言でまとめると簡単です。でもそれで全部なんですよ」と言います。
「私はあなたがミシェルに忠誠を尽くしているとしか思わなかった」
「俺を知らない人のように言わないでください」
そう言われても、目の前にいるのは20歳のビルヘルムではなく、30近くになったビル・コルーナに見えていました。しかし、ビルヘルムはラインハルトに近寄り、その腰を抱いてしがみつきました。
「どうか……俺にはあなただけなんです」
ラインハルトはビルヘルムに恐怖を抱いていたが、こうしてしがみつかれると、怯えていたのはビルヘルムの方だったのだと理解しました。
「……いつから?」
「人は道具ではありません」
「……低俗な小説みたい」
「そうですか?」
「あまりにも在り来りで信じられない」
「でも、在り来りな言葉は誰かを救います、ラインハルト」
ビルヘルムはラインハルトを抱きしめながら震えていました。「俺を受け入れてください」「お願いします」と言うビルヘルムの、その熱烈な崇拝者のような姿を見て、ラインハルトは目を閉じると、ビルヘルムは喜んでラインハルトに口付けました。
二人の様子を見ていたドルネシアが「ビルヘルム?」と名前を呼ぶと、ビルヘルムはラインハルトから離れてドルネシアの方に視線を向けます。そのビルヘルムの瞳が、ラインハルトに向けられていたような輝きを持ったものではなく、真っ黒なのを見て、ラインハルトは自分が愛されていることを自覚しました。
「私をからかっているんですか?あなたの主人に私を愛していると言うためではなかったのですか?」
「そう、愛している。主人のためならいくらでもお前と口付けができるくらい」
その言葉を聞いて、ドルネシアは嘘だと叫びました。
「ありがとう。もうすぐ幸せになれる」
ドルネシアはその言葉に激昂し、皇太子を殺したのはビルヘルムに指示されたのだと叫び、ラインハルトにたいして「廃妃も皇城の頂上で裸でぶら下がって石を投げられるべきだ」と叫びました。ビルヘルムは立てかけられていた槍を持ってドルネシアに向かって投げ、ドルネシアは悲鳴もあげられずにそのまま死んでしまいました。
いつの間にかラインハルトの靴は湿っていた。 今はドルシネアから流れ出た血まで混じってめちゃくちゃだった。
ビルヘルムは彼女を座らせ、靴を脱いで刑務所の火鉢に投げ捨てた。 靴が燃えていく匂いを後にして、ラインハルトは青年に抱かれて赤い幹の邸宅に戻った。 悪魔に取り憑かれた気分だった。
ラインハルトの棺
邸宅に戻ったラインハルトはビルヘルムに足を綺麗に拭かれました。酷く疲れていて休みたかったけど、ビルヘルムは「まだ終わってない仕事があります」とラインハルトに伝えました。そこへ先程地下にいた騎士がビルヘルムに「終わりました」と報告をします。
ビルヘルムは騎士に指示をすると、騎士は扉を開けました。中は真っ暗で何も見えなかったけど、何かがあるような気がして、ラインハルトは視線を逸らせずにいました。
ビルヘルムは、本当はミシェルを生きたまま連れてきたかったけどそれが叶わなかったことを詫び、そうして騎士達が持ってきたのは金と宝石で飾られた棺桶でした。
騎士たちはラインハルトの前に棺を置き、部屋を出ていきました。ラインハルトの力では開けられなかったのでビルヘルムに「開けて!」と叫びます。棺桶が開かれ、中に入っていたのは紛れもなくミシェルの遺体でした。
自分を苦しめていた相手がこのように呆気なく遺体で目の前にいることがおかしくて、ラインハルトは大笑いしました。ラインハルトは自分でさえミシェルが死んでいるということがこんなに痛快だとは思っていなかった。自分の父の遺体を盗んだ皇后の息子の遺体がここにあることを考えるとさらに面白かった。
ビルヘルムは泣きながら笑うラインハルトの涙を拭い、その手にリンケ侯爵の剣を握らせ、「命はあなたの手で落とすことは出来なかったけれど、内臓は取り出せます」と言いました。それはミシェルの首を切り、その内蔵の血を飲むと豪語していたラインハルトの言葉からの行動でしたが、ラインハルトは涙をふいて剣を返します。
「大丈夫。私は本当に大丈夫。内臓をすり潰して飲むというのはただ言っただけ。目の前で遺体を見て、私の心はすっきりしてる」
ラインハルトは、皇后が自分の息子の遺体が永遠に帰らないことを泣き叫ぶよう、このままミシェルの遺体は燃やそうと話しました。ビルヘルムはラインハルトの手の甲に口付けて、ラインハルトを抱きしめ、「リンケ侯爵が落馬して亡くなったことを疑問に感じませんでしたか?」と尋ねました。
「ミシェル・アランカスは、自分がリンケ侯爵の馬に薬を飲ませたと言っていました」
それを聞いて、ラインハルトは怒りで目の前が真っ暗になりました。
剣を持ち、ミシェルの遺体を刺しました。そうしてとめどなく剣を受けたミシェルの遺体はバラバラになり、見る影もなくなりました。
取引の結果
気づけば部屋中に肉片や骨が散らばり、ラインハルトもまた血まみれになっていました。帰ってきた時にビルヘルムが履かせてくれた靴はまた血に染まり、その血溜まりの中にラインハルトが座り込むと、ラインハルトの目の前に跪いたビルヘルムが、剣によって傷ついたラインハルトの指を持ち、「痛そうですね、少し休んでから続けましょうか」と止めることも無く提案します。それを眺めていたラインハルトは衝動的に目の前にいるビルヘルムに口付けをしました。
すぐにビルヘルムが答え、ラインハルトは腐った粘り気のある血を手につけたままビルヘルムを汚し、腕についた血によって、ビルヘルムの首には首輪のように血の輪ができました。それを見たラインハルトが「綺麗だね」と言うと、ビルヘルムの顔が赤みを帯びて、ラインハルトはもう少し体をビルヘルムの方にかたむけます。
そうして二人の行為は血溜まりの中で始まりました。ビルヘルムはラインハルトをベッドに移動させると酒で血を流してラインハルトの体を舐め、ラインハルトはビルヘルムの唇を噛み、ねだられてその頬を叩きました。
全てが終わると、四方から血なまぐさい臭いが漂っていることをラインハルトは理解し、自分を抱きしめていたビルヘルムに「ここの布団を外に干したら新郎が新婦を殺したと言うだろうね」と冗談を言いました。
そのまま二人の唇がまた重なり、ビルヘルムの手に力が入りすぎる前にラインハルトはビルヘルムの肩を押し、「部屋を片付けないと」と言います。ドルネシアが死んだのだから今頃監獄は騒ぎになっているはずなので、ここもこの状態ではまずいはずです。
騎士が片付けるので自分たちはラインハルトの部屋に行こうとビルヘルムが誘いました。ビルヘルムは自分のチュニックをラインハルトに着せると、サイズが大きくてラインハルトの肩が出てしまった。ビルヘルムはそれを見て「あはは、かわいい」と笑いました。
「あなたから俺の匂いがします。とてもいいですね」
ビルヘルムが合図をすると騎士達が入ってきて部屋を片付け始めました。ラインハルトはそのうちの一人の騎士の視線が自分に向いて、ようやくまだ自分が頼りない格好だということを知りました。
「ヨナス、目を背けろ」
「はい」
ビルヘルムはベッドに座るラインハルトを布団ごと抱きしめて抱えあげ、ラインハルトに謝りました。理由はラインハルトを見たヨナスの目を引き裂くべきだったのにそう出来ないから。前回それをやったら使い物にならなくなったので、今騎士を失う訳には行かないのでそれが出来ないのだとビルヘルムは話しました。
ラインハルトが邸宅での自分の部屋に戻るとビルヘルムから降りて靴を履いていると、布団を見てビルヘルムは「あなたの言うとおり外にかけましょうか」と話します。
「世界中に自慢したいです」
ビルヘルムがラインハルトの手の甲や手のひらに口付けを落としながら「あなたは結局俺をベッドに入れてくれたので」と言うので、ラインハルトは「新しい男娼が生意気だけどどうしようか」と笑いながら言いました。
「生意気なら罰を与えなくてはいけませんね」
「どんな罰を与えようか?」
「何でもあなたの望むままに」
ラインハルトは笑いながら「洗ってから考えよう」と答えます。お湯を用意したマルクは血塗れで、尚且つ明らかに情事の後の二人を見て当惑したけれど、それでも口には出さずに用意しました。
バスタブにお湯をはるとビルヘルムが自らラインハルトを洗うと言ったのでマルクは静かに退室し、ビルヘルムは洗うだけに留まってくれなかったのでラインハルトは疲れ果てました。
ベッドでビルヘルムに抱きしめられながら、ラインハルトは「どうするつもり?」と尋ねます。
「今皇太子妃を最も殺したい人が誰なのか、誰もが知っています」
「カストリヤ」
ビルヘルムはミシェルを生きた状態でラインハルトの足元に連れて来ることが出来なかったことを謝るが、ラインハルトはそれが簡単に出来ることではないと知っていたし、遺体だとしてもラインハルトの前に連れてきてくれたことで満足していました。
ビルヘルムは更に謝ったので、理由を尋ねると「あなた以外の他の女性に口付けしたことです」と答えます。
「それ以外に方法はなかったの?」
「……探してみたらあったかもしれません。でも俺はせっかちなので、近道があるならそっちを選んでしまいます」
ラインハルトはビルヘルムが従順にふるまう姿を見ながら、「もう話して」と言いました。
「あなたの話を。彼女はあなたを愛していたの?それであなたは今世も彼女があなたに夢中になるのを待っていたの?」
「少し違います」と言うビルヘルムに、ラインハルトは口付けをします。
「言ったら俺を許してくれますか?」
「……約束したでしょ。手段と方法を選ばず私の復讐をするといったのはあなた。どんなやり方であれ、私はあなたを許すよ」
ビルヘルムはラインハルトの金の瞳を見て、自分の首に首輪がかかる音が聞こえたけれど、それは恐怖を感じた前世とは違って、恍惚としたものでした。
2巻後編を読んだ感想
これにて怒涛の2巻は終わりました!
ですが、実はこの作品。外伝を入れて全部で4巻まであります。いくら外伝があっても残り2巻が外伝という事はないだろうし…え、これ以上本編で何があるの?ハッピーエンドからの後日譚じゃないの?って、最初に読んだ時に思ったし、不安になりました。
とりあえず、3巻も怒涛ではあるのですが最終的にこの作品はハッピーエンドですので安心して進んで欲しいとだけ言っておきます…!
2巻までの内容、早く漫画にならないかな〜〜〜
それだけが楽しみです…
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