「元夫の番犬を手なずけた」韓国の原作小説ネタバレ感想 ｜4巻・前編

ディートリッヒが首都に赴いている間、ラインハルトはシエラからの度重なる要請を受けて、魔物と戦う北部の駐屯地に赴くことになりました。シエラは本当にラインハルトが来るとは思っていませんでした。しかも、駐屯地に現れたラインハルトはその胸に子供を抱いていて、わざわざ子供を連れてきたことにシエラは呆れました。

子供はビアンカ・リンケ。もう少し大人になったら母からラインハルトの名を受け継ぐ、黒い髪と金色の目を持つ3歳の娘でした。

ラインハルトは兄のペルナハと違って問題ばかり起こすシエラと話し合いをすることになりましたが、シエラはビアンカの髪を軽く引っ張りました。ビアンカは大声で泣き、ラインハルトが抱いても泣き止まず、「マルクゥ！」と叫び、結局マルクが抱いてなだめることになりました。

ラインハルトが駐屯地に滞在する間、シエラは豪華な料理でもてなしました。ラインハルトが本当に来るとは思っていなかったが、来たからには大領主であるラインハルトを尊重しなくてはいけない。その考えが透けて見えたので、ラインハルトはシエラに呆れていました。初めから余計な干渉をして来なければ良かったのに、と思いました。

シエラは酒を飲んで酔ったのか、ラインハルトにビルヘルムのことを尋ねました。自分は振られたのにラインハルトは振った側だから、何が嫌だったのか知りたいという事でした。けれどラインハルトは答えたくなかったし、無遠慮に質問してくるシエラをよく思っていなかった。

そこへ、騎士が麓に白い球根を100個以上あるのを見つけたのだと慌てて報告しに来ました。アマリリスの球根だとしたら、それだけ魔物も湧いているということになります。悪魔の夜と言われるその日は、本来冬にやってくるはずだった。

まだ秋なのにそんなものがある事自体がおかしかったけど、夏の間に飢えた魔物が秋雨で気温が下がったことで目を覚まして降りてくることもあります。それを酷寒地の廃書に書かれていたのをラインハルトは思い出しました。

シエラはすぐに態度を改め、ラインハルトに後方に下がるよう伝え、「申し訳ありません」と頭を下げて謝罪しました。非常時において、たしかにシエラは指揮官として有能だとラインハルトは思いました。

悪魔の夜

駐屯地にいた200人の兵士は後方に退避したラインハルトの護衛につけたため、シエラは800人程の兵士達と溢れるほどわく魔物と戦わなくてはいけなかった。自分がラインハルトを呼んでいなければ200人の兵士はここで戦えました。首都へ出発するディートリッヒか「何もするな」と忠告していたことを、シエラは今になって思い出して後悔しました。

大量の魔物に押され、シエラは落馬してしまいます。副官のフランツの名前を叫んだけれど、返事がありません。逃げる男ではないと思っているけど、死んでいないのならむしろ逃げたと思った方がマシだった。

今、このフラン山脈の麓でシエラ達は皆殺しにされかかっていました。自分がここで死ぬのは自業自得なのでいいけど、退屈だといってラインハルトにちょっかいをかけ、そして駐屯地の兵士たちが全滅したなんてことになったら、グレンシアの歴史に泥を塗ることになる。

それがシエラにはとても恥ずかしかったし、2番目の兄が自分を罵る言葉を吐くだろう。そんなことを思いながら、魔物が目の前に迫りました。こんなカエルみたいな魔物に殺されるなんて。そう思った時、「照準！発射！」という掛け声とともに、カエルの魔物が倒れました。

見れば弓兵が構えていて、さらに戦場にはいつの間にか黒い騎士たちが魔物を殺していた。シエラはそれが誰なのか知っていました。弓兵に指示を出しているのがヨナス、騎士を率いているのがエゴン。若い皇帝に仕える彼らがいるということは、ビルヘルムが来たということでした。

小さなアップルパイ

寒い日は、傷が痛みました。なのでいつもなら体温の高いビアンカを抱いて暖を取っていましたが、今日はそうはできませんでした。

「ごめんなさい、閣下」

それはビアンカが自分に不利な時に言う呼び方でした。ラインハルト達が後方の村に退避する時、ビアンカは戻ると言って駄々をこね、ラインハルトの髪を引っ張り、村に付くと大声で泣きわめきました。マルクが宥めようとしたけれどラインハルトが止め、やがてビアンカは落ち着いて涙ぐみながら母親に謝っているという状況でした。

ビアンカ的には、ラインハルトに良くない態度をとるシエラの言うことを、ラインハルトが素直に聞いたのが納得できなかったようでした。元々駐屯地にビアンカを連れてくるつもりではありませんでしたが、出発の時に駄々をこねられ、仕方なく連れてきてしまった。長男に背を向けてしまったことを後悔して今度は愛情を注いだら、わがままになってしまったとラインハルトは思いました。

しかし、ラインハルトがそれ以上叱る前に、身を寄せていた小屋の外で大きな音が鳴り響きます。侍女が小窓を少し開けて外の様子を見ると、魔物の姿が見え、外では兵士たちが戦っていました。

「閣下、出てこないでください！」

兵士が窓を閉め、ラインハルトは真っ青になってビアンカを抱きしめました。悪魔の夜については本で冷酷に綴られていて、これまでラインハルトは遠くにいたのでその恐ろしさを理解しきれていなかった。恐怖に震えていると、ビアンカが「お母様、ビビはここにいるよ」と落ち着いた様子で言いました。

ラインハルトは、父親が小さな自分を抱きしめると壊れてしまうのではないかと恐れていたことを思い出しました。

ラインハルトは自分がビアンカを抱きしめているのに、何故かその胸に抱かれいるのは自分の方である心地になりました。それと同時に、背を向けてしまった長男を、抱きしめてあげれば良かったと思いました。

小屋の暖炉が崩され、そこから魔物が入ってきました。悲鳴が飛び交い、またしても雷が落ちたかのような大きな音が響き、気付けば小屋の屋根が吹き飛んでいました。

壊れた屋根の向こうに大きな魔物が現れました。しかし、そこへラインハルトが見知った声が聞こえました。顔を上げてはいけないと頭では考えていたのに、ラインハルトは顔を上げて、以前より更に大きくなっていた男の姿を見ました。

魔物には矢が刺さっていましたが、矢を放った本人は魔物の生死には興味がなく、ラインハルトだけを見ていました。ビルヘルム・コルーナ・アランカス。ラインハルトが捨てた犬がそこに立っていた。

皇帝と大領主

悪魔の夜が明けて、ビルヘルムは近くの城に兵士を招集し、怪我人の手当や兵士の編成などを行いました。城の一室で、シエラはビルヘルムに今回のことを謝罪しましたが、ビルヘルムの態度は終始冷ややかだった。

「そもそもルーデン城にいるはずの大領主が最前線まで来ている理由は何だ？」

「私の不覚です」

「不覚ということなら昨日受けた被害は消えるのか？」

ビルヘルムは指で木のテーブルを叩き、苛立っている様子だった。誰も声をかけれず、呼吸の音さえ聞こえない静かな部屋で、ラインハルトは「陛下」とビルヘルムに視線は向けず、シエラを見つめたまま声をかけた。

「誰にも予測できない状況でした。それに突然の戦闘ではありましたが被害は微々たるものでしたし、グレンシア卿がいなければ今頃全滅していたでしょう」

「戦場は元々予測できない状況で行われる所だ。そして人に話す時は首をこちらに向けるのが礼儀ではないか」

冷ややかなビルヘルムの言葉で、ラインハルトはようやく視線をビルヘルムに向け、すぐに頭を下げて「申し訳ありません」と謝りました。

シエラは降格が決まり、その後は全員席に座って状況報告をします。ディートリッヒも首都から来ていて、ラインハルトの隣に座りました。ラインハルトは必要以上にビルヘルムに視線を向けることは無かったけど、ビルヘルムから「ルーデン大領主はどうするつもりか」と聞かれ、一日でも早く帰還をすると話しました。

ディートリッヒはこのタイミングでルーデンに戻ることは出来ないので、ビルヘルムはシエラをラインハルトの護衛にすることを命じます。それから雨が1週間ほど降り続きそうだという話になり、ビルヘルムは「皇子が喜ぶ」と口にしました。

「ルーデン大領主、滞在中はデボン皇子を預かってくれ」

ラインハルトの最初の子供

城は人が暮らすために建てられたものではなく、倉庫としての役割が大きかったため、規模も小さく、みすぼらしかった。ラインハルトは自分に割り当てられた部屋に戻り、護衛として同行していたシエラと話をしていると、隙を狙っていたビアンカがシエラの髪の毛を引っ張りました。

「ビアンカ・リンケ」

笑っていたビアンカは怒る母を見てすぐに態度を改めたけど、昨夜怖い思いをしたばかりの子供を叱るより笑わせた方がいいと思ったシエラがビアンカを庇い、小さくなっていたビアンカを抱きしめて脇腹をくすぐりました。

ラインハルトはビアンカをシエラに任せ、ここにビルヘルムが来ると知っていたら絶対に来なかったのにと強く思いました。真っ黒な瞳は燃焼してしまったかのように灰色に変わっていましたが、思えば前世ではビルヘルムの瞳が灰色だった。

あの灰色の目をしたビルヘルムが、ラインハルトの知るビルヘルムではないと思うからなのか、なぜか目が合った時にラインハルトの心臓の鼓動は早くなった。

自分の人生を生きて。そう思っていたはずなのに、ラインハルトへの気持ちなどどこにもなさそうな様子を見て、それを幸いだと思わなくてはいけないのに、ラインハルトはそんなビルヘルムがまるで割れたグラスのように見えていて、空虚な気持ちになりました。

そこへ、ディートリッヒがやってきます。ビアンカは飛びついて喜んだけれど、訪問者はディートリッヒだけではなかった。「誰？」と尋ねるビアンカに、ディートリッヒは「皇太子殿下」と言いました。

デボン・ビロイ・アランカス。ラインハルトの最初の子供だった。

「お久しぶりです、殿下。お元気でしたか」

「閣下も…」

泣きそうな顔をしているビロイはそれ以上言葉が出てこない様子だった。ビアンカがビロイに近づこうとするので「ビビ、行儀悪くしないで。こっちに来なさい」とラインハルトは言いました。

ビアンカがラインハルトのスカートの裾にくっつくと、それを見ていたビロイの目が大きくなった。ビロイが咄嗟に後ろにいる護衛のエゴンのズボンを握ろうとしたが、すぐに手を元に戻したのを見て、ラインハルトは床に片膝をつき、「こちらへどうぞ」とビロイを呼びました。

3年前はもっと小さかったビロイがこんなに大きくなっていることに、歳月をラインハルトは感じました。ビロイは歩いてくるとやがてぽたぽたと大粒の涙を流し、ラインハルトはその頭を撫でました。そして、ラインハルトは自分は何てことをしたのかと自分自身を責めた。ラインハルトはビロイを抱きしめ、自分も泣いてしまいそうになったけど、それこそ自分には泣く資格なんてないと思いました。