コミカライズ連載している「元夫の番犬を手なずけた」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。
(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)
元夫の番犬を手なずけた(전남편의 미친개를 길들였다)
原作:Jkyum
16.底なし沼をよじ登ると
ビルヘルムの中の獣
ビルヘルムは魔物たちに囲まれた小屋の中からラインハルトの声を聞き、魔物を倒して床に座り込んだ彼女を見つけました。ラインハルトの顔を執拗に眺めても、夜の雨がビルヘルムの陰険さを隠してくれるので良かったとビルヘルムは思いました。
女は魂が抜けたように子供を抱いて俺を見上げるだけだった。
汚れた金髪、汚れた服。それにもかかわらず、しみじみと美しい女性だった。
体が震えた。
ああ、俺の主人。
ラインハルトを見送ったあの日から、ビルヘルムは自分の心臓が動いていると思ったことはありませんでした。飼い主を失った犬は命令が無ければ動けない。何をすべきか分からない時さえあるほどでした。
そうしてラインハルトと再会した時、ビルヘルムは彼女の元に戻るためにこの長い時間を耐え抜いたのだと思いました。
ラインハルトの前で関心がないような態度をしたのは、ラインハルトがビルヘルムに背を向けたからでした。だからこそビルヘルムは息を殺し、隙ができるのを待った。
いつか、ディートリッヒから教わった鹿狩と同じでした。獲物の前では関心のないふりをする。一時は殺してしまおうと思っていた男の言葉がまだ自分に脳裏に残っているのが、ビルヘルムには不思議でした。
ラインハルトに再会したとき、以前した約束など無視してしまいとビルヘルムは思いました。
彼女を抱きしめ、愛をささやき、キスするだろう。頭のてっぺんからつま先まで口の中に飲み込み、残さずコリコリと噛んで食べるだろう。
しかし、いざラインハルトと向き合った今、彼は到底そうすることができなかった。
ラインハルトの目は冷たく、自分にうんざりしているのだとビルヘルムは思いました。それにも関わらず、ビルヘルムは恍惚としました。どうしても壊せなかった肖像画よりも数千倍ラインハルトは美しかった。
「私に言いたかったことはそれだけですか?」
部屋から立ち去ろうとするラインハルトに、ビルヘルムは「行かないで」と言いたかった。けれど、それを言ったらラインハルトは見向きもせずに立ち去ってしまうとビルヘルムは思い、「聞きたいことがある」と話を切り出します。
「あなたは、もう俺を愛していないでしょう」
ラインハルトを引き止めるために慌てて言ったその言葉は敬語になっていたが、ビルヘルムは気づかなかった。
ビルヘルムは自分の内臓が焦げていく心地を感じていました。かつて、一度目の人生で彼女の領地・ヘルカに滞在した時もこのような心地になりました。しかし、やがてその感覚は強くなり、ビルヘルムの心臓を四方から引っ張り、破ってしまうかのようでした。
あんなに美しいのに。俺が壊した。
ビルヘルムの中の獣は静かにささやいた。
そのまま引っ張って。抱きしめてしまおう。犯しちゃおう。愛してしまおう。どうせ彼女は俺を軽蔑するだろう。軽蔑されることさえ嬉しいじゃないか。彼女が俺の首を絞めたくてたまらないようにしよう。あの冷たくて細い白い手に首を絞められてこの人生を終えてしまおう。
自分の中の囁きに、ダメだとビルヘルムは否定しました。そうして台無しにしたはずだ、と自分を戒めますが、ビルヘルムの中の声は「どうせ壊れたのだから壊してしまおう」と言います。
じゃあ、俺の中で壊してしまおう。ベッドに押し倒そう。俺のものにしてしまおう。悪口を言って、軽蔑されて、汚いものになろう。
大好き。憎まれるのも大好き。俺を刺して、蔑視して、俺が狂っただけ彼女も狂ってしまおう。
暗いところに閉じ込めよう。誰も来られないところに閉じ込めて、彼女が暗闇の中で俺だけを待つようにしてしまおう。
俺の人生だけでなく、彼女の人生も汚い俺が踏みにじってしまおう。
ラインハルトを引き寄せて口付けがしたかった。しかし、以前舌を噛んで自死しようとしたラインハルトを止めるために自分の指をラインハルトの口の中に入れたことをビルヘルムは思い出しました。
あの時、ラインハルトの舌のかわりになったビルヘルムの指にはいまだに傷が僅かに残っています。その傷を見るのも辛くて、ビルヘルムはいつも黒い手袋をしていました。
ラインハルトが自死しようとした時、自分はどんな気持ちになったのか考え、ビルヘルムは自分の中の囁きを無視することに成功しました。しかし、目の前にいるラインハルトはビルヘルムの葛藤に気づかずに冷笑し、「私がまだ陛下を愛していると信じているのですか」と言いました。
どうせなら、
「そんなことを今になって聞く理由はなんですか」
「確認。確認しようと……」
ビルヘルムはしどろもどろになりながら、ルーデンに密偵を送らなかった理由を説明しました。それは、ラインハルトがすぐに死んでしまうと思っていたからでした。だから、ラインハルトの訃報を聞かないために密偵をあえて送らなかった。
「けれどあなたは元気に生きていて…もう俺を愛していないし。愛はなくなっても束縛された俺は自分で死ぬこともできないのに」
ラインハルトは以前ビルヘルムに死ぬなと言いました。自分が死んだ時にビルヘルムが後を追ったら楽になれないと。(3巻後編)
そう言っていたラインハルトの言葉によって、ビルヘルムは死ぬことが出来なかった。
「でももう俺が死んでも構わないですよね。ラインハルト、死んでもいいと言ってください」
ラインハルトは顔をしかめて「陛下がどこで死んでも私の知ったことではありません」と言い、ビルヘルムは歓喜しました。
「しかし戦場で無責任に進軍しないでください」
ビルヘルムは戦争が終わったら死んでもいいのだと考え、嬉しくなった。そして、どうせ死ぬのなら最後に欲張ってみたくなった。
「愛、愛してるって。愛してると言ってください」
「…………」
「それで一生懸命戦います。死ぬほど。いや、死なずに。あなたが安全でいられるように。最後の魔物がいなくなるまで。だから一度だけ」
「……愛してるわ」
もう一度その言葉を繰り返したラインハルトは、そのまま部屋を出ていきました。ビルヘルムはラインハルトが落としていったショールを拾い上げ、その香りを吸い、恍惚とした。ビルヘルムは死んだ竜の気持ちを理解しました。ビルヘルムに残ったのは死だけだったが、ビルヘルムは喜んでそこに向かうことができました。
嘘
ラインハルトは部屋に戻ったあともビルヘルムのことが頭から離れなかった。壊れていたと思ったのはビルヘルムではなくラインハルトの方だと思いました。自分の壊れた心臓を見せたいと思うほど。
ビルヘルムに、ラインハルトの言葉があったから死ねずにいたのだと言われた時、最も卑劣なのは自分の方だったのだと思いました。ラインハルトにしがみつくビルヘルムを見て、ラインハルトは喜びに包まれてしまった。
寝静まった部屋の中でひとり、ラインハルトは息を殺して泣きました。愛している。その言葉を、ラインハルトは何度も心の中で繰り返した。
自分に生を返し、復讐を代わりに果たし、ついに愛を浴びせるビルヘルムをラインハルトも愛した。しかし、ラインハルトは自分の気持ちを知らなかった。
同じベッドを使ってキスをしながら数え切れないほど愛の言葉を交わしたにもかかわらず、彼女は自分の愛を知らずに季節を過ごしてしまった。
同情を愛だと勘違いし、自分に跪くビルヘルムに優越感を感じ、自分の愛はビルヘルムに与えるべき褒賞だと思っていた。そうしてラインハルトは捧げものを貰う女神かのように傲慢になっていた。
「私が全部台無しにした」
だからこそラインハルトはもう一度ビルヘルムとの愛をやり直そうとは思えなかった。ラインハルトに愛を乞い、死を望んでいるビルヘルムはもう諦めてしまっていたから。
そうしてすすり泣くラインハルトを、寝ているふりをしていたビロイが眺め、また寝たふりをしました。
ラインハルトは自分のことを相談できる人や頼る人がいれば、ここまでの状況になっていなかったと思います…
(ただし結局全部は話せないので、相談してもビルヘルムがヤバイ奴認定されて「早く逃げなさい」って言われるだろうけど…)
ビアンカとビロイは度々ぶつかった。とは言っても、ビアンカが一方的にビロイのことに癇癪を起こし、ビロイが座っている敷物を引っ張ったり、ビロイか何かを触る度に「私の!」と言ったり、嫌いだと叫んでいました。
今までビアンカを優先していた侍女や騎士たちがビロイを優先するのが気に食わないのでしょう。
ついには「殿下が私の髪を引っ張った!」と言って泣き、ビアンカはラインハルトにビロイを叱るよう頼んだけれど、ラインハルトは聞き入れませんでした。
ラインハルトの代わりにマルクがビアンカを叱り、いつもはラインハルトの傍で眠るビアンカは大きなベッドの隅で寝ました。滞在中、ラインハルトは子供たちと同じベッドで寝てきましたが、これまではビアンカが母親を独占しようとするのでビロイは離れて寝ていたけど、今日はビアンカが離れたのでビロイはラインハルトの隣で眠りました。
眠れなかったラインハルトはベッドから抜け出して窓を開け、雨の降る外の様子を見ていると、寝ていたはずのビロイがラインハルトのスカートの裾を引っ張りました。
「……閣下が…どこかに行きそうだったので…」
ラインハルトはしゃがんでビロイと目を合わせ、ゆっくりとなぜビアンカの髪を引っ張ったのか質問します。ビアンカはそういった嘘はつくことができないし、泣いているビアンカを見たビロイの黒い瞳に、笑みが掠めたのをラインハルトは見ていました。
「ビアンカが嫌いだったんですか?」
ビロイは謝った後、長い沈黙の後に口を開きました。
「僕も…僕も、ビロイって……ビロイって呼んで」
ラインハルトは深呼吸した。ビロイはビアンカを嫌っていたし、嫉妬したのでしょう。そして夜にラインハルトが泣いていたのをビロイに見られたことをラインハルトは理解しました。
ビアンカが転んだせいでラインハルトはビルヘルムに呼び出しを受け、そうしてラインハルトが帰ってきたと思ったら泣いていた。だから、人目に隠れてビロイはビアンカの髪を引っ張ったのでしょう。
子供が嘘をつくのは良くあることで、リオニがフェリックスを叱るために走り回っている時、木の上に隠れたフェリックスをラインハルトも助けたことがありました。
しかし、なぜかビロイがビルヘルムに重なり、ラインハルトは必死に「あの子じゃない」と自分に言い聞かせました。
「ビロイ」
涙に濡れて目を真っ赤にさせたビロイに向かって、両手を広げて「こっちにおいで」と呼び、ビロイを抱きしめました。ラインハルトの腕の中で泣くのを我慢したビロイに「泣いてもいいのよ」と言うと、ビロイは大声で泣き始めました。ラインハルトはまた後悔に陥ったが、ビロイを強く抱き締めました。
きっかけ
出立の日、馬車に乗り込んだラインハルトはビロイに「ルーデンで何日か一緒に過ごしませんか?」と提案しました。
「閣下の城ですか?」
「そうですね。ビロイが過ごしていたところです」
ビロイは興奮で顔を真っ赤に染めながら喜びました。しかしビロイはすぐにビアンカに嫌がられると言います。
「大丈夫。ビアンカは不慣れなだけです。それにビアンカにも世の中がそれほど簡単なものでは無いと教える必要があります」
最後の言葉はディートリヒ式の冗談だったが、ビロイは理解できないようだった。そこへシエラがビルヘルムの出征の知らせを伝えたので、ラインハルトはビロイと一緒に馬車を降りました。
ビルヘルムはラインハルトを見た後、ビロイの頬を触り「いいね」と無表情のまま呟き、そのまま馬にまたがって出立していきました。
ビロイはビルヘルムに向かって「お父様」と慌てて呼びかけ、ラインハルトはビロイが父親に向けてそのような呼び方をしてると思っていなかったので驚きました。
遠くでディートリッヒが頭を下げて出立するのを見て、ラインハルトはため息をつき、「リオニにまた怒られる」と冗談を言うと、シエラが「私がいじめる度に怒られると言っていました」と言いました。
遅すぎたとしても謝らないよりは謝った方がいいので、シエラにはリオニに会ったら謝罪するように言うと、シエラは笑って「遅すぎる愛の言葉についてはどう思いますか」とラインハルトに尋ねました。
シエラはここ数日、ラインハルトの護衛をする中で、ラインハルトの中にビルヘルムに対する未練があるのではないかと思うようになっていました。そして、ビルヘルムもラインハルトに未練があるのだと。
ビロイを戦場に連れてくるということは普通に考えたらありえないことだった。それが、まるで子供を盾に許しを乞う男のようだとシエラは思いました。
グレンシアの狐と呼ばれるペルナハと似ている観察眼を持ったシエラは、しかし兄とは違って顔色を伺うことをせずそのまま率直にラインハルトに言いました。
「不本意ながらすすり泣くのを聞きました」
シエラは、お互いに未練があるのに下手に動けずにいる二人にきっかけを与えたかった。シエラは魔物との戦闘中にも関わらずラインハルトをルーデンから呼び寄せ、戦争を失敗させてしまいそうになった。けれども、それが皇帝と大領主が復縁する機会を作ったというなら、少しは言い訳が立ちます。
出立する際にビルヘルムが「いいね」と言ったのは、母親に会えたビロイに父親として言った言葉ではなく、愛する女に抱かれている者に対して言った言葉であると、シエラは気づいていました。
しかし、ラインハルトはシエラがすぐに説得できるような甘い性格をしていませんでした。
「卿は皇后になりたいと言っていたのに。プライドはないの?」
「なりたいとは思っていましたよ。でも、皇帝陛下はどうやら愛する女性のために死ぬ方のようですから。フラン山脈から棺が降りてくるかもと言いたかっただけです」
ラインハルトは、ビルヘルムが死にたいと言っていたのを思い出しました。魔物を滅ぼすまで死なないと言っていたけど、ビルヘルムの言葉が妙に引っかかった。
『それで一生懸命戦います。死ぬほど。いや、死なずに。あなたが安全でいられるように。最後の魔物がいなくなるまで』
その時、マルクが慌てながら「お嬢様がいません!」と報告しました。
後悔が残るなら
ルーデンに帰る準備で追われている間に、ビアンカが部屋を抜け出したようだった。魔物との戦いがあるこんな場所で消えてしまったビアンカに、ラインハルトは不安で気が狂いそうになりました。
そこへ、ビロイが控えめにラインハルトの裾を引っ張って「閣下」と話しかけます。
「すみません。僕のせいです。僕がビアンカの髪を引っ張って…ビアンカに、君が転んだせいで閣下が陛下に会って泣いてしまったと言いました。陛下はいつも、悪いことを言うから…」
「…………」
「僕が憎いと言ったので、僕もビアンカが憎いと言いました。ビアンカは閣下と暮らしているから…ビアンカは変えるから、憎まないでって」
わずか3歳のビアンカは、ビロイが憎いと言いつつ、ビロイに悪いことばかり言う父親のせいでビアンカを憎むなら変えてあげると話したのだと言いました。
いきなり登場した兄だという子供に驚いて混乱して「嫌!」って駄々をこねていたのに、その子供がビルヘルムにいじめられていると思ったら「じゃあ変えてあげる」って言って行動できるの凄すぎませんか…?ビアンカ、将来有望すぎる
軍馬の餌を運ぶ低い山車の中にビアンカは隠れていました。そこで寝てしまい、起きて周りが真っ暗なのに驚いて泣いてしまい、そうしてビアンカは兵士たちに発見されました。
報告を受けたディートリッヒは慌ててビアンカの元に行き、「ビビ、これはどういう事ですか」と呆れながら尋ねます。
ビアンカを抱き上げて、副官に皇帝のところに報告に行かせると、ビルヘルム自身が様子を見に来ました。
涙を浮かべた金色の瞳を見てわずかに表情を緩めたビルヘルムは、ビアンカを抱えたディートリッヒに手を差し出しました。ディートリッヒは躊躇したものの、素直にビアンカをビルヘルムに渡しました。
ビルヘルムを抱えて眺めたビルヘルムは「近くで見ると似ているな」と言ったあとすぐにディートリッヒにビアンカを渡そうとしたが、その前にビアンカがビルヘルムに話しかけました。
「陛下はお父様ですか?」
「俺にそう聞くのをラインハルトは嫌がるはずだ」
ビルヘルムはディートリッヒにビアンカを渡し、3日後に合流するよう伝えて兵士をその場に残して立ち去りました。ディートリッヒはため息を吐いたあとに「こんなことをするなんて。ビビのお尻をたくさん叩くつもりです」と叱るとビアンカは涙を流したが、「泣いても無駄です!」と言われ、ビアンカはびっくりしました。
来た道を引き返した手筈をしていると、遠くからラインハルトが馬で駆けて来るのが見えました。お尻を叩くディートリッヒから自分を救う救世主のように見えたのか、ビアンカは「お母様!」と喜んだが、二人の元まで来たラインハルトはビアンカを素早く抱きしめてから大声を上げました。
「ビアンカ・ステラ・フリーダ・リンケ!!」
正式な名前を呼ばれることがどういう意味なのかを本能的に悟ったビアンカはディートリッヒの元へ逃げようとしたが、ラインハルトは逃がさなかった。
ラインハルトはディートリッヒに謝るが、「戻らなくても良くなったので助かりました」と言いました。
「悪いけど、ディートリッヒは戻ってもらう」
「……閣下?」
駐屯地にはビロイを残していて、ディートリッヒにはビアンカを連れて駐屯地で二人の子供を護衛してほしいとラインハルトは思っていました。
「ビロイとビアンカをこの人に任せることは出来なくて」
この人と呼ばれたシエラはその場で「私のような勇敢な騎士が他にどこにいるのですか」と文句を言いましたが、ディートリッヒの目はラインハルトに向けられていました。
「ごめん、ディートリッヒ」
「閣下、まさか」
「ちょっとでいいの」
ディートリッヒはラインハルトがビルヘルムを追いかけようてしていることに気が付きました。
「ディートリッヒ、あなたは以前、私は人をチェスの言葉のように使わなければならない。 いちいち愛を与え、子犬のように大事に育ててはいけない。そう言ったわね」
「…………」
「でもディートリッヒ。人をチェスの駒に例えたゲームで最後に残るのが後悔なら、なんの意味があるのでしょうね」
そう言って笑うラインハルトを見てディートリッヒは、たとえ記憶が戻っていたとしても、自分には彼女を止めることが出来ないのだと理解しました。
小さなアップルパイ
ラインハルトはマルクを連れて全速力で山道を馬を駆けさせました。「危ないのでもう少しゆっくり走ってください!」と叫ぶマルクの言葉にも、ラインハルトは耳を貸さなかった。
『陛下がいつも悪いことを言うのはなぜだと思いますか?』
『ごめんなさい』
『いいえビロイ。私のせいです。だから、私が責任を負います』
そう話したビロイとの会話が頭に浮かびました。
『ビアンカ。ごめんね。お母様は行かないと。許してくれるよね?』
お母様と泣くビアンカにそう言って別れを告げてきました。
小さなアップルパイたち。
彼女もまた、誰かの小さなアップルパイだった時があった。愛し愛され、常に世界に愛だけが存在すると信じていた小さなアップルパイ。
すべての人が自分を愛してくれると信じて疑わなかったが、ついに裏切られた。
しかし、だからといって自分が受けた愛がなかったわけではない。それにもかかわらず、ラインハルトはその愛さえ疑った。
そうして彼女に残ったのはひたすら後悔だった。 彼女はもう後悔したくなかった。
一時期は、ビルヘルムが自分のことを忘れて、他の女性でも抱きながら「大したことなかった」と興味を無くして欲しいと思っていました。
しかし、ビルヘルムと再会して、ラインハルトは自分が本当にそれを望んでいるのか考えた。
違った。彼女はまだ傲慢で利己的で、捨てられたくなかった。
彼にいつも、いつまでもそんな自分を愛してほしかった。
彼女もまた、まだ彼を愛していたので、永遠に彼が私を支え、大切な女性であるかのように愛することを願った。
ラインハルトは、自分がビルヘルムが与える愛に慣れなければならないのだと思いました。
3日後にビルヘルムと合流地点で会うことも出来たけど、死にたいと言っていたビルヘルムの言葉でラインハルトは不安になっていました。
もしかしたら、ビルヘルムは本当に死ぬかもしれない。
『あなたの人生を生きて』
眠っているビルヘルムにラインハルトはそう言ったが、その言葉がどれほど傲慢だったかラインハルトはようやく気づくことができました。
実にひどい性格ではないか。 最も大きな傷を負わせたくせに、あなたの人生を生きろだなんて。傲慢きわまりなかった。
だからラインハルトは私の言葉に責任を負わなければならなかった。
愛して死を渇望する青年が、今は彼女だけを渇望してくれることを願った。彼がついに彼女のいない人生を謳歌できずに死んでしまう前に。
嘘をつかないと言っていたビルヘルムは、最後の魔物を倒すまで死なないと言った。しかし、その最後の魔物を倒したら?
生きることに執着のないビルヘルムが、竜の巣を壊したあとどうなるのかラインハルトには分かりませんでした。
フラン山脈は雪に覆われた寒い土地です。シエラは追いかけようとするラインハルトに、自分の外套を渡して背中を押してくれました。ラインハルトの事は好きでは無いが、こうしたら自分がかっこよくなるという理由からでしたが、それでも有難かった。
ラインハルトは父親の言葉を思い出しました。
『途方に暮れる時こそ、自分を直視せよ。 他人ではなく自分が望むことが何なのか、望まないことは何なのかをよく考えなさい』
父親の剣が変色した時は、ラインハルトが最も傲慢な時でした。長い人生を憎悪で染まりながら生きてきて、裏切りに目がくらみ、自分の愛さえ無視した時だった。
お父様。
お父様の小さなアップルパイが欲しいものは…
「ビル、ヘルム」
風が冷たかった。それでもその名前を口にするだけで、もう少し前に進めそうだった。
4巻前編を読んだ感想
いけーーーーー!走れーーーーー!駆け抜けろーーーー!!
まるで競馬を見ているかのような、追い立てる気持ちが湧きました。(競馬はほとんどしませんが…)
ビルヘルムが与えるものを受け取り、それが汚れたものだと知ってビルヘルムを捨てたラインハルトでしたが、ようやく自分の傲慢さに気づけた回でしたね。
それこそ二人の間に上下関係があったからこそそのような事になったのだと思うし、対等な立場であったのならキチンと理由を聞いたはずです。
自分を裏切るはずがない。自分に栄光を与えてくれるに違いない。そういった傲慢さがラインハルトの目を曇らせていたのだと思います…本当に相談役がそばにいたらよかったのに。そう言った意味では、やはり途中抜ける事なくディートリッヒがそばにいるべきでしたね。
さて、いよいよ次の記事で本編が終わりを迎えると思います。どのような結果になるか、最後までお付き合いください。
更新ありがとうございます。仕事中から楽しみすぎて、家事を終えてお風呂に入って、ベットに入ってゆっくり読みました。いりさん、最高の時間をありがとう。
漫画好きおばたんさんコメントありがとうございます!(名前面白くて好きです!)
こちらこそ仕事や家事の後の貴重な時間に記事を読んでくださりありがとうございます!
すみません、コ~フンして名前が消えていました。みいしゃです。(-_-;)
いりさん更新ありがとうございます
なんか色々切ない…切ない
けど焦れったい!笑
ラインハルトが自分の気持ちに気付けて本当に良かった。
早く幸せな2人が見たいし、みんな幸せになってほしい。
ハッピーエンドが待ち遠しいです!
最終話、期待してまーす(*´﹀`*)
こむぎさんコメントありがとうございます!
切ないけど焦ったい!めちゃくちゃわかります…!次の記事で本編完結となります。更新完了しているのでお時間ある時に読んでください!
更新ありがとうございました(*^^*)
電車の中で我慢できずに読み進め、泣いたりドキドキ赤面したりしてほかの人からヤバい奴と思われてたと思います。
シエラもそうですが子供たちもいい仕事(笑)してますね。さすがラインハルトの血を引いてる。次回が楽しみでしょうがないです。また何度も読み返してみるつもりです。
いりさんもお忙しいと思いますがお体にお気をつけてお過ごしください。
11さんコメントありがとうございます!
電車の中で…!
わかります。私、最初シエラがあまり好きじゃなかったのですが、いい感じに手助けしてくれるのでどんどんか株が上がりました(笑)次の記事で本編完結となります。お時間ある時にまた読んでください!
待ってました、更新ありがとうございます!
どうしても原作を読みたくてNAVERに登録しようとしたもののうまくいかずで。嬉しいです。
ずっと2人は辛い関係でしたが、希望の兆しがみえてきたのでしょうか。最後まで見守ってます。
SUIさんコメントありがとうございます!NAVER私も登録したのですが、微妙にややこしいですよね…。4巻中編では冷たい二人の関係にようやく兆しが見えた感じで終わりましたね。次の記事で本編完結となります。お時間ある時にまた読んでくださいね!