コミカライズ連載している「悪女が手懐けた獣」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。
(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)
悪女が手懐けた獣(악녀가 길들인 짐승)
原作:Seol Young
ネタバレ記事一覧
1巻 | 2巻 前編 | 2巻 後編 |
3巻 前編 | 3巻 後編 | 4巻 前編 |
4巻 中編 | 4巻 後編 | まとめ |
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Chapter 4
マグヌスがイリアナを閉じ込めているときくと、シェリルは驚きましたが、「確実に手に入れるならそれが1番いい」とマグヌスは話します。
シェリルはイリアナを愛しているのか聞きますが、マグヌスはそれを鼻で笑いました。マグヌスは「俺を信じた瞬間、地獄へ落とす」と話しますが、シェリルはそれで傷つくことになるのはマグヌスだと思いました。
「復讐を終えればきっと幸せだろう。そのあとは君を皇后にしてあげるよ、シェリル」
シェリルはそんなもの望んでいなくて、ただ静かに暮らしたいだけだと話すけれど、マグヌスはそれが自分を助けた贈り物だと言って聞いてくれません。
「君と俺の子供が次の皇太子になり、皇帝になるだろう」
「だから私はそんなのいらない」
マグヌスはイリアナを閉じ込めて4日目だとシェリルに話しました。閉じ込めていたのを今日初めて聞いたシェリルは、「食事は与えているよね?」と聞きます。
「人は1ヶ月ほど食べなくても死なないと君が言ったじゃないか。水は部屋の中にあるポットにたくさん入っているから、死にたくなければ探して飲むだろう」
「あなた、おかしくなったの?それで死んだらどうするの?」
「死なない。あの人は死ぬわけない」
ポットに水がなくなったら?ミスしてこぼしていたら。人は3日だけ水を飲まないと死んでしまう、とシェリルが言うと、それまで緩んでいたマグヌスの顔が変わりました。マグヌスは今日見に行くつもりだった、あの人のことは自分が1番わかっていて、死にそうだったらしなかったと言い訳します。
シェリルは復讐をしたいなら家を断罪して首を切るなりすればいいと話しますが、マグヌスは「それでは絶対に俺に跪くことはない。苦痛に屈する人では無いから」と言いました。
マグヌスにとって、今回のことは警告のためにしたことで、彼女を殺したり、手足を不自由にしたりする気はありませんでした。イリアナがしていたことを考えれば、今回のことはそれほど酷くもないとも思っていました。
優しくして、必要なら抱くし、お願いをされれば聞くつもりでした。マグヌスが居なければ何も出来ない人にするつもりでした。
マグヌスは精霊のノックスを呼び出し、ユナの様子を見に行くことにしました。
ノックスはマグヌスが契約した闇の精霊で、エルフのような見た目をしていますが、その肌も衣服も真っ黒です。
ユナはこの4日間で暗闇の部屋に適応していました。4日目になると暗闇の中での風呂を楽しむほどの余裕が生まれていました。起きている時は暗闇でも、他人の夢に入ることが出来るのでノイローゼになることもありません。
むしろ暗闇カフェもあるくらいだし、と闇になれてきたら中々悪くない生活だとユナは思いました。
最初はひとつしか見えなかった白い糸は、今ではたくさん見えるようになっていました。白い糸が見えるのは、ユナが夢と現実の境界に足を踏み入れた時に見えました。それぞれ太さも長さも異なり、ラファエルは細くて短くてわかりやすい。イリアナ・グレインも弱らせたマグヌスの夢にこうして入ったのでしょう。
しかし、食事抜きにされるのは辛かった。おかげでラファエルの元で味もしない腹を満たさない形だけのケーキを口に入れることになりました。
ユナはイリアナ・グレインがマグヌスにしたことを考えました。マグヌスは暗闇の中で水も食事もできないまま恐怖していました。マグヌスが自分にされたことを同じようにしているとしたら。人との繋がりを断ち切って優しくし、そして最後には。だからこそ、マグヌスは「皇后」という席を持ち上げたのでしょう。いちばん高いところから低いところへ落とすために。
おそらくマグヌスに心を渡さないことが、ユナができる自分を守る方法です。
マグヌスが部屋に入ってきて、部屋が明るくなりました。ユナはマグヌスの前に跪き、謝罪をします。心のない謝罪になるけれど、マグヌスはイリアナ・グレインがこのようなことで折れる人だとは思っていないから、あえて折れてみることしました。
マグヌスが動揺しているのを見て、ユナはむしろ妙な喜びを感じました。これが自分の感情なのかイリアナ・グレインの感情なのか、混同された感情にあえて目を向けませんでした。
「あなたはなにか悪いことをしましたか」
「鈍い頭では依然としてどんな罪を犯したのかわかりません」
ユナが折れるとしても、それは罪を認めることではありません。マグヌスを解放した時にユナは後片付けを綺麗していたので、自白さえしなければ証拠は出てきません。
「罪があれば甘んじて罰を受けます」と話すユナに、マグヌスは明るく笑ってユナを立たせ、ユナに口付けました。いきなり口付けされると思わなかったユナは驚きます。
「覚えておいてください、イリアナ。欲しいものがあれば俺にこのようにお願いをしてください。それが俺とあなたの最初の約束です」
マグヌスはユナの乱れた髪をととのえ、湿った唇を触り、「今日の褒美は何が欲しいですか?」と聞きました。
ユナはベッドの他に必要な家具と灯り、それと邸宅から服を持ってきて欲しいと話しましたが、「願いは一度に一つだけ」だとマグヌスが言いました。
なぜなら、ここはイリアナの教育するための場所で、イリアナが過ごすのはマグヌスの部屋だから。マグヌスは自分の言葉には返事をすること、メクと呼ぶことを命じます。
従わなければ罰が与えられることが分かっていたユナは大人しく「はい、メク様」と答えました。マグヌスの傍にいた妖精が「こんにちは」と挨拶しますがユナが返事を返さないと、満足げにマグヌスが笑いました。
「それでいいです。俺が許可しないなら言わないで、俺が許可しないなら見ないでください。あなたが俺の許可なしにできることはありません」
それから3日後、食事の場では、マグヌスとシェリルが会話しているが、ユナは黙ったまま食事をしました。最初は話しかけてきたシェリルですが、ユナが答えないのを見て理解したようでした。
皿は中身が半分だけ減っただけだったのでシェリルが驚き、マグヌスも眉間に皺を寄せますが、ユナはこれ以上食べることができませんでした。元々の体質なのか、食事が抜かれていた時でもあまり空腹を感じなかったし、水も適量さえあれば十分でした。
ユナは肉が好きだったけれど、イリアナ・グレインは味が淡白で匂いが薄いものが好きだったようでした。だから今のユナはこれ以上食べたいものがありません。
マグヌスの許可をもらって部屋に戻ったユナは、ベッドに入った途端に眠気がきて、うとうとしていると真っ黒な糸が見えたので、ユナはそれを掴みました。
この3日間、マグヌスと一緒だったのでユナはあまり眠れていなかったようです。ずっと気を緩められないのでそりゃ一人になったら眠気も来ますよね…
ユナが入った夢はこれまでと違っていました。そこは死体だらけで吐き気を催すほどだった。夢の持ち主を見つけるには、その世界が鮮明な場所を目指せば良い。人の頭が作り出したものなので持ち主が離れれば形は不確実で曖昧なものになるからです。
死体の道を進むと、黒い髪の男がいました。「お前は誰だ?」と聞いてきた男はユナの目の前までやってくると「イリアナ・グレイン?」と聞きました。男はイリアナ・グレインと知り合いで、情報をやりとりしていたようでした。ユナはグレイン侯爵の時のように自分が記憶を失ったことを話しました。
ユナはラファエルの夢を想像すると殺風景だった世界から、いつものラファエルの世界になりました。いきなり世界を変えられた男は不快感を示しましたが、自分が飼っていた男が皇帝になったのはどんな気持ちが聞いてきます。
「私のことは気にせず、よく食べて幸せに暮らして欲しい」
男にマグヌスが良い皇帝になるのか聞かれてユナは肯定します。今はイリアナ・グレインに対する復讐心が強いが、それを捨ててまともな皇后を迎えたらやがて良い皇帝になると話しました。
「皇后になる気はないか」
「全然。絶対に」
男は自分の夢なのにどうやってここに来たのか聞くけれど、ユナは「いつ起きるの?」と話を変えます。男が「4日」と答えるのを聞いて、ユナはマグヌスに能力がバレる前に帰らなくてはいけません。4日間もここにいたらバレてしまう。ユナは現実へ戻る扉を想像すると真っ黒な穴が出現し、そこに入ると夢から覚めることができました。
イリアナ・グレインがマグヌスをペットとして飼っていたことを知る男、となると何だか物語の重要人物のような気がしてしまいますが、実は物語全体を見るとそんなに活躍しません…。この作品ではたくさんの登場人物が現れますが、基本的に重要な話の役割を持っていたりはしません。
ユナが目を覚ますと、そばにいたマグヌスが「体は大丈夫ですか」と聞きました。昼寝をしたはずだったのに、ユナは何日か寝てしまっていようです。声が枯れていて返事が返せないユナはマグヌスが持ってきた水を飲みます。昼に着ていた服から変わっていましたが、誰が着替えさせたのかは精神衛生上気にしないことにしました。
睡眠不足と胃炎や栄養失調の気配があり、5日間眠っていたのだとマグヌスが言いました。マグヌスは侍女に必要なものを命じることと部屋で食事をしても良いことを許可しました。
ユナは過去になにかあってもそれをそのまま埋めておくことはできないのかマグヌスに聞きました。マグヌスは今皇帝で、愛する人がいて、足りないことはありません。罪は処罰できる方法がいくらでもあるのにあえて面倒な方法を選ぶ理由がわからない、とマグヌスに言います。
「あなたを最も惨めにしたいから」
マグヌスの言葉を聞いて、ユナは頷いたあとにマグヌスの肩を掴んで口付けました。口付けを終えるとユナは図書館と散歩に行くことの許可を求めました。マグヌスの顔がこわばったので、跪く必要があるかと思って動こうとすると、マグヌスがそれを止めました。
許可なく跪かないこと、自分と話す時は目を合わせることをマグヌスは命じました。マグヌスは来週の宴会でイリアナが正式に皇后になると発表することを話します。
それを聞いたユナは、ある程度自分がマグヌスにハマれば、自分を捨てることが出来るのだろうか、と考えました。
マグヌスはシェリルの検診を定期的に受けて、その間はシェリルと会話しても良いと許可しました。ユナがベッドに寝転がると、マグヌスが額に手を当てて「イライラするので体調に気をつけてください」と言います。
その言葉と体温に、ユナの心臓が乱れました。しかし、これは偽りの優しさであることをユナは知っていました。
シェリルの言う通り、復讐しても結局後悔するのはマグヌスになるのでしょうけど…本人は全く気づいていませんね。
ユナが一人で部屋にいると、ロイヤルナイトの一つである風狼(※後述します)の団員がユナの護衛を担当することになったので、ユナに挨拶に来ました。団長のフェルトはあの死体だらけの夢にいた男でした。ユナの護衛は団員3人が担当し、これから24時間、8時間ずつを3人で交代して護衛するのだと言われました。
そのあと護衛の団員たちを部屋から出したフェルトはユナに、(※)風狼は初代皇帝が作ったもので、とある場所を監視しており、自分たちが主人だと認めれば忠誠を違うが、そうでなければ国のことに関与しないことを話します。
どうしてそれを自分に話すのか聞くと、皇后になるからだとフェルトは言いました。フェルトがイリアナ・グレインが皇帝を拉致した事実を無視していたのは、まだ皇帝を主人として認めるか迷っていたからでした。しかし、過去のことをわざわざ持ち出すこともしないので、皇帝に聞かれない限りは教えるつもりは無いとフェルトは言いました。
ロイヤルナイト(皇帝の所有する騎士団)の中でも何組か分かれていて、フェルトが団長を勤めるのは風狼という団です。風狼は特殊で、自分たちが主君だと認めれば従うといった変わった慣わしがありました。
ユナが護衛のフィリップを連れて散歩に出ると、一人で砂の城を作ろうとしている3歳くらいの茶髪の子供をみつけ、ユナは声をかけて一緒に砂の城をつくりました。両親がどこにいるか聞くと、その前に子供が「お母さん!」と声を上げて駆け寄って行きます。
カシオ、とシェリルが子供を抱きしめて、そばにマグヌスがいるのを見えました。マグヌスとシェリルの間にこの時点で子供がいるとは思っていなかったユナは驚きました。マグヌスに手を引かれて、ユナはシェリルやカシオと話せないまま部屋に戻されました。
マグヌスの機嫌は明らかに悪かった。部屋に戻ってユナをベッドに押し込み、土に触れる行為まで許していないと言い、約束を破った罰として、黒い布でユナの視界を奪いました。
そして、今から許可しない限り声を出しては行けないと命じられます。そのままマグヌスは部屋を出ていってしまい、ユナは恐怖に襲われました。
マグヌスは自分の管理外のことをされて腹が立ったのかな、と思いました。砂遊びくらい許せばいいのに…。
最近の皇城は薄氷の上でした。皇帝の機嫌が悪く、グレイン侯爵もデモをするかのように会議に参加しませんでした。そこへ1週間ぶりにグレイン侯爵が会議に参加し、娘を皇后として渡すことは出来ない、とマグヌスに主張します。
マグヌスはグレイン侯爵と対峙しながら、イリアナのことを考えました。目隠しは3日目になりましたが、イリアナが怯えている姿を見てもマグヌスは楽しくありませんでした。マグヌスはイリアナが自分に従うのをずっと待ち望んでいました。けれど、時が経てば経つほど、その姿を見れば見るほど、気分が悪くなりました。
グレイン侯爵はイリアナの記憶が抜けていることを伝えます。マグヌスはまた話す席を設けるがイリアナを帰すことは出来ないと言いました。
マグヌスも視界を制限されてかつてイリアナに世話をされていた時期があったので、同じことをやれば自分の心が満たされると思っていたのでしょうね。
ユナは部屋の扉があいた音を聞きました。マグヌスがイリアナの名前を2回呼ぶけど、許可が出ていなかったのでユナは返事をしません。答えていい、と許可を貰ってようやく返事をします。マグヌスの呼吸は何故か早かった。マグヌスに記憶を失っているのかと聞かれ、ユナは戸惑いました。
視界を奪っていた布が外されます。なぜ言わなかったのか聞かれ、記憶が完全ではないのは事実だがぼんやりと何があったのかはわかっている、とユナは答えました。
グレイン侯爵は神官修行に行った時からだと言っていたけど、もっと前からで、初めてマグヌスに解毒薬を渡した時では無いかとマグヌスは言いました。その時から優しくなり、獣と呼ばなくなったのだと。
ユナが答えないでいると「どうして何も言わないのか」と聞いてきます。
「何を申し上げればいいですか」
「何をしてもいいですが、俺から逃げることは考えないでください。 俺はあなたを手放す気がありません」
「どうして?」
「あなたが好きだから」
マグヌスはメクだった時と同じように私にささやいた。首筋に口づけをして、この上なく優しい声でささやいた。私はただ力なく笑った。唇から空気が抜ける音がした。
メクだった時は、ただ洗脳された通りに詠んでささやいただけだ。しかし、今は違った。 彼ははっきり考えている。何らかの意図を持っていた。
「なぜですか?なぜ私が好きですか?」
「イリアナ、好きなことに理由が必要ですか?」
マグヌスは優しい声で嘘をついた。
合わせてあげればいいのかな、と考えたユナはマグヌスの首筋に両手を巻き付け、引き寄せました。バランスを崩して2人してベッドに倒れ込み、「イリアナ?」と呼ぶマグヌスに笑いかけました。
「陛下、私はあなたを愛せばいいのですか?」
「あなたに夢中になって、あなたなしでは生けていけなくなればいいのですか?」
「そうして飽きた陛下が私を捨てれば、私は自由になるのですか?それなら愛します。あなたの望み通りに」
ユナは元々の世界で酷い片思いをしていた事がありました。2度目ならそんなに痛くない。しかも、今回はマグヌスが演技であること、自分自身がそれに気づいているので、明らかに違います。
マグヌスは長い沈黙の末に「そうしてください」と答えました。
「俺を愛して俺だけを見ればいい。そうやって落ちてください」
「それで陛下も私も自由になれますか?」
マグヌスはユナの唇と手の甲に口付けて、「その時になればわかるのではないですか」と答えました。ユナはこの関係が1年にも満たないと思っていました。早くユナが落ちて、マグヌスが満足すればいいと思いました。
イリアナ・グレインを籠絡して最終的に捨てることがマグヌスの目的なら、自分が早く絆されれば解放されるとユナは考えたのでしょうね。
それから1週間、ユナはマグヌスが望む反応と表情でいました。食事の席では笑ってみせたり、マグヌスが用意したドレスを着て、宴会にも出ました。
宴会ではマグヌスに手を握られ、ユナがマグヌスを見ると彼は溶けそうな笑みを浮かべていました。ドンドン、とユナの心臓が床に落ちます。
マグヌスがダンスに誘いました。そうして踊り出してすぐ、ユナはマグヌスの足を踏んでしまいますが、マグヌスは笑って自分に寄りかかるように言いました。運動音痴だと知って屈託なく笑うマグヌスを見て、眩しくてユナは目を逸らしました。
視線を戻すと、一瞬マグヌスが固い表示をしていたのが気になりましたが、踊り終わるとグレイン侯爵と話してくるように言われて、マグヌスと離れます。グレイン侯爵の元に行くと、グレイン侯爵とアカデミーで同期だったシャベル・キリストン公爵がいて挨拶をします。
ユナにちょっかいをかけようとするキリストン公爵に、グレイン侯爵が間に入りますが
「君が7年間熱心に求愛していたアクイラは元気?」とキリストン公爵はグレイン侯爵をからかいました。
Chapter 5
キリストン公爵を追い払った後、グレイン侯爵は「嫌なら皇后にならなくていい」と話しました。ユナは「ひとまず大丈夫だけど頼りたい時は話します」と答えました。
そのあとは色々な令嬢や令息に声をかけられたが、マグヌスの視線が向いているのが分かっていたので「はい」か「いいえ」などで答えました。しかし、神官修行の話になると「庶民の匂いがついていそうだ」と話す令息がいました。
「私は高貴に生まれ、高貴に育ったので周りの匂いはつきません。あなたと生まれが違うので、本人の経験から出たアドバイスは気持ちだけ貰っておきます」
どこの家の令息かわからなくても、キリストン公爵に子供がいない限り、イリアナ・グレインより上の貴族はいませんでした。
ユナは更に令息の手を握り、レグネバ神を信仰すればあなたの愚かな脳と情けない罪が明らかになるが見放さないだろうなどと話すと、令息は逃げてい来ました。ようやく静かになったのでマグヌスに目を向けると、顔が少し歪んでいました。ユナがマグヌスの元に行こうとしたところで、「ラファエル」と名前を呼ぶ声が聞こえました。
聞き覚えのある名前に視線を向けると、夢で会っていたラファエルでした。ラファエルもユナに気づいて、ユナのドレスにしがみつきました。叔父から逃げているようです。ユナはマグヌスに退室の許可を得て、護衛のキートンとシェリルと共にラファエルを抱えたまま宴会を後にしました。ラファエルの叔父が追いかけてきましたが、それはキートンに任せました。
大人が嫌いのようなのでシェリルの息子であるカシオのいるところに向かいます。歩いている際に話題はカシオの父親のことになり、ユナはカシオの父親がキリストン公爵であることを知りました。
シェリルに子供と話したいことがあるから先に行ってと伝え、ユナはラファエルと二人で話をしました。夢の友達だけど現実で会ったからもう友達だね、と話して改めて自己紹介をすると、ラファエルは喜びました。
そして、いつも準備しておいたのになぜ来なかったの?と言われて、まさか目隠しされて監禁されてたとは言えず、仕事が忙しかったとごまかしました。これからは手紙を書くと約束し、夢のことは他で話さないように言いました。
4年前にキリストン公爵が36歳、シェリルが26歳の時に出会いました。避妊もしたし薬も飲んでいたけど子供が出来てしまい、女遊びが激しいキリストン公爵が子供の父親になれるか不安だったので、シェリルは子供のことを伝えることができませんでした。
事情を知ったマグヌスは、シェリルが皇后になって、カシオを皇太子にすると話していたようです。マグヌスにとっては恩返しの方法だったのかもしれません。
マグヌスにとって20歳の時、イリアナは神で、イリアナが世界の全てでした。けれど、イリアナにとっては違いました。
そんなイリアナが自分の手の上にいると思っていたのに、彼女はいつも予想外のことをします。シルバー子爵家との縁もいつ作っていたのかわかりませんでした。部屋に戻るとイリアナが戻っていたのでその事実だけは満足しました。
シルバー子爵家(ラファエル)との関係を聞くと、神官修行を行うコタンで会ったと言いましたが、それが嘘なのはマグヌスにはわかっていました。マグヌスは、嘘は好きでは無いから二度としないで、とイリアナに伝えます。そもそも小さな子供に会おうがマグヌスとは関係なかったので追求するつもりはありませんでした。
マグヌスは自分が狂っていることを自覚していました。しかし、イリアナもそうなので、狂ったもの同士が一緒にいるならいいと思っていました。しかし、最近は少し考えが変わってきていました。
イリアナの惨めな姿を見たい訳ではなく、壊れて欲しいという思いも溶けて消えてしまっていました。イリアナができないことや笑顔、悔しいと思っている姿を見ていたかった。相変わらずイリアナを手懐けるという気持ちはあったけれど、それは逃げないための手段でした。
マグヌスは考えながらイリアナに酒を勧めました。
イリアナ(ユナ)を苦しめたい訳ではないことに気がついたマグヌスです。このまま順調に進みますように。
酒を何杯か飲んだユナは、すっかり酔っ払っていました。マグヌスが水をグラスに注ぐと酒をまだ飲みたかったユナは悲しくて悔しくて涙をこぼし、「なんで水を注ぐんですか?」とマグヌスをなじりました。
マグヌスは信じられないという顔でユナを見ていたけど、ユナはマグヌスが酒を独占していることが悲しかった。
自分に与えるのが勿体ないのだろうか。皇帝なのにお酒をそのまま与えることを渋るなんて、と考えて涙が止まらないユナに、マグヌスが「新しく注ぎます。だから泣かないでください」と言って、水が入っていないマグヌスのグラスを渡し、ユナの涙を自分の袖で拭いました。
ユナはまた悲しくなって、「なんでいつも私だけ憎むの」と聞きます。マグヌスは慌てて首を横に振って「憎んでいません、イリアナ。俺がどうやってあなたを憎むんですか」と答えました。
しゃくりあげながら「しょうがなかったのに」「ただ怖かった」と話すユナをマグヌスは抱えてベッドに連れていき、抱きしめました。
「復讐するなら早くして。遊ぶなら早く遊んで捨てて。辛い、息が詰まる」
「俺はあなたを捨てるつもりがありません」
前より今の方の方が人間的で、ずっと好きだとマグヌスは言いました。できないこともあると知って嬉しいし、酒に弱いと知って嬉しかった。
「愛してるよ、リナ」
マグヌスはユナに口付けました。「あなたは?」というマグヌスの問いに、ユナは答えませんでした。
ちなみにダンスがうまく踊れなかったのは、イリアナ・グレインが運動音痴だったせいです。
翌朝ユナが目を覚ますと頭が傷みました。酒を飲んだことは覚えていても、何を話したのか記憶がありませんでした。鏡、と呟くとマグヌスが笑い混じりにベッドから起き上がって鏡を取りに行きます。いつもは執務室に先に行くのになぜいるのか尋ねると、今日は休みにしたと言葉を返されました。
鏡に映っていたユナは顔がむくみ、髪が乱れていました。洗いたい、と言うとマグヌスが湯船を用意します。侍女にどうして用意させないのか聞くと、イリアナの体をほかの人に見せたくないとマグヌスが言いました。
ユナの服をぬがせたマグヌスは、体に残る傷を見て聞くけれど、「わかりません」としかユナは言えませんでした。
自ら世話をしたがるマグヌスに、どうしてそんなことまでするのかユナは聞きました。
「愛してるから。 言ったじゃないですか、イリアナ。 俺はあなたが好きです」
ユナはそれは自分を惨めにするためだと知っていて、この行動すべてが嘘だと思うと心臓が痛みました。
マグヌスは最近のイリアナは別人のようだけど、何を考えているかわかる今のあなたが好きです、と言いました。
「かわいいですね、イリアナ。あなたが俺を見るたびにどんな表情をしているか知っていますか? 私が欲しくていらいらした顔です」
マグヌスは私の手を引っ張った。私を立てせた彼が体に注意深く水をかけた。泡がたちまち落とされ、あっという間に体を洗い終えた彼は、大きなバスタオルを私の体に巻いた。
ユナはそんな目でマグヌスを見てしまっていたことが信じられませんでした。イリアナ・グレインはマグヌスが好きでそのような目付きをしていたかもしれないけど、今この体に入っている魂はイリアナ・グレインではありません。
いつそんな目をしていたか聞くと、シェリルといる自分を見る目もそうだと話しながら、マグヌスは満面の笑みを浮かべていました。
そして昨日「復讐するなら早くして、遊ぶなら早く遊んでくれ」とユナが言っていたことをマグヌスは話します。けれどマグヌスはもう捨てるつもりがないので、もう自分という地獄から抜け出すことが出来ないことを認めてくださいとマグヌスは言いました。
シェリルを皇后にすると話した件は取り消すと話しました。
「愛しています、イリアナ」
ユナにとって、その言葉はまるで呪文のようでした。ユナは飽きたら自分を自由にすることを約束させようとしましたが、マグヌスはそれを拒否しました。マグヌスが一生手放すことがないことを知ると、ユナの糸がぷつりと切れてしまいました。
ユナはまるで人形のように過ごしました。出かけることもなくなり、寝るか食べるかぼうっとしているか。表情もほとんど変わらないので、そんなユナにマグヌスは注意深く様子を見ました。
マグヌスはユナを手懐けることに成功していました。マグヌスが腕を広げると抱きしめて欲しかったし、夜にマグヌスがいないと眠れませんでした。ユナは自分が狂っていることを自覚しました。マグヌスとユナと関係はあまりにも歪んでいました。
ユナはマグヌスが本当に自分を愛しているとは思っていませんでした。マグヌスは復讐をしているだけ。しかし、その復讐の舞台は永遠に終わりません。
2巻前編を読んだ感想
二人のやりとりが甘くなった前編でした。しかし、やりとりが甘くなれば気付くこともあるのでしょうね。
マグヌスはイリアナにしたいことが「復讐」ではなく「自分の元を離れないこと」だったことに気づき、逆にユナはマグヌスに惹かれていくたびに自分の感情なのかイリアナの感情なのか分からなくて混乱しています。
今のところ「これはイリアナ・グレインの感情に引っ張られている」と思っていますが、マグヌスの告白や甘い態度に、自分を騙すための嘘だと思って心が苦しくなっているので、間違いなくユナ自身もマグヌスに惹かれていっていますよね。
文章だけだとわかりにくいので以下にまとめます。
■マグヌスに告白されたり甘い態度取られたら…
イリアナ | 自分のものだと思っているし、そのために洗脳しているので自分の元を離れず執着してくれるのを嬉しく思いそう。 |
ユナ | マグヌスは自分に復讐したいのだと思っているので、全部嘘だから辛くなっている。 |
このユナの「辛い」という気持ちが、そもそもユナの感情なので、マグヌスに惹かれているのはユナ自身だと判断しています。
「嘘だってわかっているから絆されたフリだけで絆されていない」と思っているユナですが、しっかり絆されてるよ〜〜〜〜〜!
早くユナが自分の気持ちを認めてくれたらいいのに…。
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