原作ネタバレ

「悪女が手懐けた獣」韓国の原作小説ネタバレ感想 |1巻

コミカライズ連載している「悪女が手懐けた獣」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。

(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)

悪女が手懐けた獣(악녀가 길들인 짐승)

原作:Seol Young

ネタバレ記事一覧

1巻 2巻 前編 2巻 後編
3巻 前編 3巻 後編 4巻 前編
4巻 中編 4巻 後編 まとめ

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プロローグ

マグヌスは19歳の時に女に拉致され、日の入らない小屋に閉じ込められていました。自分を拉致した女はいつも仮面で顔を隠していて、マグヌスは女の顔を知ることはできなかったし、顔を知ろうとすると女から大きな罰を与えられました。

女は条件を満たせば洗脳できる能力と、夢を操る能力を持っていて、怒らせるとマグヌスは恐ろしい悪夢を見ることになりました。1週間ずっと目を覚まさないこともあったし、夢の中で自害してようやく目が覚めることもありました。夢の中で何度も死んで、何度も捨てられ、マグヌスは徐々に人間ではなく主人に縋り付く獣になっていきました。

20歳になる頃にはマグヌスは人間だった時の記憶をなくし、自分を人間ではなく獣だと認識し始めました。従順でいると女から温もりが与えられ、マグヌスはそれに縋りました。

しかし、獣になったマグヌスはある日自ら洗脳を解いて逃げ出します。逃げた先で自分を助けた女性と恋に落ち、マグヌスは王子という身分を取り戻して皇帝となり、マグヌスを助けた女性は皇后になりました。

それが、「飼い慣らした獣の反乱」というタイトルの小説。悪女と獣がどういう関係だったのか、お互いどんな感情を持っていたのか知りたくて、ユナは完結後に何度もメールを送り、そこで作者から「もし良かったら私に別の展開を見させてほしい」というメッセージを受け取り、それに返信すると気づけば小説の中の悪女イリアナ・グレインになっていました。

Chapter 1

ユナが気がつくと、イリアナ・グレインの体になっていて、目の前にはひどく怯えた様子のマグヌスがいました。

イリアナ・グレインはマグヌスを拾って日の入らない部屋に閉じ込めていました。イリアナの持つ「夢を操作する能力」によって悪夢を見させ、精神攻撃をしてマグヌスを壊し、自分を獣だと思わせていました。

小屋を見渡してみると、高級ラグに最高級のベッド、インクにペン、マグヌスの服がたくさん入った服など、マグヌスのもので溢れていました。イリアナ・グレインはマグヌスに暴力は使いませんでした。そのかわりレイと呼ばれる薬物を使用して恐怖や痛みなどを増幅させ、悪夢を見させて精神をおかしくさせていました。

レイは洗脳効果を持つ感覚増幅剤です。中毒症状があるため、奴隷商人がよく奴隷に使用しているものでした。

マグヌスは暗いことと寝ることにトラウマを抱え、不眠症を患っていました。小説でマグヌスと恋に落ちる女性は、そんなマグヌスの中毒で壊れた体を治療した医術師でした。

今が小説でのどの段階なのか知りたかったユナはマグヌスに何歳なのか尋ねると、「2歳です」という答えが返ってきます。獣として認識し始めたのが20歳なので、今は22歳ということになります。イリアナ・グレインはマグヌスよりひとつ歳上なので23歳でした。

悪女と獣の間には見えない奇妙な愛情のようなものがありました。皇帝になったマグヌスはイリアナの家門を滅ぼし、その家の者の四肢を1つずつ切り落として殺したにもかかわらず、イリアナは殺しませんでした。イリアナは一生どこかに閉じ込められたという1文だけで物語が終わります。

その理由が知りたかっただけなのに、気づけば当の悪女になっていたのです。

寝たら夢から覚めるかもと思って、ユナはマグヌスに解毒薬を渡して小屋を出ました。慣れ親しんだ自分のベッドに戻っているよう願いながら眠りますが、起きるとイリアナのままでした。

エピローグまで完成させれば戻れるかもれない。そこでひとまず洗脳を少しずつ解いていくことを決意しました。

原作小説だとここでマグヌスの今後の人生の説明文章が入るのですが、文章だとややこしいので以下にまとめます。

マグヌス 20歳 イリアナの精神攻撃によって徐々に獣の精神になっていく
マグヌス 22歳 すっかり獣になって主人に縋り付いている(現在)
マグヌス 23歳 イリアナの元を逃げ、その後半年間女性の医術師と同居する
マグヌス 24歳 城に戻り自分を捨てた兄二人を殺害
皇帝はそれを事故死だと考えマグヌスに皇位を譲って亡くなる
マグヌスが皇帝に即位し
16歳から26歳までの結婚適齢期の女性に参加を命じる宴会を月に一度開催し、自分を拉致した女を探す
マグヌス 25歳 イリアナを見つけて家門を滅ぼし、イリアナをどこかに幽閉して小説が終わる

ユナはメイドに1週間の予定を全てキャンセルするよう伝えた後、風呂に入り、そこで自分の太ももにたくさんある痣を見て驚きます。

しかし、この身体に何があったのかを考えるのではなく、皇帝となったマグヌスによって自分が幽閉されないようとりあえず今後について考える方が優先でした。マグヌスの洗脳と薬物中毒を解き、彼が王城に戻るころに自分は宗教の道を目指して巡礼の旅に出てしまうという計画を立てました。不可侵領域である神殿ならたとえ皇帝でも簡単に手を出せません。

1週間後にユナは薬物に詳しいというカルを連れてマグヌスの元を訪れます。ユナは自分を出迎えたマグヌスに「これからは私が来ても跪かなくていい」と言い聞かせ、カルに診察をさせます。

カルはマグヌスの状態を見ると、3年間薬漬けになっていたわりには良い状態だと言いました。

奴隷商人でもレイを使用するのは1ヶ月で、それ以上使うと脳が熔けて、何も思考できなくなると言われています。マグヌスはそんなレイを使って3年になるとのことなので、小説のイリアナがどれほど慎重に量を調整したのかわかりますね。

カルは解毒薬を飲ませながら徐々にレイの量を減らせば、半年ほどで解毒できると話しました。解毒はカルに任せて、ユナは神殿に向かい、そこで金塊を寄付して信者証を貰うことにしました。

信者証があれば24時間礼拝室に入れる上に、普通の信者が入れない祈祷室も解放されるという設定です。

皇帝でも不可侵領域である神殿には容易く近づくことができません。神殿に足繁く通いながら、自分をこれ以上主人だと認識しないように徐々にマグヌスとの距離を取りました。

そうして日々を過ごしていると、マグヌスの様子を様子を見に行くために支度しているユナの元にメイドがやってきて、侯爵夫妻が領地視察から戻り、夕食の誘いをしていることを報告しました。メイド達からのどことなく気遣うような態度を感じ、ユナは自分の体が痣だらけだったことを思い出しました。

夕食に出ることをメイドに伝え、屋敷を出ようとすると侯爵と鉢合わせます。ユナは初めて会うはずなのに、自分の中での拒否感が強く、慌てて馬車に乗り込みました。馬車に乗り込んだユナの肌には鳥肌が立っていました。

Chapter 2

マグヌスがいる小屋は馬車で1時間かかるところにあり、首都から離れていました。ユナが訪れると最初にカルが解毒が順調に進んでいることを報告しました。小屋に入るとマグヌスと、彼に与えた本があり、この1週間で10冊以上の本を読破していたようでした。小説ではマグヌスはイリアナから本を与えられた3ヶ月後に逃げ出しています。マグヌスの学習能力は侮れません。

カルの診察が終わってから、ユナはマグヌスに「自分で考えて自分が思ったことを言って。私と一緒にいたいの?」と尋ねます。マグヌスが「はい」と答えるので洗脳が解けてきて会話ができるようになったのだと驚いていると、マグヌスはユナの唇に口付けをして、「もっと獣のように振る舞います」と言いました。

マグヌスはそれから足の甲に口づけをして、足首にも触れます。徐々に足をあがっていくのに驚いて、ユナは「待って!」と叫んでマグヌスを止めました。

ユナはマグヌスから離れて、小説の中のイリアナが「私がお前の前で口を開いたらキスをしなさい」とマグヌスに命じていたのを思い出しました。

ユナが驚いて口を開いた行動を見て、マグヌスは命令通りに実行したということですね。小説のイリアナはマグヌスに対して歪んだ愛情を持っていたように見えますね…。

ユナは小屋の外で待っていたカルに経過を聞きます。先週よりは良くなっているけれどやはり半年間着実に解読していく必要があるとカルは話しました。洗脳を解く方法を聞くと、時間が解決するか、その行動をする度にしないよう矯正するしかないと答えます。もしくは、さらに別の命令を重ねれば良いと言いますが、それでは小説のイリアナと同じだとユナは思いました。

小屋に戻ると「寒い」と言ってマグヌスが傍によります。マグヌスにとって唯一の温もりがイリアナでした。

「俺はリナ様が好きです」

それは洗脳のせいだ、とユナは思いました。

「リナ様も俺を愛しい獣だと言いましたよね?」

それはユナではなくイリアナ・グレインの言葉です。イリアナはいつもマグヌスを「愛しい獣」「私だけの獣」と呼んでいました。

「お前は獣じゃない」

「リナ様が名前をつけてくれた唯一の獣です」

獣だというマグヌスに、ユナは「獣じゃない」と繰り返しました。床に座ろうとするマグヌスを椅子に座らせ、2人は一緒に食事を取ります。帰ろうとするユナをマグヌスが引き止めますが、「来週は夜までいる」と約束して、ユナは神殿に向かいました。

小屋に残されたマグヌスはどうして自分を獣として扱ってくれないのか理解できませんでした。それから薬物の中毒症状の発作が出ると小屋に男たちが入ってきて、マグヌスの口に解毒薬を入れました。朦朧とする意識の中で、とても高級な服を着た人達と、どこか見覚えのある建物が見えます。

「おい、犬。 今日はあっちの森に狩りに行くんだけど、一緒に行こう。 お前がいい獲物を捕まえれば、私たちもお前を弟として認めてあげる」

「本当ですか?兄さん」

どこかで聞いたことのある腹が立つ声だったけれど、マグヌスは誰に言われたのか思い出せませんでした。

夢での場面が変わり、気づけば崖に追い込まれていました。「邪魔だ」と兄たちに言われ、自分だけが置いていかれる、何度も見た光景でした。悲しくてマグヌスは泣きました。誰かに抱きしめて欲しかった。ぬくもりが欲しかった。自分の主人であるリナが必要で、リナを抱きしめたかった。

リナというのはマグヌスの前でイリアナが使う偽名です。逆にイリアナもマグヌスのことを「メク」と名付けて呼んでいました。

ユナは神殿を訪れると神官に、首都から離れた場所で静かな神殿で修行がしたい、と相談しました。神官になるための修行があり、それは2年間かかると教えてもらいます。

神官になるつもりはなかったけれど、2年間社交界やマグヌスから離れられるというのは好都合でした。神官修行に行くまでの準備期間もあと2週間しかないというのも、時期的に都合が良かった。ユナはそうして神官修行に参加することになりました。

屋敷に戻ると侯爵は領地に問題が生じたという急報を受けて、また領地に戻ったと報告を受けました。緊張していた顔から力が抜け、ユナは自分の部屋の捜索をすることにして、引き出しを開けていくと手帳を見つけました。

手帳に書かれた文字は初めて見るものだったにもかかわらず、するすると理解することが出来ました。礼儀作法と同じで、イリアナ・グレインの体に見についているものは理解出来るようでした。

手帳には10年前の帝国暦920年から始まっていました。

[帝国暦927年11月5日。道に迷った獣を発見した。]

[帝国暦927年11月6日。獣は黄金龍だった。]

10年前のメモを読み上げながら目を大きく開けた。黄金龍というのは皇族を意味するに違いない。やはりイリアナ・グレンはマグヌスが皇族であることを知っていた。

手帳を読み進めると、やがて息をとめた。

[帝国暦934年12月4日。三番目の黄金龍に戻った獣が私を訪ねた。ついに]

紙越しに喜びまで感じられる。 その次のページにも文字が書かれているようで、ページをめくった。同時に息が止まった。息ができなかった。

[帝国暦935年8月18日。これはイリアナ・グレンが唯一隠した手帳だよ。最後の言葉を書くことができる。あなたならここにどんな言葉を書いたと思う?私はやっぱり分からない。]

手帳はイリアナ・グレインのものだけど、最後は小説の作者からのメッセージだろうか、とユナは考えました。

2年間、ユナが神官修行のために首都を離れている間にマグヌスが皇帝となり、良い方向に進んでくれることを信じたいけれど、ユナは不安でした。

2週間ぶりにマグヌスの小屋に訪れると、マグヌスからは薬物特有の甘い香りがだいぶ消えていました。様子も違って、受け答えもしっかりしていた。

マグヌスは「人になりたくない」とユナに懇願します。人と人は永遠には一緒に居られないけれど、獣は主人が死ぬまでそばにいられるからだとマグヌスは話しました。犬よりも忠実な獣になるから、と言うマグヌスに「お前は私のことが好きなの?メク」と尋ねます。素早く「リナ様が好きです」と答えるので、ユナが具体的な理由を聞くとマグヌスは答えることができませんでした。洗脳によって好きだと思っているだけだとユナは判断しました。

「大丈夫だよ。人になるのは自然なこと。だから獣は徐々にやめなさい」

ユナが帰ろうとすると「夜まで一緒にいる約束でした」と言って引き留めます。

仕方なく残ることになり、マグヌスは喜びながら「抱きしめてください」と懇願します。抱きしめると、マグヌスはユナに「俺が獣ではなく人で、リナ様が獣だったら…」と話し始めました。そうだったのなら、自分はリナ様を捨てない自信があるのに、と。

マグヌスはユナを「変わった」と言いました。愛らしい獣と言わなくなり、目も少し変わったと話しました。

「飽きてもまたこうして会いに来きますよね?」と尋ねるマグヌスに、ユナは「さあ」と曖昧な返事を返します。神官修行で2年間来れなくなるし、その間マグヌスがここでユナを待ち続けるとは思えませんでした。

ユナは小屋を立ち去るとき「元気でね、メク」と言って去ると、小屋からマグヌスの泣き声が聞こえました。ユナの心臓が破裂するほど痛みましたが、これはイリアナ・グレインの感情だと自分に言い聞かせます。

マグヌスに触れられると嬉しくなり、離れたくないと思ってしまいますが、それは元の体の持ち主であるイリアナ・グレインの感情に左右されているからだと、ユナは思っていました。

神官修行を行うコタンは、首都の次に大きな村で、2年に一度、100人ほどの神官候補生が神官修行のために訪れます。

神殿は皇帝もグレイン家も入れない場所です。神官修行を行ううちに、ユナは神官になって首都の神殿からマグヌスを見守るのも良いと思うようになっていました。

神官試験は合格者が3割程度で、しかも首都で勤務するには成績上位者である必要がありました。

マグヌスは毎晩見る悪夢を見ましたが、主人の手に触れると恐怖が消え、主人のぬくもりの中で目を閉じるとようやく穏やかに眠ることが出来ました。主人のことは絶対で、主人のためならマグヌスは悪魔にもなれました。しかし、捨てることは許せませんでした。

「あなたは、俺を捨てるべきではなかった」

ベットでうずくまったまま1ヶ月、2ヶ月と経過しても主人の消息はわからないままでした。マグヌスは自分が弱い守られてばかりの獣だから愛想をつかされたのだと考えます。

マグヌスは眠りにつくと、自分を「マグヌス」と呼ぶ人達が夢に現れました。自分と似た黄金色の瞳を持ったあの人たちは誰だろう。マグヌスって誰だろう。そう思った瞬間、忘れていた記憶が浮かび上がりました。

ベッドの上で息を殺したままもがいていたマグヌスは動きをとめ、大きく目を見開きました。獣に似た黄金色の瞳に恐怖と興奮が吹き荒れました。

悪夢を強制的に見させて、自分がそばにいると悪夢を見ないという手法はめちゃくちゃ策士ですね。小説のイリアナ恐ろしい…人を壊す術を心得ている…

ユナがコタンに来て神官修行を始めてから3ヶ月。小屋を守っていた傭兵からマグヌスが逃げたことの知らせを受けました。傭兵はカルに報酬金を渡し、小屋を焼却したことも書かれていました。ついにマグヌスが1歩踏み出したことをユナは喜びました。

ユナは神官修行を問題なくこなしていましたが、ユナが貴族の娘であることが気に食わない人々から嫌がらせを受けることもありました。歩いていたら空から水爆弾が落ちてくることも。

ユナがコタンにきて1年8ヶ月が経ちました。いじめは続きましたが、それでも物を隠したり授業のことを伝えなかったりするくらいでした。一年前に二人の友人もできて、一人で過ごしていたユナは彼らと一緒に行動するようになりました。

ユナが友人たちと話していると、最近皇帝が変わったという話になります。半年前に皇太子と第二王子が一緒に狩りに行って、崖に落ちた状態で発見されたと言いました。小説の展開より数年早いけれど、マグヌスは24歳になり、予定通りに進んでいます。しかし、飼い慣らしたはずの獣が両手を広げて待ち構えているかのようで、ユナは不安でした。

2年間の神官修行が無事に終わり、グレイン家に帰ると、ユナの戻りを使用人たちが出迎えました。イリアナの父親であるグレイン侯爵は今日自分が帰ってくることがわかっていたようでした。夕食に参加すること、許可が出るまで外出を禁じることという侯爵からの命令を使用人がユナに伝えました。

グレイン侯爵は小説の中で残酷な男でした。皇帝となったマグヌスがグレイン家に来る前に自分の妻を殺し、マグヌスを出迎えました。その後は四肢を切られて死んだというのが小説の中でのグレイン侯爵の最後です。

夫人は体調が悪いため領地に残っているため、夕食はグレイン侯爵とユナだけで進みました。グレイン侯爵は神官修行のこともペットを飼っていたことも把握していました。

会話を進めるけどグレイン侯爵の質問にユナが答えられないと、グレイン侯爵は不愉快げにワイングラスを置き、そのたびに体が固まりました。この男にイリアナ・グレインが恐怖しているのは確実でした。しかも、暴力への恐怖の可能性が高い。

これ以上不機嫌にさせたくなくて、ユナは神官修行の間に水をかけられて熱を出して寝込んだ時に、幼い頃や両親に関しての記憶がおぼろげになっていると話しました。グレイン侯爵は驚いたものの、その話を一旦は信じてくれるようでした。

話は新しく即位した皇帝の話になり、即位してから粛清が行われたとグレイン侯爵は言いました。その折に、皇帝が連れてきた平民女性がメデンスになったことも教えられます。皇帝直属の議員を集めた特別機関で、そのトップを指すのがメデンスです。

グレイン侯爵は皇帝から結婚適齢期の令嬢を招待した宴会が開かれるのでユナにも参加するように話し、しかし皇后になんてならなくていいので目立つなとも言いました。

グレイン侯爵は先に席をたち、しばらくは邸宅で忘れたことを勉強するように言い、勉強の成果を確認するための質問に答えられなかったら罰があるとも言いました。

ユナが読んだ小説の中ではメデンスに関する内容はなかったようなので展開が少し変わってきていますが、それでも結婚適齢期の令嬢を集めてイリアナ・グレインを探そうとする展開は一緒です。

グレイン侯爵は自分の執務室に戻ると執事を呼んで、イリアナが記憶を失ったことを話しました。嘘をついている可能性もあるけど、今まで自分との会話で笑ったことがなかったイリアナが、今日は笑って見せたので嘘ではなさそうでした。

自分がそうして育ったように、厳しく不足なく育てたけれど、そのかわり侯爵とイリアナは距離が遠のいてしまいました。いつも憎むように睨み、侯爵の一言に身を震わせるだけだったイリアナが家を出た時は驚いたけれど、必要な息抜きだと考えていました。その結果が、記憶喪失です。

しかし、イリアナが久しぶりに笑うのを見たので、悪くない気分でした。侯爵は執事に2年間の神官修行でのことや、誰が水をかけたのかを調べるよう命じました。

翌日から食事の時間になると質問を出され、ユナが答えられないと1日中水も飲めない罰が下されました。ユナは必死に与えられた本を暗記し、ようやく質問に答えれて食事にありつくことができました。

そうして日々を過ごして、宴会の日を迎えました。

宴会は7日間行われ、貴族令息や令嬢が参加し、宴会が行われている間は皇城から出ることは出来ません。それぞれに割りあてられた皇城の部屋で過ごすことになります。7日目にグレイン侯爵やほかの貴族達も参加するので、ユナは6日間を目立たず過ごす必要があります。

緊張しながら会場に足を踏み入れると、ユナを見て周りがひそひそと話し始めました。2年間社交界を離れて神官修行に行っていたので、その悪口でしょう。今まで積み上げてきた「良い令嬢」から「下賎な者の匂いがついた令嬢」へとイリアナ・グレインの評価は落ちてしまったけれど、生き残る為だったので仕方ありません。それよりも、周りの令息や令嬢達の髪色が自分と似たような白や銀の髪色をしている事にユナは安心しました。中にはわざわざ脱色して色を合わせている者までいます。

ユナが物思いにふけっていると皇帝が入場しました。王座に気だるげな様子で座るマグヌスは、2年前と様子が違っていました。弱々しかった体は筋肉がついたようだし、秀麗な顔立ちは相変わらずだけど垂れ下がっていた目尻には力が入っています。ユナにしがみついていたメクはもう居なくて、そこにはマグヌス・ディ・クラウド、この国の皇帝がいました。

そこへ、マグヌスがメデンスに抜擢した医術師のシェリル・シンシアが入場します。ドレスの代わりに真っ白な医者のガウンを着ているシェリルは、真っ直ぐマグヌスの元に歩いていきます。

シェリルを呼ぶマグヌスの声は優しく、冷たい視線はいつの間にか蜂蜜のように溶けていました。それを見て、ユナの心臓が棘で刺されたかのように傷み、自分がシェリルに嫉妬していることを理解しました。

ユナはその場にいることに耐えられず、シャンパンを持ってテラスに出ました。マグヌスが自分以外の誰かを見て笑うのが納得できなかった。

「私のなのに…」

それは狂った所有欲でした。

シャンパンを4杯あけて、酒の追加とつまみを持ってこようか悩んでいると、テラスにシェリルがやってきます。隣いいですか、と聞かれて、ユナは「勝手にしてください」と答えまます。

シェリルは両手に8杯のシャンパングラスを抱えていました。そうして一緒に酒を飲むことになったユナとシェリルは、何杯かのシャンパンをあけました。

テラスの手すりにもたれかかりながら2人は話をしました。シェリルは他の貴族たちと違って自分を相手にしてくれるユナに好感を示し、ユナも豪快で明るく優しいシェリルをよく思っていました。

しかし、ユナはこれ以上絡むつもりはありませんでした。マグヌスとシェリルは2人で幸せになり、ユナは自分の帰るところに帰る。だから、滞在する部屋に遊びに行きたいと言うシェリルの提案を断わり、「私たちは貴族と平民で、これは気まぐれだから」と冷たく返事をしました。

冷たい言葉を言われてもシェリルは「それでも私はあなたを気に入りました」と言います。そこへ、シェリルを迎えに来たマグヌスが現れました。シェリルがユナを紹介するので、ユナは声を誤魔化しながら挨拶をして頭を下げました。マグヌスとシェリルが立ち去るまで、ユナは顔を上げることができませんでした。

皇帝に「顔を上げて良い」と言われていないので、ユナはずっと頭を下げたままでいなくてはいけません。

シェリルはマグヌスに、あれほど探していた人なのにあのような仕打ちをしてもいいのか、と尋ねました。声をかけることも、顔を上げることも許可しなかった。マグヌスは自分が探している人がイリアナ・グレインだと理解しているようでした。

イリアナがマグヌスに行ったことは決して正しいことでは無いけど、シェリルはイリアナがそこまで悪い人だとは思えませんでした。

Chapter 3

2人がいなくなったあと、ユナは自分の滞在する部屋に戻りました。

ユナは自分の感情がコントロールできず、本当にイリアナ・グレインになったかのような気までしていて、とても疲れていました。マグヌスやシェリルよりも、イリアナではなく自分をある程度は見てくれているグレイン侯爵と会話している方が楽なくらいでした。

ベッドに突っ伏して枕に顔を埋めると、湿っている気がしたけどそのままユナは眠りました。そして起きると目は真っ赤に腫れ上がっていて、鏡の前でユナは驚きました。当然宴会に参加することはできず、しかし一度参加しないと次も、また次も参加する気がなくなってしまいました。

そうして4日目となり、引きこもりからそろそろ抜け出すために城を散歩していると、小さな神殿を見つけます。入ろうとすると神官に止められたましたが、イリアナ・グレインだと気づくと神官は態度を改めました。好奇心で訪れた貴族だと思って帰そうとしていたようです。

ユナが祈祷室で祈りたいと話すと、皇城の神殿は皇室内の行事を準備する場所で、祈祷室は開放されていないので、神官の個人的な祈祷室を貸してもらえることになりました。ユナは祈祷室で敬虔な信者のように祈りを捧げるふりをしながら、作者への不満を一気にぶちまけました。

イリアナ・グレインはどこにいったの?なぜ私がこんな辛い目に合わなければいけないの?話のエピローグが気になっただけなのに。なにか悪いことをした?メールを6通送っただけなのに。家に帰りたい。耐えられない。歩いている時にうんこでも落ちろ。

作者への悪口を言っていると涙が流れました。イリアナ・グレインも悲しかったのだろうか。自分の体が奪われたことか、それとも好きだったマグヌスに心変わりされたことか。

ユナはそれ以降も結局宴会に参加しませんでした。マグヌスに会う自信がなかったから。そのかわり毎日祈祷室に訪れ、悪口を言って鬱憤を晴らしました。

最終日になって神官から「顔が明るくなりましたね」と言われ、銀色のネックレスをもらいました。十字架に女神が刻まれたネックレスで、神が刻まれた聖物だからどこででも祈りができるものだと教えてもらいました。

最終日、会場に入るとすぐにグレイン侯爵と合流しました。ユナはグレイン侯爵に商団を持っているなら経営を学ばせて欲しい、と言いました。グレイン侯爵は驚き、自分の娘が記憶を失ったのが事実であることを確信しました。

最後の宴会だからか、会場は賑わっていました。そんな中、マグヌスとシェリルが一緒に入場します。こうしてふたりが並んでいるのをユナが見るのも最後です。今日さえ乗り切れば、ユナは田舎か領地に行き、首都から離れるつもりでした。

マグヌスは貴族たちに向けて、自分が今回宴会を開いたのは皇后を探すためだった、と話し始めます。小説では、マグヌスはイリアナ・グレインの正体を知った日に、シェリルを皇后として選びました。

小説と同じようにイリアナを見つけ出してしまったのか。それとも、純粋にシェリルにプロポーズしたいのか。マグヌスはまもなくシェリルを皇后にすると発表して、自分を拉致したのがイリアナ・グレインだと言うはず。そうなればグレイン家は滅び、グレイン侯爵は死に、自分は一生小屋に閉じ込められてしまいます。

「イリアナ・グレイン」

ユナは頭が真っ白になりました。王座から降りてこちらに歩いてくるマグヌスを見て、一歩後退すると、マグヌスが冷ややかに笑いました。

今、この瞬間は私がイリアナ・グレインなのか、それともこの体の中に入った私なのか分からない。 確かなことは彼が私を見つけたという事実だった。

「探すのに苦労しました」

丁寧な敬語なのに、言葉遣い一つ一つが冷たく無感情だ。いや、無感情とは言えないかもしれない。無感情を装った声の向こうに、かすかな喜びが感じられた。

「よくわかりません、陛下」とユナは言うけれど、マグヌスはユナの手首を掴み、「俺があなたのこの手を忘れる訳ありません」と言って自分の頬に当てました。いつもイリアナ・グレインが彼を褒める時にしていたように。

そうしてマグヌスに復讐されると思っていたユナですが、マグヌスは「あなたは俺の皇后にならなければいけません」と言い、ユナは理解できず固まりました。

「私は…シンシアさんではないのですが」

ユナがそう言うと、マグヌスは「嫉妬しているんですね」と言いました。

「陛下に恋慕はしていません」

「いいえ、それは嫉妬です。俺が嫉妬と言ったからにはそれは嫉妬になる」

そこへグレイン侯爵が割り込んで、娘は侯爵家の跡継ぎだから皇后にはなれないことを伝えました。体の痣や、反応から見てもグレイン侯爵は娘のイリアナを厳しく扱った人のはずなので、まさかこのように皇帝の前に出て庇われるとはユナは思っていませんでした。

マグヌスはイリアナ・グレインは今日から城で皇后になる準備をしなくては行けないと話します。皇后になりたくありません、というユナの耳元に「あなたの意見は関係ありません。俺は望んで獣になりましたか?」とマグヌスが囁きました。

マグヌスの命令によってユナは騎士たちに部屋に案内されてしまいます。そこはシャンデリアや灯りがひとつもなく、ぼんやりと差し込む月明かりだけが視界を確保できる暗い部屋でした。テーブルも椅子もなくベッドしかないので、ユナはベッドに座るしかありません。

ユナは自力でドレスを脱ぎ、真っ白なひらひらとした下着姿のままベットに入ろうとすると、扉があいてマグヌスが入ってきます。マグヌスは「あなたはいつも俺の予想を外しますね、リナ様」と言って笑いました。

マグヌスはユナが自分を手懐けて捨てたと言いました。

けれど、ユナは捨てたのではなく、手放して自由を与えただけだった。

「イリアナ、俺はあなたを手なずけます。 あなたが俺にそうしたように、俺がいなければ何もできない獣へ」

頬をなで下ろした手のひらがやがて唇に触れた。私は身震いして急いで後ろに退いた。マグヌスは私の手のひらに短く口づけた後、ゆっくりと手を離す。

「あなたが作った奈落の底にあなたが閉じ込められるのです」

その声がどれほど陰鬱で深い洞窟の中にいるように深いのか。 むしろそれを恨みと言えば理解できるかもしれないという気さえした。

「何か希望があるなら俺にお願いしてください。俺の体にあなたの高貴な口を合わせて望むことを言いなさい。 俺があなたにそうしたように、あなたもそうしてください」

狂っている、とユナは思いました。イリアナ・グレインの罪がなぜ自分の罪になるのかもわかりませんでした。小説の中では、皇后の座に座るのはシェリルのはずで、イリアナ・グレインが閉じ込められるのもこのような豪奢な部屋ではありませんでした。

マグヌスは「それでは安らかな夜を過ごしてください」と言って部屋を出て行きました。そしてマグヌスが退室すると窓から入っていた月明かりさえも消え、視界が真っ暗になってしまいます。

小説の中でマグヌスはその深い闇によって精霊と契約することになるますが、もう契約しているようでした。

夜を今まで怖いと思ったことなどなかったのに、ユナは恐怖に襲われます。そこで、イリアナ・グレインの手帳にあった意味の分からないメモを思い出しました。

[帝国暦920年9月3日。29時間40]

[帝国暦921年2月4日。11時間27]

[帝国暦921年4月2日。9時間11]

もしその手帳にある「時間」が彼女が監禁されていた時間だとしたら、と考えてユナは恐ろしくなりました。

暗闇の中で過ごすしかないなら、いっそこのまま寝てしまおうかと考えたユナですが、視界に白い糸が見えて、それを反射的に掴みました。そして眩しい光に包まれて次に目を開けると、花がいっぱいに咲いた野原の上にいました。野原の真ん中には14歳くらいの子供がいて、胸にはクマのぬいぐるみ抱き抱えて眠っています。

「私はここにいる」と熊が喋りました。

クマに夢なのか聞くと、「夢放浪者の子孫なのにどうして知らないのか」と言われてしまいます。夢放浪者とは何かと聞くと、甘い夢も暗い夢も好きな夢魔だとクマは答えました。

子供が目を覚ますとユナのことを警戒しましたが、ユナ自身なぜここにいるのかわからないのだと気づくと、夢の主はここに訪れた客人なら歓迎すると言いました。

子供の想像が反映され、野原は突然デザートであふれたカフェに変わりました。自分の思うままに変わるその光景を見て、ユナがドッグカフェを思い浮かべると、元の世界線に存在するドッグカフェが出現しました。

子供はラファエルと名乗りました。ラファエルがドッグカフェにいるポメラニアンに夢中になっていると、クマが「異邦人なのか?」とユナに尋ねます。

夢に乗って流れるから、噂では別の世界に行くこともできた夢魔もいるという。ラファエルがポメラニアンとマルチーズを抱きしめながらユナに話しかけると、クマはすぐにまたただのぬいぐるみのふりをしました。

クマが転がっていたテーブルが倒れると、「終わったみたい」とラファエルが泣き顔でうつむきます。そこへ、何かの鳴き声が響き、ユナが創造した世界が瞬く間に消えました。夢の終わり、朝が来たとラファエルは言いました。また来たら今度は美味しいケーキをご馳走すると言ってラファエルが消え、今度は小悪魔のような小さな子供が立っていました。

誰?と聞くと、「形が変わったからって気づかないわけないよね?」「可愛いのに変わりないし」と話してきて、ユナはこの子供が先程のクマのぬいぐるみが姿を変えたのだと理解しました。

その子供も夢魔のようで、どうやらラファエルの元に3年いるようです。種族が違うのにどうやって一緒にいるのか聞くと、普段はラファエルの影に隠れて過ごしている、とユナに教えました。そして「ラフィーがそろそろ起きそう。ラフィーが楽しそうだからまた来て。バイバイ」と言って消えました。

夢からの抜け出し方がわからないユナが1人で戸惑っていると、ラファエルの世界が消え、繋がっていたものがぷつりと切れる感覚がして、ユナは目を閉じました。

1巻を読んだ感想

イリアナの体に入ってしまった主人公の話なので、どうにもややこしい文章になってしまいました…。展開もコロコロ変わるので、難しい…。でもコミカライズされている作品なので、最初の1巻はこれくらいのスピード感があった方が良いかもませんね…。読みにくさを改善できるようちょこちょこ編集を加えようと思います。

ここからはこの作品の話に入ります。

元のイリアナ・グレインはどうやらマグヌスに対して歪んだ愛情を持っていたようなので、その感情に主人公も引っ張られて傷ついたり悲しくなって泣いたりしていますね。どこからイリアナ・グレインの感情で、どこから自分の感情なのか曖昧になっているようです。

そしてマグヌスも、復讐をしたいのか、そばにおきたいのか。執着の末の感情なのでいまいちどういう想いを持っているのか、現段階ではわかりません。

そんな不器用な二人の、ハッピーエンドまでの話です。(すでに読了しているので自信を持ってハッピーエンドだと言えます)

次の更新は来週を予定しています。更新はtwitterにてお知らせします!

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異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

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