原作ネタバレ

「悪女が手懐けた獣」韓国の原作小説ネタバレ感想 |4巻・前編

コミカライズ連載している「悪女が手懐けた獣」の韓国原作小説を読んだのでネタバレ感想を書いていきます。韓国語は不慣れなので翻訳が間違っていることもあります。

(間違っているところを見つけた場合はtwitterのDMでコッソリ教えてください…)

悪女が手懐けた獣(악녀가 길들인 짐승)

原作:Seol Young

ネタバレ記事一覧

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4巻 中編 4巻 後編 まとめ

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Chapter 11

真実ゲーム

マグヌスにどこに帰りたいのか聞かれたユナは「あなたを連れて行ってあげられない場所」と答えるけれど、マグヌスは「どこですか?」と再度尋ねました。

「ただ、誰もいないところに行きたいだけです」

ユナは答えを別のものにした。答えなかった訳では無いと自分に言い訳していると、「このゲームは真実のゲームだと言っていませんでしたか?」とマグヌスが冷たい顔をしてユナを見ていました。

「実は嘘です」

「そうだと思いました」

ユナがマグヌスの肩を掴んでつま先立ちして唇を近づけますが、マグヌスはユナの肩を掴んで離し、口付けを拒否しました。

「卑怯なのはご存知ですよね?」

「ルールをはっきり決めていないリナのせいです」

「あなたが聞いてもどうすることもできないから、知ろうとしないでください」

私がはっきり線を引くと、彼は口をつぐんだ。その隙を狙って、私は素早く彼の唇にキスして立ち去った。

マグヌスは、どうしたら自分のそばにいてくれるのかと尋ねました。獣ではなく人間になれと言われたので人間になったけれど、イリアナが獣になりたくないというのでマグヌスはどう行動すればいいのかわからなくなっていました。

マグヌスは人間と人間の繋がりを信じていませんでした。血の繋がった家族ともあれほど簡単に切れるのに、マグヌスとイリアナの他人同士が繋がるのは無理だと思っていたのです。主従関係はそもそも結びたくないし、夫婦になったとしても感情が冷めてしまえば縁が途切れてしまう。感情に頼った人生は感情で終わってしまいます。

「死ぬ瞬間まであなたが俺のそばにいられるようにするには、どうすればいいですか?」

マグヌスは狂っていても全て本気でした。壊れきってしまう1歩手前の求愛だった。もしかしたら、マグヌスを完全に壊したのはイリアナ・グレインではなく自分だったのかもしれない、とユナは思いました。

ユナは帰りたかった。この世界が嫌いなわけではなかった。それでもアイスクリームの店や市場で食べ物を買って食べた記憶や、山を登った記憶が、ユナを元の世界に縛り付けていました。

逆にマグヌスならどうするのか聞いてみました。何も無い世界で生きていけるのか、と。マグヌスはイリアナがそばにいればそれで大丈夫だと答えます。片膝をついてユナの手の甲に口付けて、立ち上がって唇にも口付けを贈りました。

「俺にはあなたのいない世界の方がが怖いです」

「私がそんな風にあなたを手なずけたからでしょう」

「それは本当にあなたがしたことですか? それとも、俺を薬物で壊した方がしたのですか?」

ここでもうマグヌスは今目の前にいるイリアナ(ユナ)と、自分を拉致して薬漬けにしたイリアナとではっきり別人だと区別ができていますね。

マグヌスは「海は赤い」 と言えばそう信じるし、「空は緑」だと言えばそれも信じると話した。だから、別の世界から来た異邦人だとしても、それがどれだけ荒唐無稽なことでも信じると言いました。

「家に帰れるならそうしてください。その代わり、行く時は俺も連れて行ってください」

欲しいのはイリアナだけで、イリアナがいなければ生きていけないと言い、「俺に人間になれと言ったので、完全な人間になるまで責任を負わなくては」と主張しました。

「私がイリアナ・グレインじゃなくても大丈夫ということですか?」

「あなたそのものが好きです」

二人が話していると、「見つけた」という声が唐突に響きました。

「見つけた、根を壊す根幹の鍵」

声は「ユナ」と呼びかけ、1番見なれた空間を想像しなさい、と言いました。

ユナはラファエルの夢で見せたドッグカフェを想像しました。暗闇が晴れ、見慣れた空間が現れます。

「ここはどこですか?」と戸惑うマグヌスに、ユナはドッグカフェを説明しました。そこには霧のような生命体がいて、コーヒーを3つ用意してそれをテーブルに置き、椅子に座りました。

ユナとマグヌスも椅子に座ると、霧が「会えて嬉しい」と言いました。

霧は自分のことは自分でさえもわからないけれど、古代から存在し、気まぐれでユナを助けたのだと話します。自分は、預言者、賢者、悪の根源など人によって様々な呼ばれ方をしていると言いました。

「私は自分の家でもうすぐ起こる話を書いている途中で、そのうちに私の話を読んでいるあなたと会った」

ユナの話を聞いて、あえて未来が決まった通りに流れなくても良いと思い、自然の摂理に逆らってユナを助けたのだと話しました。そこで、イリアナ・グレインの迷っていた魂の代わりにユナが体に入りました。

「話の終わりが気になると言っていたよね?小屋に閉じ込められたイリアナ・グレインは闇の中で散り散りになり、魂は時間とともに風化した」

イリアナ・グレインは自分の作った業が深すぎたし、夢魔の道に魅せられてしまった。未熟なのに他人を抑圧する種類の能力を使い続け、長い間その中に留まり、夢魔の道から離れられなくなってしまいました。

「だからうんこが落ちて欲しいという言葉は取り消してくれないかな。少し悲しかった」

それはユナがレグネバ神の神殿で言っていた悪口のひとつでした。まさか聞かれているとは思わなくて、ユナは恥ずかしくなりました。

ここはあなたの家なのかと聞くと、霧はそうだと答えます。自分の領域に、気づけば色々な種族が引っ越してきたのだと説明します。

霧は限定的な場所でしか動けなかったのでユナに十分な説明をすることができないでいました。それに謝罪し、その上ですでに終わってしまったユナの人生を送ることは無理だと言いました。無理矢理繋いだイリアナ・グレインの体で生きるしかないが、自分があげたものなのでイリアナ・グレインの人生を踏襲しなくてもいいとも言います。

「現実を認めて理解しないと。君には新しい人生が与えられた」

霧の言葉を聞いて、マグヌスは自分がイリアナを支えると言いました。

霧は摂理に逆らった代償として長い間眠る必要があるけれど、それにはユナの魂がいるのだと話した。生かしておいてまた殺すということだろうかとユナが思っていると、霧は慌てて、善良な人間だけが根の中心に行けるので、そこで拳ほどの玉を壊して欲しい、と言いました。

玉を壊すと夢が壊れるのだと霧は言います。黒野と人間界の境界がなくなり、空には月が3つ浮かび、人間界には人間以外の種族も生活するようになる。ずっと前からこうしなければならなかった、と話す霧に対して、ユナは困惑しました。黒野に13人もの王がいるのに、どうやって人間界で秩序を守って暮らすことができるのかわかりませんでした。

しかし、このままにしておくと夜が世界を埋めつくし、極寒期が訪れてしまいます。

ユナはこれまでの人生で、自分が生きてきた分の対価を貰えていない、薄幸の人生でした。しかし、それでも魂が綺麗なので本当に珍しい存在のようです。対してマグヌスは王の基質を持って生まれたので業が深いが、自ら必要以上の福を得ようとする存在なので、薄幸気質のユナとはお互いに役に立つ、と余計なことを霧に言われました。

霧は1本の真っ暗な道を指して、根がどこにいるか教えました。マグヌスが一緒に行くと言うけれど、マグヌスは殺戮を行いすぎて血の匂いが濃く、魂も穢れているから行っても壊れてしまうのだと霧が言いました。穢れた魂が行けば番人たちが押し寄せてしまうようです。

しかし安全な訳では無いだろう、とマグヌスが指摘しました。「肉体的には」と返事を返す霧に「肉体も精神の両方を聞いたんだけど」とマグヌスはさらに問いつめます。自分にそれほどの危険があることを初めて知ったユナも霧を睨むと、霧が慌てました。

凄く危険というわけではないが、最悪の場合は永遠に抜け出すことが出来ずに魂が腐食して消える、と霧は言いました。道が暗いのは人間の内面を引き出すのに1番良くて、その人間の中で最も幸せだった記憶を本人に見せ、その甘い誘惑に釣れたら少しずつ魂を溶かして食べていく。それが霧の本質だと言います。

「私を食べさせろということですか?あなたに?」

「あ、誤解しないで!どうか誤解しないで、これは私の意思じゃない。私にも制御できない本能というか…」

ユナの魂は珍しいほど綺麗なので、根も警戒することはないのだと霧が説明します。「抜け出すことができなくなる」というのは最悪の場合の話で、ユナは自分の世界に帰りたがっているので根が見せる元の世界の幻覚を見てしまうと動くことが出来なくなるので、それを前提とした話だったようでした。

根とは世界の夜で、闇で、異種族の垣根でした。根の本体は実は生命体でしたが、人間に追い出されてしまいました。それから根はどんどん世界に伸びていくので、壊す必要がありました。

マグヌスの魂

霧はマグヌスの肉体から魂を取り出しました。魂となったマグヌスは人間の形をしてい他けれど、全身傷だらけでボロボロでした。これは全てマグヌスが背負った罪なのだと霧が説明します。

「こんな状態で入ると壊れる」

「動くのに問題なさそうです、リナ」

マグヌスは霧の忠告を聞いていませんでした。「精神力で何とかなるでしょう」と言って何が何でも着いてくるつもりのようでした。霧はマグヌスの魂はユナの魂を分けることで治療できることを教えます。

魂は物理的な攻撃さえ受けなければ再生可能で、魂を物理的攻撃から守るのが肉体だが、マグヌスの肉体は持っていけず魂だけとなっているため、物理的攻撃に弱くなっています。

8割り以上壊れたら植物人間のような状態になりますが、マグヌスの魂はすでに5割りが壊れていました。このままではマグヌスはどのみち28歳から30歳くらいまでしか生きられないけど、ユナが魂を使って治療することで長生きできるようになると霧が教えます。

治療する方法をユナが聞くと、霧は性的接触で、体の関係を持つのが1番でその次なら口付けが良いと話しました。マグヌスが1番に反応すると思ったけれど、「そんな理由であなたを抱きしめたいわけでは無い」と言いました。

魂だけになった半透明のマグヌスとユナは手を繋いで霧の作った扉をくぐり、暗闇の道を進みました。

マグヌスはたとえ自分が死んだとしても、義務感でイリアナを抱きたくなかったし、むしろイリアナをこれ以上傷つけることも、縛ることもないので、その方がイリアナも喜ぶと思っていました。

「俺が長生きするより早く死んだ方がイリアナにもいいでしょう。俺が死んだらあなたは自由になるから。あなたの足枷が消えます」

だから、ユナはマグヌスの愛が信じられませんでした。ひたすら自分のエゴだけだから。愛を囁くくせに、結局最後はユナを捨てるのだから。

「皇后としてそばに置くというくせに、あなたが死んだら自由になるからいいだろうなんて言うの?」

長生きできないマグヌスを自分だけがどうやって助ければいいのか考えていたのが馬鹿馬鹿しかった。自分は毎回利用され、1人で勘違いして捨てられる。結局得たものなんて何もありません。

「あなたにとって私はどんな存在ですか?」

マグヌスにとって、イリアナ・グレインは兄弟たちから捨てられた地獄から自分を連れさり、小さな獣の檻に閉じ込めて飼い慣らした人だった。

マグヌスは目の前にいるユナの頬を手で包み込みました。「獣だった俺を人間にした人で…」というとユナは「元々あなたは人間だったし皇子だったでしょ」と言うので、マグヌスは笑ってユナの唇に口付けて、鼻の頭、眉間にも口付けをしました。

「あなたこそが俺の世界で、あなたこそが俺の世界の終わりです」

マグヌスにとって、目の前のイリアナは両親であり、師匠だった。イリアナが教えた通りにマグヌスは生きていました。生まれた時は皇子という人形で、イリアナ・グレインに拾われてからは獣となり、彼女に出会って人間になりました。

「義務感で抱いてしまうと、ずっとその言い訳で逃げられてしまいそうで嫌です。それに、嫌な相手に抱かれることほど悲惨なこともないでしょうから」

確かに今まで口付けはしたことはあっても、それ以上の接触をマグヌスはして来ませんでした。マグヌスの行動にユナが不快感を感じたことは、実はそれほど多くありませんでした。「では私を放して」と言うと、マグヌスはそれは拒否しました。週に一回でも月に1回でも会って欲しいし、自分に手懐けられるのが怖いというなら接触もしない、とマグヌスは言いました。

「俺も俺がどこまで我慢するか分かりません。 狂気に狂って四肢を切ってしまうかもしれないというのは本気なので、どうかこれ以上刺激しないでください」

手の甲に柔らかいものが触れて落ちた。一歩遅れて顔を上げると、彼の顔が私の手の甲から遠ざかっていた。暗闇に半分埋もれた男は笑っていた。

「あなたが望むなら生きます。望まないなら時がくれば死にます」

「それはなに」

「リナが私の命綱まで握っているということです。 俺が生きることを望むなら、あなたが俺を望めばいい」

ユナ

マグヌスがユナの手を握って歩き始めると、暗闇の中で「ユナ!」と自分の名前が聞こえました。それは自分の母国語でした。箱に入っている猫を見るのは、しゃがみこんでいる幼いユナでした。

それが虚像だとわかっても、ユナは歩けなくなりました。マグヌスはここにいたいなら一緒にここにいる、と言いました。ユナがここを幸せだと思うなら、何百年だろうがマグヌスもそれに付き合うつもりのようです。

ユナは虚像を振り払って進みます。マグヌスは幼いユナが可愛いのか口元に笑みを浮かべていました。それから見る虚像も似たようなものでした。美味しいアイスクリーム屋を見つけた日、運良く通りすがりにお金を拾った日。どれも「1番幸せな記憶」というにはささやかすぎるものでした。考えてみて、自分は確かに薄幸だったのだとユナは自覚しました。

そして、虚像に男が現れます。男はユナにみすぼらしい1本のバラと、銀メッキの安物の指輪を贈りましたが、ユナは幸せそうにそれを受けとり、男に抱きしめられていました。

その虚像を見て、ユナは耳鳴りがしました。隣で何か言うマグヌスの声が何も聞こえなくて、ユナは自分が泣いていることに気がつきました。

ユナはその虚像を切るようにマグヌスに頼みました。根が見せる虚像なので、穢れた魂であるマグヌスを襲おうとしますが、呆気なく虚像のユナも男も両断されました。

「あれは誰ですか?どうして花をもらったんですか?」

「私の恋人です」

マグヌスは笑顔を浮かべていたけど目つきは冷たかった。スイカが爆発したかのような音が聞こえて、視線を向けると、男の虚像がさらに酷いことになっていました。マグヌスは嫉妬していました。しかし、これは幸せな記憶の虚像ではあるが、その記憶の先が幸せであるとは限りません。ユナはマグヌスの手を握りました。

男は大学の試験を受けるために努力していました。付き合っていたユナはそれを助け、ご飯を作り、お金が無いと言われれば買い与えました。しかし男に浮気されて捨てられてしまいます。

マグヌスはユナの話を聞くと、付き合って100日後くらいにデートに行くユナと男の虚像に向かって歩き、男の四肢を切り、足で踏みつぶしました。

二人の関係

そうして二人が歩き続けると道の終わりが見えてきました。マグヌスはユナに「どんな恋をしていましたか」と聞くので、「会いたくなるし、何もしていてもその人が浮かぶし、幸せであって欲しかった」とユナは答えました。そして、結局最後まで恨むことが出来なかったとも。

出口の前に立ったマグヌスはユナを見つめていました。

「俺はあなたにずっと会いたかったし、俺の命が切れても構わないと思うほど、あなたが幸せになってほしいという気持ちもあります。俺は結局、二度も俺を捨てていったあなたを心から恨むことができませんでした。この感情とあなたが言う愛という感情にはどんな違いがありますか?」

ユナの言った愛と、マグヌスが主張する愛の意味はそれほど大きく変わりませんでした。質問されたユナは答えることができませんでした。どんな違いがあるのか、もしふたつに違いがなかったら。

「リナ、やはり諦められません」

「何をですか?」

「愛しています。あなたがいなければ死にそうです。もう俺を捨てないでください」

切なく囁いたマグヌスに固まってしまったユナを、マグヌスは押し倒しました。マグヌスは「俺にあなたをください」と言いました。

「俺が全部満たしてあげます。俺が集めた福をすべてあなたに差し上げます。行き場がなければ俺のそばにいてください。足りないものがあれば俺を通じて満たしてください」

ユナもマグヌスと変わらないことに気がつきました。かつての恋愛で傷ついたユナは二度と愛を信じないと決めたけど、結局マグヌスから離れられない。ユナとマグヌスはお互いにお互いを渇望していました。だから、この関係は長くは続かないとユナは言いました。

それでもマグヌスは逃げない限りこの関係は続くと言います。永遠だと。

ユナは「皇后にはなりたくありません」と言います。

「でも恋人なら大丈夫だと思います。マグヌス、正式に交際しましょう」

言いたいことを言うと、ユナは呼吸が楽になりました。マグヌスは呼吸さえ止めて驚いていました。今度は自分が虚像が見せる幻覚を見ているのかとマグヌスは考え、それをユナに確認します。それだけマグヌスにとって信じられない出来事でした。

「すみません、信じられなくて。もしかして…」

彼は手を挙げて自分の口元を覆い隠すと、とても小さい声で付け加えた。少し赤くなった耳たぶが彼が今とても慌てたという事実を知らせてくれた。

「もし夢なら悲しすぎると思って。失礼しました」

特に、この夢なのか現実なのか、それともその間にある何なのかわからない空間では十分疑えそうだった。私が大丈夫だと首を横に振ると、マグヌスがついてに顔をめちゃくちゃにして私をぎゅっと抱きしめた。

「何でも、いいです」

「………」

「俺があなたの中に一歩入ったのなら何でもいいです」

ようやく幻覚ではないとわかったマグヌスは口付けをしました。舌をそのまま絡めようとしたマグヌスは唇をそっと離して「キスしてもいいですか」と遅い許可を得ようとしました。

「恋人なのにずっと許可を貰おうと思っていまか?」と聞くと、マグヌスは遠慮なく口付けをしました。そして帰ったら恋人について勉強すると言って意気込みを見せます。

「ユナです。私の名前はユナ」

「ユナ」

彼に低い声が私の名前を呼んだ瞬間、彼の肩を握った手に力が入った。グレイン侯爵が呼んでくれる時もいつも変な気分に包まれたが、今はさらに増している。

息が止まるような気がした。彼が私の名前を何度も呼んだ。

私が彼が私の名前を呼ぶたびに背を向けた。

彼は私の動きを鑑賞するかのように背を撫で、すぐに腰を曲げて耳元に唇を近づけた。

「ユナ、愛しています」

2人が口付けをしていると、マグヌスの魂の傷が消えました。しかし、マグヌスはそれ以上進むことをせず、呆気なくユナを離して立ち上がりました。

マグヌスはユナが皇后になりたくないというので、まだ未来に不安があることがわかっていました。このまま関係を持ってしまって後悔して欲しくないので引くのだと説明するけれど、ユナはもっと納得がいきませんでした。自分なりに全てを覚悟して受け入れるつもりだったのに、とユナは思いました。

「してもいいよ」

「俺に少しでも好感を持っていますか?愛じゃなくても」

「そうではなければ逃げています」

気持ちがなければ口付けなんてしないし、体を繋げようとも考えない。そんなユナの言葉が増幅剤にでもなったのか、マグヌスはもう遠慮をしませんでした。そのまま2人は体を繋げました。

「素直に死ぬことができなくなりました。こんなに優しい人が一人で残ったらきっと…誰もがあなたに手をつけようとしますから」

マグヌスの魂についていた傷はかなり消えていました。マグヌスはユナを抱きしめて道の出口を出ました。そこは開けた平地の花畑があり、端には巨大な木が見えました。

そこにいた獣たちはマグヌスに襲いかかりましたが、ユナを襲うことはありませんでした。ユナは巨大な木に近づき、その木の状態があまり良くないことに気づきました。乾いて、腐った匂いもしました。木には穴が空いていて、そこからユナは真っ黒な玉を取りだます。

最初は誰かがこぼした種だった。運良く地中深くに埋められた木の種は、ゆっくりと育ち、周囲に野原ができ、花が咲き、人が暮らしました。

そして長い戦争が始まり、人や獣の血が木に染みました。殺しあって流れた血が染み込んだ木は、動くことは出来ないけれど自我を持つようになりました。木はもっと多くのことを知りたくて根をのばしたけど、世の中は血の色をしていました。どこに行っても戦争で、植物が死んで動物が泣いていました。

木は悲しくて、守りたかった。だから木は自分の巣をつくりました。

ユナは木が人間に失望し、恨んでいることを理解しました。そして、人間に排斥された種族とともに自分たちの世界を作りました。そして根を伸ばして世界を維持して、その根の先でユナと会った。木は霧の本体でした。

ユナは玉を持ちあげ、地面に投げつけると、玉はふたつに割れて壊れました。ありがとうユナ、と声が聞こえ、木はあっという間に枯れて、腐っていきました。ユナは割れた玉を腕に抱えました。

黒野の終わり

霧の本体を壊すことに成功したので、黒野が世界を飲み込むことは無事に阻止されました。その代わり、黒野が消えてしまうので、13人の王は会議を開くことになりました。黒野はあと2年ほどで完全に消えてしまいます。

王たちはこの世界が無くなるのを恐れていました。しかし、どうするのかと話し合っても結局ひとつしか方法はありません。この世界が無くなるなら、代わりの空間を探すしかない。人間と共存するのか、別の空間を探すのかは王たちの判断でした。それでも、長い間ここで生きてきた王たちは簡単に応えを出せないでいました。

ユナとマグヌスは戻ってきてから意識を失い、1週間後にようやく目を覚ましました。

ユナが起きるとそこは見慣れないベッドの上で、近くには割れた玉が置いてありました。ひとまず風呂に入ろうとするけれど、立ち上がろうとして上手く力が入らず、ベッドに座り込んでしまいました。

座り込んでいるユナのもとにグレイン公爵が訪れ、ユナは自分たちの体験した話をしました。グレイン公爵はユナが割った玉こそが「シドゥスの根源」だと言いました。

グレイン公爵はマグヌスと一緒にいる気になったのかとユナに聞きました。恋人になったと報告しますが、なぜわかったのかユナが聞くと、グレイン侯爵は「皇帝から君の匂いがした」と言いました。どうやら夢魔は体を繋げると精気が移るようです。

精気を与えたことで自分が危なくなるのかとユナが聞くと、グレイン公爵は自分が精気を与えるから大丈夫だと答えました。親が子供に精気を与えることは夢魔の中ではよくあることで、液体の形にして飲ませるか、魔力のように直接体に流し込む方法があると説明しました。

グレイン公爵は自分の世界に帰りたいのかとユナに聞きました。ここでこのまま暮らすのではいけないのかと。

ユナは帰りたかった。それは本能のようなもので、いきなり小説だと思っていた世界に連れてこられて、「よし!私は小説の中の人だ!」とは適用できません。いくらその世界が良くて楽しくても、自分の世界が懐かしくて帰りたくなってしまう。

しかし、霧によってユナは元の世界では死んでいて、帰ることは出来ないと教えられました。だから、帰りたいけどそれにしがみつくのはもうやめることにしました。

まだマグヌスを愛する自信もないし、アクイラには罪悪感はあるし、元の世界が恋しくなるけれど。それでも屈せずに生きていかないと、とユナは思いました。

ちなみにグレイン侯爵の名前はベリアル・グレインです。妻のアクイラからは「ベリー」と呼ばれています。ベリアルとアクイラのペアは個人できにすごく好きです。別で読みたいほど。

世の中の変化

世の中は急速に変化しました。黒野の領域が徐々に消えていて、黒野にいた生物が少しずつ人間界に流れ始めました。ユナが起きた3日後に目が覚めたマグヌスは、状況を聞くと城に帰りました。

ユナはグレイン公爵のそばで2ヶ月過ごし、夢魔の一族をつれて黒野の外に最初に出ました。そのあとに獣の一族を率いるウルフが出たけど、訓練の成果もあって彼らはほとんど人型になれるようになっていました。

マグヌスは、彼らは昔に世の中から追い出された異種族で、人間が不便を感じていると聞いて自分たちでその闇をなくし、世の中に出てきたのだと民に向けて広く説明しました。種族ごとの特徴も説明して、それを世界各国に伝達したので、好奇心に満ちた目を向けられることはあっても、冷たい視線を向けられることはありませんでした。

それでもトラブルは起きましたが、王たちが各種族を統制していたおかげで、大きな問題とはなりませんでした。黒野の領域が狭くなっていくと、空に月が増えました。

月によって魔力が増えたので、魔力持ちの人間が現れ始めましたが、マグヌスが対策として学校を設立したおかげで、魔力持ちの人間は世の中から排斥されずむしろ歓迎されました。学校の教師として立ったのは、魔力操作が得意な1番目の王とその部下たちでした。

ユナはグレイン公爵を引き継ぎ、マグヌスと会う時間が減りました。マグヌスとユナは秘密恋愛中でした。周りは知っていたので秘密ではなかったけれど、それでも表面的にはつくろって公な場では引っ付かないようにし、宴会はユナが参加しないようにしていました。

マグヌスは不満そうだったけど、皇帝と公爵が付き合うというゴシップを出す訳にはいきませんでした。

しかしこの一年半、マグヌスは比較的落ち着いていました。何日も連絡が取れなかったり顔を見せないと風狼を送ってきたくらいです。今では風狼は黒野の管理ではなく、黒野からきた種族の定着を助けています。

マグヌスの部屋で、ユナはマグヌスに謝りました。自分が怖くて逃げだしたこと、マグヌスの気持ちを考えず傷つけてしまったこと。

ユナはもう黙って離れることをしないと約束しました。ふたりは今恋人だから、お互いの関係が毒になると思ったり、片方の気持ちが冷めてしまう時が来るかもしれない。ユナは自分が離れる時はマグヌスにきちんと別れを告げて離れるつもりでした。

それがマグヌスは不満でした。自分の気持ちは変わることはないので、ユナを皇后にするために絶えず誘惑をするとマグヌスは言います。

「ではあなたは俺のために何をしますか?」

「え?えっと…うん。私もあなたを誘惑…したり、まぁお互いに好きなことをするんじゃないかな?」

恋愛はお互いを知って楽しむ関係のはずだけど、結婚するためにお互いを誘惑し合うというのは果たして正しいかどうか、ユナにはわかりませんでした。

ユナの誘惑

マグヌスはいつしてくれるのかと聞きます。今までは自分が誘惑を一生懸命してきたが、対してユナは誘惑を1度もしていないと。自分たちの距離が近づかないのはユナの努力が足りないのではと。

「俺を誘惑してください、ユナ」

マグヌスが目尻を下げてメクだった時のような表情をしました。ユナはマグヌスのこの表情に弱かったので、距離を取ろうと体を後退されますが、ベッドに足がぶつかりました。

拒否することができなかったユナは、仕方なく誘惑をしてみることにして、マグヌスをベッドに横たわらせました。シャツのボタンをあけて胸元に顔を埋めてみたけど、ユナはこれ以上何をすればいいのかわからず、そんなユナを見てマグヌスが笑いました。

「笑わないで」

「かわいいからです。 俺がやっていた通りにやってみればいいんじゃないですか?」

「あなたがやっていた通り?」

毎日背中にくっついて腰を包み、首筋や顔に口付けをしていました。

それを私がやれって? 枯れ木にセミのようにくっついた姿勢で?

ユナはマグヌスの体に口付けて、誘惑は成功しました。今度はマグヌスから口付けを受けながら、ユナは1度も伝えていなかったことを思い出しました。

「…好きです、マグヌス」

愛しているかどうかはまだ確信が持てませんでした。いまだにユナはイリアナ・グレインの感情の延長線ではないのかと疑っています。けれど、マグヌスのことは恋人だと思っていました。

マグヌスはユナの言葉に驚き、力いっぱい抱きしめた。

「はい、愛しています。愛しています、ユナ。俺は一生あなたを愛することができるから捨てないでください。あなたのためなら何でもするから」

ユナはマグヌスの頭を撫でた。お互いに慣れ、愛が当たり前になり、好きな物や嫌いなもの知って、喧嘩もして、それでもまだこの関係が続けれそうなら。

「その時は皇后になってあげます。あなたが私の唯一の皇帝になってください」

マグヌスは素直に頷きます。ユナはどこかに行く時は伝えるし、もしそれが出来なかったら手紙を書くから返事をするようにマグヌスに言いました。その返事を、また自分が書くから。

そうして恋愛をしていくのだと、ユナは教えます。その代わりに、秘密恋愛はやめましょうか?とマグヌスに聞きます。秘密にしているのでお互い独り身だけど、マグヌスはそれを不安に思っているだろうから。

マグヌスはユナの言葉に頷いて、ユナをベッドに寝かせて上に乗りました。話しをして終わらせるつもりだったけど、マグヌスは終わりにしてくれるつもりはなかったようです。明らかに意図を感じる手が、ユナの腰を撫でました。

ラファエルとクマのぬいぐるみ

「ほら、かっこいいでしょ!リナ」

ラファエルはユナが見せる夢に登場する冷蔵庫を熱心に見ては質問していました。そして半年間連絡がないと思ったら、その冷蔵庫を作り出していました。

天才だ、とユナが褒めます。

「もちろん!僕が天才じゃなかったら誰が天才だと思う?」

ラファエルは最初に作ったものは全てユナにあげると言った。嫌だと駄々をこねて武器を作っていた頃より、楽しそうでした。ラファエルは武器ではなく、自分の技術で素敵なものを作って、笑う人達が見たかった。

クマのぬいぐるみは、まだぬいぐるみのフリをしていました。ユナを見て、黙っていろとジェスチャーしてきます。

皇帝とうまくいっているのかラファエルに聞かれて、そこでユナは付き合って2年になるのにデートをしたことがないのに気がつきました。

ラファエルは今度開催される帝国祭りがあることをユナに教えます。貴族も平民も異種族も関係なく期間限定で出店できて、去年も一昨年も黒野のことで忙しくて開催できなかったので、今年は盛り上がるはずでした。

ユナも自分の店を出そうかと言うと、ラファエルは自分の隣を薦めました。ユナは会話をしながらさりげなく夢魔の話をしてみます。

ラファエルは「夢魔の友達も欲しい。お前もそうだろ?ビリー」といってクマのぬいぐるみを抱きしめました。

クマのぬいぐるみはどうやらラファエルが好きなようですが、長い間ぬいぐるみとして偽ってきたのでどうにも前進できないようでした。

ユナがラファエルに「どんな人と結婚したい?」と聞くと、ラファエルは叔父から爵位を貰えるので、相手は貴族じゃなくてもいいけど、かっこい人か可愛い人で、お金を持っていて、自分の隣で自分の研究を手伝ってくれると嬉しいと話しました。

ユナは約束かあるからもう行く、と言いながらもラファエルからクマのぬいぐるみを借りました。ユナはシェリルの息子のカシオがラファエルに会いたがっていたことを伝えて、通路に入りました。ラファエルの夢から閉ざされると、クマのぬいぐるみが自分で浮いて、泣いていました。

ユナがカシオの話をしたのを怒っているようでした。カシオはラファエルの友達で、ビリーは夢の友達だからちゃんと話すべきだとユナは言います。

「現実を望むならあなたが出てこなければ」

「君は知らない。我々は第一歩を踏み出すのだから、いつも不安だ」

ユナはラファエルとビリーの関係に割り込むつもりはありませんでした。自分の恋愛でさえうまくできていないのに。ユナはクマのぬいぐるみの肩を叩いて通路を抜けました。

デートの話

ユナが夢から帰ってきて目を覚ますと目の前にマグヌスがいました。マグヌスはユナがラファエルの夢に行っているのは知っていたけど、その間ユナの体は反応もしないし冷たくなっているので不安だったと言いました。

池の時の話もしたので、ユナが死んで元の世界に帰ったのではないかと心配になるようです。それでもユナは霧が、もうユナがこの世界のものだと言っていたので、それを信じることにしていました。

ユナが今度の帝国祭に一緒に行こう、とデートに誘いますが、マグヌスは帝国祭は人が多くて不便だし、デートならいつもしていると言いました。確かに一緒に寝て、政務では議論して、食事を一緒に取ってはいますが、ユナにとってそれはデートではありません。

ユナが不満を言うと、マグヌスは跪いて「俺とデートしてください、ユナ」と態度を改めました。

「俺は空気が読めないんです。努力します」

「……いや、跪くことはないし」

マグヌスはユナが騒がしいところが嫌いだと言うので、祭りも嫌だと思っていました。しかし、ユナは会議で関係ない話や大袈裟に騒ぎ立てられるのが嫌なだけで、祭りはまた別でした。しかし、マグヌスはその違いか理解できません。ユナもうまく説明することができず、「時間があるか聞いただけから、嫌ならいい」とイライラしながら言います。

「いいえ。すぐに1から10までコースを組んできます。2日だけ時間をください」

まるで宿題のようでした。マグヌスはいつも最善中の最善を尽くそうとします。以前船に乗って池に出かけた時も、船の位置や食べ物の種類、時間まで全て指定していたと聞いてユナは驚きました。ユナは帝国祭で出店しようと思っていることもマグヌスに話しました。

マグヌスはユナにとても甘かった。けれど、先日もひとつの貴族の家門を滅ぼしたところでした。不正を働いていた貴族は鈍い斧で何度も首を殴られたと聞きました。死刑執行式には貴族全員が参列することになっていましたが、ユナだけは決して見ないように命じられていました。

ユナの前で優しく見えても、マグヌスのその残虐性はいつユナに向くかもわかりません。今はお互い休戦状態のようだとユナは思っていました。しかし、ユナがそばにいると決めたので、マグヌスはきっと死ぬまで穏やかなままでしょう。心さえ変わらなければ。

マグヌスはユナの世界では殺戮や戦争はほとんどないと聞いていて、ユナを血から遠ざけたかったようです。自分が血に染っているところをユナに見られるとこうして向かい合ってはくれなくなると思っていました。

しかし死刑執行式では自分の皇帝としての力を他の貴族に見せつける意味もあったので、執行式自体を行わないという選択肢はなく、ユナに見せないという方法をとったようです。

ふたりがシェリルの話になると、キリストン公爵にカシオのことをようやく話したという話題になりました。しかしそのあとシェリルは怒りながらマグヌスの元を訪れ、キリストン公爵を切ってしまってはダメかと言っていたようです。

何を切るのかが理解できなかったマグヌスですが、キリストン公爵が他の令嬢と一緒にいるのをシェリルが見てしまったということを聞いて、ユナは納得しました。

シェリルは、キリストン公爵との関係を切るのではなく、彼の足の間を切ってしまいたいと言う話でしたが、それをマグヌスに説明するとマグヌスの笑顔が固まりました。

4巻前編を読んだ感想

ユナとマグヌスの二人がようやく落ち着いた関係をスタートできるようになってめちゃくちゃ安心したし、初めて呼んだときはハッピーエンドをようやく確信できて嬉しかったです。

この小説はR指定のない小説だったのですが、R部分があった方が合いそうだな〜と思いながら呼んでいました。霧に指示されて玉を割りにいく間でマグヌスとユナは初めて関係をもちますが、描写としてはやや直接的な表現があったくらいなので、もっとちゃんと書いてあるところが読みたかったな〜と思ったり…。

この作品はあと3話ほどで完結となりますので、2記事程度で完走する予定です。

次回の更新は来週を予定しています。更新はtwitterにてお知らせします。

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異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

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