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原作ネタバレ

「永遠なる君の嘘」韓国の原作小説ネタバレ感想 |1巻・後編

永遠なる君の嘘(영원한 너의 거짓말)の韓国の原作小説1巻(後編)のネタバレ感想です。

※2022.12.20 記事の文章が長すぎて読みにくかったので1巻後編としていた記事を2つに分割しました。

※2022.12.12 6章を掲載し忘れていたため、修正しました。

原作:jeonhoochi

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6章 真実

エミリーはローゼンに人は皆違う体を持って生まれ、普通の薬草が毒になることもあるので、気をつけなくてはいけないと話していました。ローゼンは食べ物で選り好みをするのは、ひ弱な金持ちがすることだと思っていましたが、結局その時に薬剤に混ざったマエリアの果汁のせいで10日ほど寝込んでしまうことになりました。

ローゼンがマエリアの実で寝込んだことがわかると、エミリーは「これからは絶対に食べないで。本当に死ぬかもしれない」と忠告してくれます。しかし、ローゼンはむしろ窒息死できるならまあまあ楽な死に方だと思いました。それから、耐え難いほど人生が辛い時にローゼンは紫色をしたマエリアの実を思い出しました。

ヒンドリーに殴られて死ぬより、安らかな死を選択できるという事実はいつだってローゼンを慰めてくれました。けれど、今回は自殺するつもりはなかった。

目を覚ますと夕方頃で、手首は手錠をかけられ、ベッドの柱に繋がっていましたが、監獄ではないことに自分の計画が成功したことをローゼンは理解します。

体を起こすと、アレックスがそばにいました。「モンテ島に到着するまであとどれくらいか知っていますか?」とアレックスは尋ねます。答えられないローゼンに、アレックスは3日後にモンテ島に着くこと、そこまで船はずっと西方向に進んでいること、風は正反対に吹いていることを教えました。

部屋にはイアンはいなくて、タバコを吸いに行ったようでした。規則を大事にしているイアンが、アレックスと2人にするとは思えないので、アレックスはイアンを出し抜いて今ここにいるのでしょう。

アレックスはイアンの船室内をさぐり、幼い頃自分がイアンにプレゼントしたガス灯がわりに光る苔をローゼンに渡し、望遠鏡と海図を取り出して、幼い子供に教えるように簡単に地理を教えます。

アレックスが話す海風の方向や気温、天気の話にローゼンは耳を傾けました。ローゼンは人が隠す本音を理解するのが苦手でしたが、逆に人がふいに漏らす情報を逃すことはなかった。

アレックスはイアンとヘンリーの士官学校時代の話もしました。イアンは士官学校では有名人だったことを教えられ、ローゼンはイアンのすらりとした体格や輝かしい功績を考えて納得します。外見だけでも目立つのに、それに実力も伴っていたら有名にもなるだろうと思いました。さぞ両親が喜ぶ息子だったろうと思っていると、アレックスが知りたくなかったことを教えました。イアンの両親は彼が幼い頃、伝染病で2人とも亡くなってしまっていました。

イアンは遺産とともに親戚の家を転々とし、10歳になった時に自発的に士官学校に入りました。士官学校に入るとその財産は成人になるまで国が管理してくれるので、遺産を狙う親戚から守れるからでした。

だからイアンは本音を出すことは珍しく、素直でもなく、ある程度のことは1人で何とかしようとするのだと、アレックスはローゼンにイアンのことを言い訳します。確かにローゼンが想像していた優しい男ではなく、放送ではよく話せたと思えるほど無愛想な人だった。

しかし、いくらローゼンがイアンに失望したとしても、ローゼンは囚人で、イアンは輝く英雄であることに変わりはないので、ローゼンには関係の無いことだった。アレックスはローゼンの手を握り、「命を絶とうとしないでください」と言いました。

アレックスがローゼンを心配するのは、船で女性が自殺すると縁起が悪いという迷信のためか、孫娘の恩人だったからか、イアンの任務に支障をきたすせいなのかと考えますが、アレックスは「私にも娘がいました」と全く違う答えを話しました。

ライラの母親。アレックスが結婚して15年目にようやくできた、遅く手に入れた娘は、早くに亡くしてしまいました。

アレックスは亡くなった自分の娘にローゼンを重ねてしまっていました。太陽のような金髪を持つリービル家の娘と、麦の穂のような髪のローゼンとでは似ているはずもないのに、「娘に似ている」とアレックスは話しました。

アレックスはローゼンの脱出を、手伝うつもりはなくても黙認するつもりなのだとローゼンは理解しました。アレックスが立ち去ったあと、ローゼンは状況を整理します。必要なものは揃った。あとは救命艇の鍵さえあれば脱出できる。

ローゼンの脳内には、イアンが海に投げた肉がたちまち消えるのが浮かびながらも、かつてエミリーとした約束を思い出しました。ローゼンはエミリーにワルプルギス島で会うことを約束していたのです。

「私たちはまた会えると思います」
私のエンジンはまだ燃えている。 手錠をかけられた罪人として刑務所で死ぬことはない。 私は勝つだろう。絶対に、二度と負けない。どんな存在にも。

真夜中にイアンが船室に戻ってきた音でローゼンは目を覚まします。イアンはローゼンの健康に問題があるので島に着くまで船室にいてもいいと許可を出します。アルカペズの時はローゼンが意識を失っても「何も問題ない」と言われていたので、囚人に親切な船医に感謝しました。

しかし、この船室はイアンの部屋なので、イアンはどこで眠るのかと尋ねると、彼はソファを指します。イアンがソファで眠ると体を丸めることになるので、ローゼンは自分がソファで眠ると申し出ますが、「ソファはベッドより軽い」とイアンに言われてしまいます。イアンはどうやら、ローゼンがソファを引きずってそのまま海に飛び込むと思っているようでした。イアンはローゼンにかけた手錠やベッドの柱が錆びていないか確認します。

「…君は死のうとした」

死のうとしたわけではないとローゼンが弁明してもイアンは信じませんでした。

「気持ちよかったか?」
「いいえ、私のいうことを聞いて」
「面白かったか?」
「コナー卿!私の言うことを聞いて!」
「お前はそれを私の手で食べさせた」

イアンは明らかに怒っていました。きっとここまで英雄を怒らせることも珍しいだろうと思うほどでした。ローゼンがここで簡単に死のうとするのなら、今までどうして脱獄という苦労をするのか。それを冷静に指摘しようとしたけれど、ローゼンはその必要がないことに気づきました。かわりに泣きべそをかいて「到着したらどうせ死ぬの。生きてどうするの?」と尋ねます。

しかし、帰ってきたのはローゼンが望む同情ではありませんでした。イアンはローゼンの顔を片手でつかみ、ローゼンの思いどおりにはさせないと言い放ちます。

イアンはなぜ頑張って脱獄したローゼンが命を絶とうとするのか理解できないと話しました。ローゼンが自殺するとは思っていなかった。イアンが知っているローゼンは、息が切れるまで諦めない人だった。

そう言われて、ローゼンは怒りで頭が真っ白になりました。ローゼンはイアンが好きでした。例えローゼンを監獄に放り込む看守でも、イアンがローゼンに銃口を向けたとしても、イアン・コナーは命令通りに動く軍人で、すべきことをしているだけなので、ローゼンがイアンを好きだという事実は変わりません。イアンはローゼンの英雄だから。

けれど、ローゼンを理解していない人の知ったかぶりを許せるわけでもありませんでした。荒い息を吸ってイアンを睨むと、ローゼンが怒っているのを見て、イアンはむしろ冷静さを取り戻しました

ローゼンの亜麻色の髪を耳の後に流し、「お前が思っているよりも知っいるという意味だ」と状況に似合わないほど柔らかな声で言います。習慣とは恐ろしいもので、その柔らかな声に放送の声を思い出して、ローゼンも心が落ち着きました。

イアンはローゼンに「死ぬな」と言います。ローゼン自ら命を絶つことをせず、船いる間は大人しくしていることを約束して欲しいと願いしました。

その約束を呑むことができないローゼンに対して、イアンはその場で片膝をついて、ローゼンを縛り付けていた鎖と手錠を外します。イアンの監視下にいる間は鎖を外してもいいと言いました。

「………」
「だから約束して、ローゼン」
彼はかがんで目の高さを合わせた。 泣いている子供をなだめるように、彼は私に甘いキャンディーを握らせてくれる。 私が好きだった彼の声と顔で。

イアンはまるでローゼンに死んで欲しくないと思っているようだった。手を縛られている状況を抜け出せるなら悪くない提案だったので、ローゼンは「約束する」とイアンに答えます。船は3日後に到着してしまうのであまり時間が無い。

ローゼンは残り3日だけ残された囚人が何を望むのかを考え、酒とタバコを要求しました。イアンは自分の胸ポケットからタバコを渡し、酒は明日持ってくると約束しました。ローゼンはあっという間に吸い終わってしまったタバコをもう一本もらいながら、ローゼンは素朴な質問をいくつか投げることにしました。

「なんで結婚しないの?」

イアンはなぜローゼンがそんな質問をするのか当惑しながらも、「戦争に出たパイロットはいつ死ぬかわからないから」と答えます。事故が起きれば遺体を回収するのも難しいため、家族を作らないようにしていたのだと言います。

「軍帽の内側に挟んでおく恋人の写真もなしに戦争をしたの?」

ローゼンが尋ねると、イアンの口元が少し動きます。微笑んだのか、ガス灯の光の影が作り出した錯覚なのかローゼンにはわからなかった。

ローゼンが放送用と実際のイアンが違うことを指摘すると、「大変だった」とイアンが答えたので「ハンサムに生まれた罪ね。ブサイクはしたくてもできないからマシじゃない?」と言うと、イアンが笑いました。イアンは自分の顔の良さを自覚しているようだった。

ローゼンだったら奥さんを3人迎えるだろうと軽口を言うと、「帝国は一夫多妻制だ」と言われてしまいました。ローゼンは自分より悪い奴らには、奥さんはたくさんいるし、自分もヒンドリーの2番目の妻だったとイアンに教えます。

「まさか知らなかったの?記者はなんで書かなかったのかな。あっ、知らなかっただろうね。私が話してないから」

「もう寝なさい」

「もっと聞きたくない?記事に出ていたよりもっと面白い話をしてあげるのに」

「興味ない」

イアンはローゼンを寝かせて布団をかけ、ベッドのそばに椅子を近づけてそこに座ります。ローゼンが寝たら再び鎖を縛るつもりのようです。

一向に寝ようとしないローゼンに、「寝ないの?眠れないの?」とイアンに聞かれ、「ふたつとも」と答えると、くまのぬいぐるみを渡されました。ローゼンは「真実を知りたくない?」と話しかけます。

「私は既に真実を知っている」と聞く耳を持たないので、勝手に話すことにしました。ローゼンはぬいぐるみを抱えて蹲り、イアンの方に体を向けて、自分が15歳の頃の話を始めます。

7章 魔女と新郎と孤児

ローゼンは15歳より前の記憶が朧気だった。記憶の始まりは孤児院で、夜明けに起きて女中のように仕事をし、豚の餌のような食事をして、疲れて眠る、その繰り返し。

労働に疲れた子供たちは純真さを失い、足りない食事を食堂から盗むことで得ていた。見つかればほかの子供に罪を被せました。しかし、皆が盗むのでまわり回って受けるべき罰は子供たち皆が公正に受けることに。たまに何の過ちもしていないのに殴られることもあったけれど、それは院長たちの機嫌が悪い時でした。

「ネズミ小僧!」

ローゼンはボールのように丸まって、院長から受けるむち打ちに耐えます。その日は食事を盗んだからだった。けれど、お腹が満たされていれば傷も痛くなかった。生きるのは大変だったけれど、ローゼンはみんなそのようにして生きているのだと思っていたので、悲観することはなかった。しかし、たった1度、平凡な人生を覗いてしまったことがあります。

それは冬のこと。冷えた手で洗濯をして帰る途中、とある家の窓から明るい光が漏れているのを見て、ローゼンは取り憑かれたかのように近づきました。

その日は聖ヴァールブルクの祝日で、ワルプルギスの夜。年に一度訪れる祭りの日でした。人々は家族と晩餐を楽しみ、プレゼントを交換し、夜12時になると広場に出て夜が明けるまで踊る。その時には既に魔女狩りが横行していたけれど、それでも古い慣習は民間の間では根強く残っていました。

ローゼンが覗き見た家の中では、子供たちが太鼓を叩くように円卓を叩き、クリームをたっぷりのせたケーキを持ってきたおじさんが現れると彼らはぴょんぴょんと飛んで喜びました。そして子供たちを抱きしめ、プレゼントを渡します。ローゼンと同じ年頃の少女がプレゼントをあけると中からくまのぬいぐるみが出てきて、少女は父親に抱きつきました。

大好き。愛している。声まで届くはずがないのに、その親子のやり取りを見て、ローゼンは衝撃を受けました。それまでローゼンは「愛している」という言葉は稚拙だと思っていたし、それが人々がお互いに話しかける言葉ではなく、劇の1幕を締める言葉だと思っていました。

けれど実際は、子供が親に、親が子供に、恋人がお互いに。その事実に気付いて、ローゼンは我慢できないほど悲しくなりました。その日、孤児院に帰ると洗濯が遅くなった罰でふくらはぎを鞭で打たれましたが、それよりも胸の方が痛かった。

ローゼンは泣かない子供だった。泣いても現実は変わらないから。しかしその日、ローゼンは深夜に1人で部屋を出て、窓際に蹲って泣きました。ローゼンは寂しかった。慰めてくれる人も、懐かしむものも、ケーキも、暖かい家も、くまのぬいぐるみも。ローゼンは何も持っていなかったから。ローゼンは孤児院を支える木の柱を抱きしめました。冷たいが何も無いよりはましだった。

ローゼンは寂しかったけれど、それでも不公平だとは思いませんでした。家の中にいた子供たちは頬がふっくらしていたけれど、ローゼンの頬は痩けていて、死体のように見えたから、あまりの違いに不公平だとは思えなかったのですね。

聖ヴァールブルクの祝日、人々はケーキにロウソクを差し込み、歴史上最も偉大だった魔女ヴァールブルクに願いを捧げる。多くの中で最も切実な願いを魔女バルグが叶えてくれるという言い伝えです

ローゼンは魔女に捧げるケーキは無くても、願いを捧げました。

「ヴァールブルクよ、私を暖かく抱いてくれる人に会わせてください。心から私を愛していると言ってくれる人。誰でもいいです。それが私にとって不相応なら…嘘でも大丈夫です。私が信じます」

そうして迎えた15歳の誕生日。ローゼンの人生に転機が訪れました。

孤児院では15歳になったら妾や女中として売り飛ばされてしまうので、ローゼンは院長に呼ばれて自分がどちらになるのかわからないまま院長室を訪れました。院長は機嫌良さそうに、「あなたの新郎になる方だよ」と男を紹介します。

老人に嫁ぐ可能性も考えていたけれど、男は思ったより元気そうだったし、頭も白くなく、臭くもなかった。20代後半から30代前半に見える、平凡な男でした。この人に拒否されたら年老いた禿頭の老人の元に行かされると思ったローゼンは必死に笑顔を作りました。委員長と男は、「健康であることは確かですか?子供もたくさん産まないといけない」「それはミスター・ハワーズ次第ではないですか。生殖器は正常です」というひとつも理解できない外国語のような言葉を話していました。

その時、ローゼンの頭には聖バルグに願ったことが浮かんでいました。生意気な願いをすると天罰を受けるという言い伝えもあるけれど、頭を降って不吉な予感を払い落とします。幸いにも男はローゼンを気に入り、ローゼンの指にぴったりの指輪をはめて、大きなくまのぬいぐるみをプレゼントしました。その瞬間、ローゼンは彼と恋に落ちることが出来るだろうと思いました。それが、ヒンドリー・ハワーズとの出会いだった。

ヒンドリーは貧民街で暮らす免許のない医師でした。しかし、治療所を設けて、他の立派な医師にも劣らないほどの収益をあげていました。ヒンドリーと一緒に住んだ家は二階建てで、1階が治療所で、2階が住居になっています。

ヒンドリーの家には台所やオーブン、新品では無いけれどローゼンの体にぴったり合う女性の服がクローゼットやドレッサーに用意されていました。ヒンドリーはローゼンのために用意したのだと言いました。

ローゼンはこの家に来てからお腹を空かせることはなくて本当に感謝しました。彼の体の下敷きになって冷や汗をかいて眠るので寒くもなかった。ヒンドリーは幼い花嫁に全く配慮しなかったので痛くて大変だったけれど、お腹が空いていたり寒いよりは、痛い方がマシでした。

ヒンドリーは院長のように殴ったりもしなかったし、その時までは酒を飲みすぎて手に負えないこともなかった。歩いて10分の距離にある市場で買い物をして、料理を作っておけばローゼンの頭を撫でてくれます。

しかし、甘くなくとも最悪ではなかったヒンドリーとの結婚生活は、ローゼンが家に来て数週間と経たないうちに壊れていきました。ヒンドリーは気難しく、料理や掃除、皿洗いについての小言が酷かった。その本性が段々と現れてきたからでした。

昨日の朝と同じメニューだと料理に不満を言われ、ローゼンは「昨日は焼いて今日は揚げたもので味付けも変えています」と弁解するけれど、ヒンドリーは聞いてはくれなかった。そのままヒンドリーは食事に手をつけず、スプーンを投げ出して外に出て行ってしまった。

ヒンドリーが帰る前に新しい料理を作らなくてはいけないと思ったローゼンは、一瞬流れた涙を拭って、料理を片付け、買い物に出かけました。

ヒンドリーは院長より2倍も大きかった。あの熊のような手で暴力を振るわれたら。そう想像して怖くなったけれど、大丈夫だと自分に言い聞かせました。ヒンドリーはただ今日気分が少し悪いだけで、ローゼンがうまくやればミスを挽回できるはず。

その日ヒンドリーは夜に帰ってきて、ローゼンの料理を食べると「こっちに来い」とローゼンを呼びました。蹴られた子犬のように縮こまってヒンドリーに近づくと、ヒンドリーはローゼンの頭を撫でました。

「これは美味しい。どうして怠けたの?最近慣れてきたから緊張がとけたのか。ほら、上手くできるじゃないか。私は同じ料理を出す太った女性は妻にしたくない」

それからローゼンは24時間ヒンドリーの食事の不安を抱えながら過ごしました。2ヶ月経つとローゼンのレパートリーもつきたけれど、ヒンドリーからもらう予算では新しいレパートリーを組むこともできなかった。

治療所はローゼンがきた2ヶ月前から閉まったまま。いつ開くのか聞くと、「もうすぐ」と答えを返されます。なぜ閉めたのかローゼンが更に尋ねると、ヒンドリーはスプーンを投げました。

「……なんでこんなに口数が多いんだろう?」

「私は心配になって……」

「警告しただろう、ローゼン。私はうるさい子が嫌いだ」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

今だったら、自分は子供ではなくあんたが連れてきた妻だと言ってフライパンで頭を殴っただろうけど、当時のローゼンは幼く純真で、孤児院にいた時の短気さも置いてきてしまっていました。

ローゼンにはヒンドリーしか頼る所がありませんでした。ヒンドリーの機嫌を損ねないよう料理をして、自分は「太った女が嫌い」だというヒンドリーのために小さなパンで食事を取っていました。

ローゼンがヒンドリーと結婚して3ヶ月目に、家の呼び鈴が鳴りました。

台所から「どなたですか?」と声をかけたが返事はなかった。ヒンドリーは人付き合いが面倒だと言って友達もいなかったので不思議に思っていると、ローゼンが扉を開ける前に鍵を回る音が聞こえて扉が開き、ローゼンよりも10歳年上に見える女が入ってきました。

ローゼンも当惑したが、女も同じくらい当惑していました。女が「ヒンドリーの親戚なの?こんなに幼い妹がいるなんて聞いたことないけど…」と言うので、ローゼンは自分は3ヶ月前に結婚したヒンドリーの妻だと説明します。

「結婚?」

「はい、結婚です」

ローゼンの答えを聞くなり、女はローゼンの胸ぐらを掴み、玄関の下駄箱に投げつけ、ローゼンの両頬にビンタを飛ばしました。

「狂ってるに違いない!狂ってる!」

女はローゼンが反撃をする暇もなく叩き続けたけれど、ローゼンはあまりにも状況が非現実的すぎて怒りもわいていなかった。自分の上に乗る女の奇妙に光る緑色の目を見て、「本当に不思議」と思うほど。

しかし、突然殴打が止まりました。ヒンドリーが女の髪を掴んでいたからです。

「何してるの?」

「ヒンドリー!どうしてこんなことを…!」

女がそう言うと、靴が宙に浮き、それを皮切りに小さなものが次々と浮かび上がりました。それらはヒンドリーとローゼンを攻撃しましたが、ローゼンは痛みも忘れてその魅惑的な風景を眺めます。エミリー・ハワーズは魔女だった。

ヒンドリーはエミリーを掴んで床に叩き込んで踏みにじったあと、細いネックレスを首輪のように掴んで引っ張りました。ネックレスについた鉱物が緑色を帯び、靴たちが力なく床に落ち、エミリーは悲鳴をあげて咳をします。

エミリーを強制的に落ち着かせたヒンドリーは、彼女は魔女で自分は保護しているとローゼンに説明します。

あの人はヒンドリーの奥さんですか?」

自分が1番上の妻だと思ったの?」

その後、エミリーとヒンドリーは居室でローゼンを置いてけぼりにして激しい口論をしました。エミリーはヒンドリーの妻でしたが、事実婚の関係でした。彼らはずっと前からの隣人で、エミリーの両親が亡くした時にヒンドリーの父親が引き取り、そうして一緒に育ち、自然と恋人同士になりました。

片方が首に拘束具をつけて、もう片方がその手綱を握った状態で恋人という関係が成立するのかはローゼンにもわからなかった。

ヒンドリーは息子を望んでいましたが、エミリーと10年の結婚生活を送っても、彼らには子供はできなかった。4年前に妊娠したものの、結局エミリーは産むことはできませんでした。だからヒンドリーは子供を得るために若いローゼンを2番目の妻に迎えたのでしょう。

エミリーとヒンドリーの口論は激しさを増し、ヒンドリーはエミリーの頬を殴りました。赤く腫れ上がった頬を抑えて涙を流すエミリーは、ローゼンを見ます。ローゼンはエミリーの目から、崩れた自尊心、満身創痍となった心、恨みを感じ取りました。

ヒンドリーは戦争の噂もあるのに、魔女であるエミリーがここ以外にどこに行くのか聞きます。エミリーには例え拘束具を付けられたとしても、ヒンドリーの家以外に行き場所がありませんでした。

それから3人の生活が始まりました。ローゼンはヒンドリーの食事を用意して、太った女が嫌いだというヒンドリーのために、彼の食べ残しを食べるようになっていました。しかし、ローゼンが食べようとしていた茹でたジャガイモは、エミリーによって奪われてしまった。ローゼンはエミリーが大嫌いだった。会うやいなやローゼンを殴ったし、ヒンドリーの1番目の妻だったから。

ヒンドリーと結婚して1番気に入っていたのは彼に他に妻がいなかったことなのに、もうその長所も失われてしまった。それが、エミリーが現れたせいだと思いました。暴君のヒンドリーを憎むより、エミリーを憎んだ方が楽だったから。

同様にエミリーも被害者でした。薬草を探しに家を離れたら、その間に2番目の妻が居座り、自分の服を盗んでいたのだから。エミリーはローゼンを透明人間のように扱いましたが、同じ家の中ではそれも難しい時もありました。ジャガイモを取られて怒り、ついには泣いてしまったローゼンに、エミリーは呆れている様子でした。

その夜、ローゼンはヒンドリーにエミリーの悪口を言いました。ヒンドリーはうるさいとは怒らず、むしろ喜んでいる様子だった。あまり喧嘩しないで、と言いながらも2人がヒンドリーのことで争っているのを可愛いと思っているようです。そうしてヒンドリーの油っぽい顔が近づいてきて、ローゼンの心はひんやりと冷めました。

ローゼンとエミリーの喧嘩を、ヒンドリーは焼きもちだと思っていました。それが気持ち悪かった。ローゼンはヒンドリーとエミリーが口付けをするところや、彼らが自分と同じようにベッドにいるところを想像してみます。

大変で痛い仕事を代わってくれるエミリーにむしろ感謝するだろうと考え、ローゼンは自分は焼きもちではなく怒っているのだと理解しました。ローゼンはヒンドリーを愛しているわけではなく、雨風を凌いでくれるこの家と、食器棚に入ったパンを愛しているだけだった。ところが、既にヒンドリーはローゼンからパンを奪っている。いつの間にか、エミリーに向けていた怒りはヒンドリーに向いていました。

翌朝、食卓にはゆで卵が3つ置かれていました。昼食時も庭をはいていると隅でサンドイッチの籠を見つけます。どちらもローゼンが用意したわけでも、ヒンドリーが料理したわけでもありません。なぜならヒンドリーは卵に口すら付けなかったから。エミリーは何も言わなかったけれど、それらは明らかにエミリーがローゼンのために用意したものでした

サンドイッチに挟まれたパンパンの卵黄を噛みながら、ローゼンは考えます。なぜヒンドリーのことでエミリーと争う必要があるのかと。

エミリーが帰ると治療所は開かれ、患者たちが押し寄せました。がらんとしていた食器棚に現金がたまるとヒンドリーはそれを持って外に出回り始めます。

ローゼンに言っていた「人付き合いが苦手」というのは単純に金がなくて外に出られなかった言い訳だったことがここで判明します。エミリーのヒモですね。

ヒンドリーは競馬場や賭博場に出かけ、ローゼンはそれを喜びました。そうして時間に余裕ができると、ローゼンはエミリーの元を訪れ、彼女が薬草を分類したり収支を計算している横に居座りました。

サンドイッチをどうして用意したのか聞くと、エミリーが「材料が余ったから」というので、ローゼンは「それなら捨てればいいのに、どうして無駄に作ったの?」と反撃します。エミリーはそれに耐えられず、「その口癖は誰が教えたの?ご両親?」と聞くので、両親はいないとローゼンは答えました。ローゼンはそんな言葉で傷つくわけではなかったけど、エミリーは顔を真っ赤にして謝りました。

ローゼンは笑ってエミリーのスカートの裾を引っ張りながら、どうしてサンドイッチを作ったのかとまた聞いてみます。

「なんで私を気遣ってくれるのですか?」

「……うるさい」

「私が嫌いじゃないんですか?」

「もちろん嫌い!誰があなたが好きで毎朝料理を作っておくと思う?あまりにも痩せていていじめる楽しさもないからだよ!」

エミリーはローゼンを押しのけて怒ったけど、ローゼンはエミリーの表情が面白くて笑った。エミリーは「やせている子供とは喧嘩できない。ちゃんと受け取って、残さないで」と言いました。そうして洗濯物を干すエミリーの後を追いかけ、ローゼンは干した布団を芝生に落としたりしてイタズラをしました。

「ローゼン!やることがないなら洗濯物を干して」

なんで私が、とローゼンは文句を言いながらも洗濯物を手に取ります。エミリーと一緒に何か出来ることが嬉しかった。たくさんの洗濯物も2人でやればあっという間でした。ローゼンは魔法でやればいいのにと言うけど、エミリーから返事はありませんでした。

魔女になっても面倒なだけでいいことは無いですね、と話すローゼンに、エミリーは「それくらいはできるよ」と言いました。エミリーが指を弾くと2人が持っていた布団カバーが宙を舞う。石鹸水を入れて置いたバケツが倒れ、虹色に輝くシャボン玉が空に一気に空を舞い上がった。

「どう?」

生きてきた中で1番素敵です」

そのまま暫く青空を見上げ、ローゼンは現実を忘れました。ヒンドリーも、彼の家に閉じ込められたローゼンの境遇も、明け方ときどき自分を泣かせる寂しさも。

「今夜は素敵な夢を見ることができそうです」

しかし、その浮き立った予感は見事に外れました。鼓膜をつくサイレンと共に、空から軍用スピーカーが流れ、長い戦争の始まりを知らせたからでした。

1巻後編を読んだ感想

イアンの誠実さがめっちゃ好きです。囚人であるローゼンに対して真摯に受け止め対応してくれるところがいいですね…。

後半にエミリーが登場しましたね。初登場時はローゼンにビンタしたエミリーでしたが、確かに夫の元を離れた間に自分の服を着た別の女がいたら怒り狂うのも無理ない気がします…

服に関しては、ヒンドリーはローゼンに用意したものだと話していたのですが、これも全くの嘘というわけですね。最悪な男…

イタズラやワガママを言えるエミリーという姉のような存在がローゼンにできてちょっと涙腺が緩みました。今までローゼンには無償で自分のために何かをしてくれる人はいなかったので…。早くイアンと幸せになってほしい。

次の更新は来週を予定していますが、12月は仕事の忙しさがピークなので守れなかったらごめんなさい。更新はtwitterにてお知らせします!

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いり
異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

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