原作ネタバレ

「永遠なる君の嘘」韓国の原作小説ネタバレ感想 |外伝

永遠なる君の嘘(영원한 너의 거짓말)の韓国の原作小説4巻(外伝)のネタバレ感想です。

原作:jeonhoochi

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外伝1 もしもという慰め

※ローゼン13歳、イアン18歳の頃にリオリトンで二人が出会ったらというif話です。

ワルプルギスの祭りの日。売られていた飴玉を盗んだローゼンは、店主にバレて頬を殴られ、床に倒れてしまいます。

ローゼンは「盗んでない!」と主張したけど、店主はしっかり見ていたと話し、おまけに最近ここで盗みを働いたのが全部ローゼンだったという、そちらに関しては完全に濡れ衣の罪までかけられてしまいました。

店主が遠くにいる軍人を呼び、ローゼンを保護所に入れるつもりのようです。保護所は孤児院より更に酷いところだとローゼンは知っていたので、孤児院の先生を呼ぶべきなのか迷っていると、ローゼンの肩を誰かが掴みました。店主から引き離してローゼンを後ろに隠し、「私の妹です。分別がないので許してください」とその人は言いました。ローゼンが見上げると、それは若い軍人でした。

背が高く顔が見えなかったけど、士官学校の制服を着た男と、まともに洗って貰えていないローゼンではどうみても家族には見えません。しかし、信じない店主に対して男が飴玉ひとつ買うには大金すぎる銀貨を差し出すと、店主が文句を言うのを辞めました。

男は見物人の間をぬけて静かな場所までローゼンを引っ張り、しゃがみこんでローゼンの顔を綺麗なハンカチで拭いてくれました。ローゼンはその時になってようやく男の顔を見ることができました。真っ直ぐで、綺麗で、ハンサムな人だった。

男はローゼンの口の中に溜まった血を吐かせ、歯が折れていないか確認した後に、なぜ盗みを働いたのかを聞きます。

てっきりローゼンの無実を信じて助けてくれたのだと思っていたので、慌てて逃げようとするけれど、男にあっさり捕まってしまいます。保護所に行きたくなくて盗んでいないと嘘をつきますが、「他人のものを盗んではいけない」というありふれた言葉が帰ってきました。

「知っています。それを誰が知らないと?」

「知っているのにどうして盗んたんだ?」

「そうしないと食べられないから」

男はローゼンの両親のことを尋ねるけれど、ローゼンは嘘の家の方角と自分の名前を話しました。両親の名前も聞かれ、ローゼンが考えている間に男に年齢を聞かれて、ローゼンは可哀想に見えるよう13歳ではなく11歳と答えました。

しかし、ローゼンの姿を見て男はそれより更に年下だと思っていたようでした。両親とはぐれて迷子になったというローゼンの言葉を信じたのか、男と手を繋いでローゼンは存在しない両親を探すことになります。

男の歩幅についていけないと、男はすぐに気づいてローゼンを抱えあげてくれました。ローゼンが大人しくしていると頭をぎこちなく撫でてくれて、ローゼンは目頭が熱くなります。ローゼンは自分が誰かに抱いてもらったのはいつぶりなのか思い出せなかった。6歳くらいの子供たちはたまに孤児院の先生たちに抱かれることがあります。その相手に殴られるとしても、抱擁ほしさに子供たちはそれを取り合うこともありました。ローゼンもかつてはそうだったけど、10歳を過ぎると馬鹿馬鹿しいと笑いました。

しかし、こうして味方になってくれて、優しく抱き上げてもらうと、喉が詰まって涙が出そうでした。13歳は大人だと孤児院では言われます。売られて結婚させられる人もいたから。

「ねえ、13歳は大人ですか?」

「……大人になるには20歳にならなければならない」

「じゃあ13歳でも誰かに抱きしめられてもいいんですか?」

「そんなことは年齢とは何の関係もない」

中央広場にやって来ると男を先輩と呼ぶ二人の女に会い、食べ物を貰いました。ルーシーと呼ばれる女が渡したのはバッタの串焼きだったけど、飢えていたローゼンは構わず食べ、もう一人の女からパイをもらいました。

バッタの串焼きを渡したのはヴァイオレットでした。イアンがすぐに取り上げようとしたけれど、ローゼンはすでに食べてしまった後でした。

バッタの串焼き…ヴァイオレットは変わった食べ物が好きだったのかな…

「可愛いね。イアン・コナー、隠し子でもいたの?」

「冗談を言ってないで祭りの参加名簿を担当する公務員を探してきて、イレリア」

イレリアはイアンの腕からローゼンを受け取ると、ローゼンの顔の傷を気にして、両親に殴られているのか聞いてきました。殴るところには帰せないとイレリアが言うので、ローゼンは「それじゃあ私は保護所に行くんですか?」と聞きます。イレリアが「そうだろうね」と言うので、ローゼンはこの人が保護所に行ったことがないのだと理解しました。

「保護所でも殴られたら、私はどこに行けばいいんですか?もう行くところがないんだけど」

イレリアは答えることが出来ずに黙ってしまいます。イレリアは今のローゼンの発言から、ローゼンに両親がいるという嘘に気づいたかもしれないとローゼンは思いました。

「思いやりのない言葉を言ってごめんね。でもローゼン、あなたが大人になったら一人で立つことができるよ。その時は誰もあなたに触ることのできない力だって得られるかも」

「……戦争が起こったらその前に死ぬのに」

「私が必ずその時まで戦争が起きないようあなたを守るよ。私は軍人だから」

ローゼンが孤児院を出る時は老人に売られる時だけど、それはイレリアには言いませんでした。ローゼンのために約束をしてくれる人は初めてだったから。

イレリアはローゼンをイアンに再び渡し、せっかくのワルプルギスの夜なのにここで公務員に引き渡したら可哀想だからイアンに見物させてあげるように言います。

イアンは素直に納得してローゼンに「見たいものはあるか?」と聞きましたが、ローゼンはそれより温もりが欲しくて「持ち上げてくれたら良く見えるかも」と言いました。イアンに再び抱き上げられ、ローゼンは魔女にプレゼントを貰ったような気分でした。けれど祭りが終わればお別れになってしまうのが分かっています。ローゼンはそのことが耐えられず涙を流し、イアンの肩に顔を埋めました。

「殴られたところが痛いのか?治療を受けに行こうか?」

その優しい声に、ローゼンは思わず言葉を漏らしました。

「実は両親はいません。…嘘をつきました。私は孤児院に住んでいます。名前以外は全部嘘です。飴を盗んだのも事実で、それに実は幼くありません。13歳です」

「どうして嘘をついたんだ?」

その方が可哀想に見えて、助けてくれて、抱きしめてくれるから。保護所は孤児院より更に食べ物が食べられない場所だから行きたくなかった。ローゼンはそうやって全てを話しました。

「騙してごめんなさい」

見知らぬ他人から与えられる温もりに何の意味も無いことをローゼンは知っていました。たまにローゼンを抱きしめてくれる評議員や孤児院の先生たち。しかし、彼らは必ずその後捨てるから。捨てられるなら最初から期待してはいけないことをローゼンは理解していました。

そこへローゼンを呼ぶ孤児院の先生の声が聞こえてきます。もう行かないと、とローゼンが離れようとするけれど、イアンは孤児院の先生がやって来るまでずっと抱きしめてくれました。

孤児院の先生はイアンに謝罪し、このようなことは二度とさせないよう躾けると息巻いていたけれど、イアンはそうした先生の話は聞かず、ローゼンを地面を下ろし、涙をぽたぽた流すローゼンの目元を指で拭ってくれました。

「私は軍人だ。いつもリオリトンにいる」

「それで?」

「いつもお前を守っているという意味だ。お前が無事に大人になるまで」

それはイレリアと同じような約束でした。

「ずっとここにいるの?私を守ってくれますか?」

「守ってあげる。どこにも行かずに」

ローゼンはきっとこの約束は明日になったらもうイアンは忘れているだろうと思いました。それでもローゼンはイアンと指切りをして約束をしました。涙をとめて孤児院の先生の元に行こうとすると、イアンは「これはお前が盗んだのではなく私が買ったものだ」と言って、ローゼンの口の中に飴を入れてくれます。

ーー
この時、人生で初めて飴を食べたローゼンは「夜空の星と月が私の口の中に入ってきた」と表現しています。

「またね、ローゼン」

イアンは最後まで優しい嘘をついてくれました。ローゼンはそれが叶わない約束だと知りつつも、「またね」と言って手を振ります。嘘なのだから、何の意味もない。けれど、ローゼンはその約束が慰めになって、現実を見る勇気がもてました。

外伝2 撮影

イアンの執務室に入ってきたヘンリーは、新たに撮影することになり、既にカメラマンが待機していることを報告しました。眩しい照明の中、イアンは上手く笑うことが出来ずに演出家やカメラマンを苦労させましたが、何度撮影を行っても慣れることができませんでした。

数ヶ月前に撮影したばかりだけど、新しい写真が必要になったのだと説明したヘンリーは、自分の飛行機が壊れたので自分で修理する許可をイアンに求めます。

数ヶ月前にイアンもヘンリーと同じように自分で修理して直接エンジンを触って火傷を負ったのであまり気が進みませんでしたが、エンジニアが不足していたので自分たちで修理するしかありません。

「火傷に気をつけろ。お前まで……」

イレリアが戦死したばかりでした。16歳から飛行機に乗っていたヘンリーは、3年経過した今では階級章をつけて正式に編隊に加入していました。

ヘンリーは若すぎたので、編隊に入ることをイアンや周りの編隊員達は反対しましたが、ヘンリーと同世代の子供たちは既に軍服を来ていて、ヘンリーは更にその中でも優秀でした。年若い者たちが早くに軍に入り、そうして命を散らしていく。それは恐ろしくて、昼夜問わずイアンを苦しめました。

うんざりしながら席から立ち上がると、ヘンリーから赤いマフラーをつけるよう言われます。イアンは赤色のマフラーにもうんざりしていました。それを見ると、炎や血を思い出し、何気ないマフラーがまるで絞首台のロープのように見えてくるほど。

イアンは撮影に誰がついてくるのかヘンリーに聞きながら、自分で言葉をとめます。イアンが色々言われている様子が面白いのか、編隊員たちは傍らで眺めながら談笑することが多かった。しかし、そこにはもうイレリアはいません。

イレリアは1か月前に死んでしまいました。その死を乗り越えるためには1年、10年、どれくらいの時間が必要なのだろうかとイアンは考えました。そんなイアンに、ヘンリーが自分とルーシー、ヴァイオレットが撮影について行くと話します。そうしてルーシーやヴァイオレットも執務室に押しかけると賑やかになったけれど、それでも物足りなかった。イレリアの抜けた席は大きかった。

撮影現場に向かうジープはルーシーが運転しました。ルーシーは車輪の着いたものは何でも運転するのが好きで、得意でした。イアンとルーシーが同じ場所に不時着した時も、敵国タラスのジープを発見したルーシーが、駆動方式も違う敵国の車で険しい密林や絶壁、地雷原を抜けて自国の基地まで無事にたどり着けたほどの、高度な運転技術と知識を持っていました。

イアンはジープの中で会話するルーシーやヴァイオレットの話を聞き流しながら、ローゼンのことを考えます。先日、ペリーヌ女性刑務所から脱獄したローゼンは25年の追加刑を受けて今度はアルカペズ刑務所に収監されることになりました。逮捕時のローゼンは靴もなく、裸足のまま6時間に及ぶ山脈での追走劇を繰り広げたのだと新聞に載っていました。

もし、ローゼンの逃げた先にジープがあったのなら。もし、もっと丈夫な靴を履いていたら。そんなことを考えて、イアンはそんな感情を持つべきではないと自分に言い聞かせます。しかし、どれだけ目を背けようとしても、彼女の生きるその生々しい生き方がイアンは好きで、見守っていたかった。

イアンはローゼンの写真が入ったペンダントを持っています。何度も捨てようとしたけれど出来なくて、首から下げるのではなくポケットに入れるようになっていました。そうしてポケットを探って、しかしペンダントがなくて一気に動悸が早まりました。

そんなイアンの様子を見て、運転していたルーシーがペンダントを差し出します。誰かに見られる前に素早くしまい、ルーシーに「無くしても構わないものだった」と言い訳をしました。

後ろの席で騒いでいたヴァイオレットとヘンリーが眠ると、ルーシーは静かな声で「どうしてそんなに罪悪感を持つんですか?ちょっとくらい持ち歩いたっていいと思いますけど」とイアンに問いかけます。

殺人者だから、とイアンは答えるけれど、ルーシーはパイロットなら頼りになるものがあれば何でも頼るべきだと言いました。ただしヘンリーはローゼンの事が嫌いなのでバレないようにとルーシーは念を押しました。

ジンクスを当てにするパイロットは大勢いて、ルーシーも出撃前は必ず赤い靴下を履き、サメの歯のネックレスをつけていました。

撮影を担当するカメラマンは新しく来た人で、将軍たちがスカウトしたジュリーという女性でした。皇族の写真も撮影したことのあるジュリーはとても独創的で、「魂のこもった写真」が必要なのだと言われますが、イアンの表情では表現できず、結局午前中に撮影した写真は1枚も採用になりませんでした。

イアンは顔は整っているけど、表情が乏しいので彫刻のようだとジュリーは話します。人は彫刻を頼ることはなく、人を頼るので、イアンの中で最も複雑な感情を抱かせる相手を、もし飛行機に乗せたらどうするのか考えて見てほしいと言いました。

イアンは思わずポケットのペンダントを触り、ローゼンを思い出します。イアンの変化に気づいたジュリーが撮影を再会しようと話しながら、象徴として立たせるイアンに謝罪をしました。けれども人々には象徴が必要なことはイアンもわかっていました。薄っぺらいビラがいかに人々に勇気を与えるのかを、イアンは理解していました。

イレリアが戦死する前日、酒宴で酔ったイレリアが「可哀想な司令官、可哀想な私の同期」と言っていたのを思い出しました。

イレリアが珍しく酔っていたので、イアンはグラスを奪おうとしたけど、意地を張ってイレリアは渡しません。そうして酔いながら、自分が死んだら家族が元気に暮らしているか確認して欲しいと言ったイレリアは、思い返してみればその時すでに予感していたのかもしれないとイアンは思いました。

イレリアは「死ぬより生きる方が難しいかもしれない」と言いました。イアンは人々が頼るべき勝利の象徴で、必ず生き残り、崩れてしまってはいけないから、だから可哀想なのだとイレリアは言いました。

「それを負担に思わないためには、一人のことを考えて。群衆じゃなくて、あなたに意味のあるたった一人。その人もあなたが必要だろうし、きっとあなたを見ているから。ビラはどこにでもあるから逆にあなたを見ない方が難しいし…貧民街にも、監獄にもね」

イレリアは監獄という言葉を強調してイアンをからかいます。それが、イレリアの最後の姿でした。

イアンは考えから目を覚まし、ローゼンを飛行機に乗せるところを想像します。いつも世の中を嘲笑うような少しひねくれている表情をしたローゼンが色彩を持ち、イアンに向かって首を傾げている、そんな姿が浮かびました。

「今の表情いいですね、撮ります」

ローゼンが逃げるのにジープでなくて、飛行機だったら。それならもっと逃げられたはずだし、足を怪我することもなく、その怪我をイアンが気にすることも無かったはず。イアンはローゼンを乗せて、自分の飛行機が飛び立つ姿を想像しました。不思議とそれまでしていた頭痛が軽くなり、自然に口角が上がります。

撮ります、というジュリーの声が響きました。

そうしてずっとペンダントは持っていたけど、結局終戦時になくしてしまい、海の底に沈んでしまいました。けれど戦争も終わったので手放すには丁度良かったと思い、イアンは仕事を一通り終えて休暇に入りました。

永遠に続く考えを断ち切るために睡眠草を焚いて、その香りの中でぼんやりと過ごし、それでも足りない時は睡眠薬を飲みました。そうして自分が頼りにしていたペンダントのことを思い出し、まだ手放せないことを自覚しました。

部屋に閉じこもり、必要な時だけ人々の前に出て大丈夫なふりをして、それ以外は使用人とも関わらずに過ごす日々。そうやって過ごして、声を出すことすら忘れた頃、新しく入った新聞を見ると、ローゼンの2度目の脱獄が掲載されていました。疲弊することも壊れることもなく、相変わらず世の中を嘲笑うかのような彼女の姿に、イアンは長い間閉まっていた窓の扉を開けます。

何かが変わることはありませんでした。けれど、イアンには新しいペンダントができました。誰も気づかないようにポケットに入れておき、眺められる何か。

そうしてイアンは部屋を出て、執事に帝国内で発行されるあらゆる新聞の購買を命じ、本屋に向かうため、久しぶりの外出をしました。

外伝3 仕方ない

ヘンリーはプリムローズ島を訪れることに慣れた頃、イアンがおかしくなってしまったことを確信しました。それまで、ヘンリーは士官学校でも、空軍での戦争中でも、終戦からこれまでも、ずっとイアンのそばにいてイアンを見てきました。

その皮の下には血や臓器があるのではなく、性能の良い機械が備わっているのではないかと思うほど、イアンは合理的な考えを持っていて、涙を見せず、倒れることの無い岩や木のような人だとヘンリーは思っていました。

そんなイアンがおかしくなってしまった。ヘンリーはローゼンと家の外にあるテーブルに向かい合って座りながら、ローゼンにイアンのどこが好きなのか尋ねます。

ローゼンは、「ハンサムでしょ?かっこいい。声もいい。背も高い」と並べたて、外見ばかりをあげるのでヘンリーが不満を言うと、「他にもあるけどあんたには言わない」と言われてしまいました。

ローゼンがイアンのどこが好きなのかはこれ以上追求せず、イアンはローゼンのどこが好きなのかを考えることにします。

ローゼンの食事は毎食イアンが用意していますが、それだけではなくイアンは一日中サンドイッチやマフィンをローゼンに食べさせようとしているので、ローゼンは最初に見た痩せていた時より元気そうに見えました。

ローゼンを見て、ヘンリーは自分だったらローゼンを追いかけていたかもしれないけど、それがイアンに当てはまるとは思えませんでした。ぼんやりローゼンを眺めて、慌てて我に返ります。イアンにバレたら大変だから。

ヘンリーはプリムローズ島に訪れると必ず船着き場の店に訪れてガムと飴を買っています。ライラから「タバコの匂いがするから近寄らないで」と言われてしまい、ヘンリーはタバコをやめるためにガムや飴で口を誤魔化すようになっていました。

そこで親しくなった店主のエリックは、ローゼンとイアンが結婚しているかを気にしていて、ローゼンを見かけるとへらへら笑いながら見つめていました。しかしローゼンは全く気づいていなかったので、ヘンリーはエリックの恋心を気づかなかった事にしました。

しかし、その次にプリムローズ島に来てエリックの店に立ち寄ると、エリックの様子が変でした。話をしようとしても避けられるのでローゼンに店の話を聞くと、店で売る品物の品質が悪いからもう行かないと言いました。

そこでヘンリーはイアンの顔が浮かび、直接イアンに「エリックを知っていますか?」と聞き、店に行ったことがあるかを尋ねました。

「一度行ったことがある」
「行って何を買ったんですか?」

イアンは答えませんでした。イアンが返答を拒否したことで、ヘンリーはエリックの態度がイアンによるものだと理解しました。イアンはローゼンに余計なことを言わないようヘンリーに釘を指します。そのイアンの表情は落ち着いていて、威厳がありました。こんな出撃前の作戦を説明するような顔で、エリックの元に行ったのだろうとヘンリーは察して苦笑いをしました。

そこへ、ローゼンが家に帰ってきて玄関から入ってきます。ローゼンが靴を脱ぐなりイアンが椅子から立ち上がってローゼンを抱き上げました。ヘンリーがいる前だったからか、ローゼンは自分で歩けると抗議しました。

「あいつは気にしなくていい。お前の足の方が重要だから」

そのままイアンはヘンリーを無視して二階に行ってしまいました。イアンとエリックの間でどのような会話があったかはわからないけれど、ヘンリーはイアンがどれほど幼稚なことをしたのか知りたくなかったので、それ以上探ることをやめました。

そしてヘンリーが体験した中で最悪だったのは数日前に発生したことです。訪問の日時を事前に知らせてあったけど、家を訪れて声をかけてもイアンもローゼンの返事がなく、玄関の鍵があいていました。泥棒でも入ったのかと思ってそのまま中に入り、キッチンに進むと、そのカーペットでイアンとローゼンが抱き合って寝ているのを見てしまったのです。

幸いにもイアンはズボンを履いていたけれど、ローゼンが服を着ていたかどうかまではもう覚えていません。しかし、ヘンリーがその場を逃げる前に、起きたイアンによって台所を乱暴に引きずり出されてしまいました。

毛布でローゼンを包み、そのまま二階に運んでからイアンは服を着てヘンリーの元にやってきました。イアンはローゼンは寝たばかりだから起こしたくないと言い、ヘンリーには「教官になったのに休暇をそんなに取るのか?」と言って、遠回しにヘンリーの訪問を嫌がりました。イアンは恋人と寝ていた時間を邪魔されたことに怒っていたのです。

でもイライラすることは、心に留めないということなので良い事でした。そうヘンリーがエミリーに話すと、エミリーは花壇に水やりをしながら笑いました。

エミリーはとても良い人で、ヘンリーはローゼンが夫を殺した理由をよく理解できるようになりました。ローゼンのようにヘンリーをからかったりしないので、エミリーとは楽しく会話ができました。

しかし、エミリーの濃い緑色の瞳に見つめられると、魔女だという不思議な存在が少し怖くなる時もあります。

エミリーはヘンリーに「まだ飛行機は好き?」と聞きました。魔女のように自由に空を飛んでみたくて飛行機に乗ったけど、パイロットは自由ではなかった、とヘンリーは話しました。イアンがローゼンを好きになった理由はわからないけど、ローゼンを解放したかった気持ちは自分もわかる、とヘンリーは船の最後の時を思い出して付け加えると、エミリーはにっこり笑って「ローゼンを手伝ってくれてありがとう」と言いました。

「あなたはまた空を飛ぶようになるよ。今度は平和な空の下で」

エミリーのその意味深な言葉を追求しようとしたけれど、立ち去るエミリーの後を追いかけると水鉄砲を持ったローゼンに水をかけられました。反撃するためのバケツやホースを探そうとすると、威圧感を出すイアンに気がつきました。

「コナー卿!あいつが先に始めたことです」

「私がローゼンに水をかけるなと言ったことを聞いていなかったのか?風邪をひく」

ローゼンは水鉄砲だけではなく、銃の腕前がとても上手でした。森にあるプリムローズ射撃場に行った時にヘンリーがローゼンに撃たせてみたところ、その腕前がとても上手なことに気がつき、イアンはローゼンのことを「お前が軍隊にいたら狙撃部隊で活躍しただろう」と褒めたほどでした。

ローゼンはヘンリーをピクニックへ誘い、先に歩くエミリーの腕を掴んで歩き始めます。イアンはその後ろをゆっくり歩きながら、歩く速度が早いヘンリーを捕まえて「他人を配慮することを覚えろ」と小言を言いました。

「自分がウォーカーの後ろ姿を見ながら歩きたいだけでしょう」

「………」

イアンは返事をしなかったけれど、沈黙は肯定です。

浜辺に着くとローゼンは靴を脱いで砂浜を走り、イアンが飼っている大きな黒い犬がその後ろを追いかけました。犬の名前はブラックと言って、ローゼンが「シンプルで可愛い」と言って名付けたものでした。イアンは犬好きで、幼い頃に家でも犬を飼っていたそうですが、ヘンリーは一緒に過ごしてきたのに、そのことを今まで全く知りませんでした。

エミリーは遠くまで犬と走って行ってしまったローゼンを連れてくるようヘンリーに頼みました。ヘンリーは砂にまみれているローゼンを助け起こし、犬と一緒にローゼンと戻りながら、遠くにいるイアンとエミリーの姿を眺めます。この二人を救ったのはローゼンでした。

「お前はコナー卿と結婚はしないのか?」

しかし、ヘンリーは聞いておきながらそれは出来ない事かもしれないと思いました。偽装身分でも買わない限り、ローゼンが自分の足で官庁に行くことは出来ません。しかし、ローゼンの答えは違っていました。

「できてもしない。ローゼン・コナーになりたくない」

「どうして?」

「私はローゼン・ウォーカーだから」

ローゼンの名前は公式にはローゼン・ハワーズですが、帝国民やヘンリー、全ての人がローゼン・ウォーカーと呼びました。新聞や公文書でいくらハワーズと書かれていても、ウォーカーの方がローゼンには似合っていたから。もしかしたらローゼンが「私の名前はローゼン・ウォーカーだ!」と叫んでいたせいかもしれません。

「あんた、私の名前がどれだけ凄いか知ってる?」

「ご両親がつけてくれたの?」

「いいえ、孤児院の院長が適当につけた。でも、私はすごく気に入ったの。意味がいいでしょ、わかる?」

「ウォーカー、歩く人という意味?」

ヘンリーは反射的に答えて、そして理解しました。8年間、ローゼンは厳しい世の中を乗り越え、歩き続けてきたから。

「あんたは長い戦争の間国を守って、私はこの名前を8年間守った。公的な名前が違ってもみんな呼ぶでしょ。なら守れたと私は思うの。いくらハワーズと書いても、私はこれからもずっとローゼン・ウォーカーだから」

ヘンリーはアルカペズの魔女と呼ばれ、ローゼンが一部の人々に人気だった理由がわかるような気がしました。

ローゼンがこれまで自分のことを「ウォーカー」と主張しているシーンはたくさんありましたが、それは単に「ヒンドリーの妻ではない」という主張をしたかったのかなと思っていましたが、自分の「歩き続ける」という信念を守りたかったようですね。

4人が食事を終えると、ブラックはローゼンの顔を舐め、イアンのズボンの裾を噛みました。噛み癖がついてはいけないと、ブラックをしつけようとするイアンに、ローゼンは「ブラックは遊ぼうって言っただけ」と抗議して、イアンの靴の片方を砂浜に投げてブラックを走らせ、残ったもう片方の靴を手に持ってローゼンは砂浜を駆けます。

靴を奪われたイアンが困惑しつつもローゼンたちを追いかけ始め、エミリーは腹を抱えて笑い、ヘンリーは本当に自分の上官と同一人物なのかと思いながら眺めました。

ヘンリーは二人の間に割り込んでやろうかと考えますが、そこには夕暮れを背景に砂浜を駆け回り、笑い合う二人がいました。美しくて、触れることのできない一枚の絵のように、お似合いだった。

ヘンリーはようやく二人は似ていて、遠回りをしても結局運命のように惹かれあって恋に落ちるのだろうと理解しました。長い間空をさ迷っていたイアンが見つけた着立地がこのように美しいところで良かったとヘンリーは思いました。

外伝4 花言葉は魔法

窓の隙間から入った涼しい夜明けの風に鼻先をくすぐられ、ローゼンは目を覚まします。今何時なのかと体を起こそうとすると、硬い腕がローゼンの腰に巻き付き「どこに行くんだ」と声をかけられました。

「起きてたの?」

「……いや」

「嘘。また深く眠れてないんでしょ?ね?」

嘘をつくイアンの頬をつねると、イアンは笑ってローゼンを布団でぐるぐると巻き付け、自分は服をきちんと着たあとでローゼンの耳元に「もっと寝て」と囁きました。

ローゼンがそうして眠ると、その間にイアンは服を持ってきて、朝食を用意するのでしょう。最初の頃はまるでお姫様みたいで良かったけれど、段々とローゼンは自分が情けなく思えてきていました。そして、ローゼンをまるで壊れ物のようにイアンが扱うことが不満でした。

ローゼンはイアンをベッドに引きずり込んで押し倒します。イアンは「服を着て」と言って、床に落ちているローゼンの下着を拾うけれど、ローゼンはそれを奪って遠くに投げました。服を着たままのイアンに「肌が擦れて痛い」と文句を言うと、「服を着たら」とイアンに返されます。

「二つのうち一つを選ばないと。コナー卿が服を脱ぐか、私が服を着るか」

ローゼンはイアンの首にぶらさがって頬に口付けを落とし、耳を引っ張って問い詰めます。

「どっちがいい?ん?」

「頼むから私にそんなことをするな……」

イアンが唸り声をあげますが、イアンの息遣いが荒れてきたのでローゼンは半分くらい自分が勝ったことを確信しました。

「私はどっちがいいか聞いたんだけど?正直に答えて」

「疲れているだろう」

「だから私たち、ぐっすり寝ましょう?一緒に怠け者になろうよ」

「腰も痛いだろうし」

「それと眠るのに何の関係があるの?」

「……私はこの状態では二度と眠れない」

「どうして?」

「理由が本当にわからないのか?」

「うん、わからない」

結局イアンはため息をついて「私の負けだ」と言って服を脱ぎました。そうしてローゼンは降り注ぐ口付けを受けます。いつもは壊れ物のようにローゼンを扱うけれど、この瞬間だけはせっかちになるイアンが、ローゼンは好きでした。

しかし、そこでローゼンは重要なことを思い出しました。海流や天候によって左右されるけど、ヘンリーが今日か明日あたりに来る予定だった。そのためにイアンは早起きして買い出しにでも行くつもりだったけど、もうイアンはヘンリーの事は頭の中から追い出してしまった後でした。ローゼンが「食べ物がない」と言っても「あいつは少し飢えても死なない」と言い、さらに「鍵は閉めてあるから勝手に外で遊んでいるだろう」と言いました。

日に日にヘンリーへの扱いが雑になっていくイアンの態度にローゼンは笑いを爆発させ、イアンは自分を留めていたローゼンの手を掴みます。

「もう気になることは全部解けたか?」

「うん、もう寝よう」

話が終わった途端、イアンとローゼンの唇が重なりました。

以前キッチンでのことがあった後、扉を閉めている時に人がやってくるとブラックが吠えて追い払うようイアンがしつけていました。

朝食を食べたあと、何もすることがなかったローゼンはイアンの膝を枕にしながら新聞を読みました。ローゼンは今では文章をよく読むようになっていました。

古い新聞を見ては自分の映りの良い写真を選ぶと、イアンは笑ってそれを切り取って額縁に入れたりします。しかし、切り抜きを貼ったスクラップブックも持っているのに、古い新聞まで取り揃えているイアンに「どうして新聞がまだあるの?」と聞くと、イアンは「原本も必要だから」と平然と答えました。

ローゼンがイアンの士官学校時代の話を聞いていると、イアンは「射撃も上手いし負けず嫌いだからお前も士官学校に通っていたら良かったのに」と話します。

「そうだったらあんたの編隊員だったかもしれないね」

「いや、私心が混ざったはずだから私の下には置かない。言っただろう。平凡にお前と会ったら…」

「付きまとうって?」

照れたのかイアンは新聞を広げました。よくイアンは新聞を広げているけど、そうしていると顔を隠して表情を誤魔化せるからだとローゼンはやっと理解しました。

新聞の中にはまるで小説かのような作り話まであり、ローゼンがそれを話すと、その記者が「ローゼン・ウォーカーの脱獄記」の作者だとイアンが教えました。しかし、記者の名前がパトリシアで、作者の名前はアンドリューだったので別人のはずですが、イアンはそれを「男の名前で出すと有利だったから」と話しました。

「……ところでどうしてペンネームだって知ってるの?」

イアンの脇腹をつつきながらローゼンが尋ねると、イアンは「ローゼン・ウォーカーの脱獄記」は当時、実費で出版しなくてはいけなくて、後援者が必要になり、自分がその後援者だったことを教えます。

「あんたはビジネスマンの息子ね。投資先の選択が上手だよ。大ヒットしたでしょ?投資金は回収して稼げたの?」

「お金?」

「お金もらってないの?」

「もらったような気もするし……もらったなら銀行に入っているだろう」

イアンの祖父は蒸気機関に投資して莫大な富を築き、その遺産をイアンが受け継ぎましたが、ずっと軍にいたので経済観念がありません。

イアンが死んだ後はローゼンに行くよう手配がされており、すでにローゼンに「私が死んだらお前に行くようになっている。別の名前で受け取る必要があるがお前のものだ」と伝えています。

ローゼン・ウォーカーの脱獄記という小説を女性が書いていることをローゼンは知らなかったし、自分が主人公の物語を女性が書いてくれたことが嬉しかった。小説の中のローゼンは誰にも捕まえられず永遠の脱獄囚になっていました。

本の先頭には著者がこの本を捧げたい人の名前が書かれているのが多くありますが、この小説には「私の人生を変えたある脱獄囚へ。印税の一部は行き場のない女の子のために使われています」と書かれていました。

ローゼン自身もこの「ローゼン・ウォーカーの脱獄記」は読んで面白いと感じるほどだったので、やはり大ヒットするからには理由があったようですね。イアンはこの本の初版とサイン付き限定版を保有しています。

エミリーは最近では家で寝泊まりするのではなく、わざわざ宿を取るようになっていました。ローゼンが家で寝泊まりすればいいと勧めても、食事や寝支度までしてくれる宿が楽だと言い張ります。

そんなエミリーがワルプルギス島に帰るのを見送って家に戻ると、イアンが軍服を来て庭で水やりをしていました。以前は軍服を着るのが好きではなかったようなのに、最近は軍服を着る回数が増えていて、ローゼンは不思議に思いました。

しかし、ローゼンはイアンの軍服姿が一番好きで、ずっと眺めたいほどだったので、そのままイアンに抱きつきます。イアンは難なく受け止めてローゼンを抱き上げました。

軍服を来ているのでどこかに出かけるのか尋ねますが、イアンは「いや」と答えました。「じゃあどうしてこれを着ているの?」と聞いても、イアンはかすかな笑みを浮かべるだけで答えません。

「とにかくよく似合ってる。本当に、すごく」

二人は家に入り、キッチンに行くイアンに話しかけながらローゼンはその後を追いかけました。宣伝用の声で「守ります」という台詞が聞きたかったけれど、イアンにとってはそれは負担になるかもしれないので言うのを我慢し、そのかわり後ろからイアンの腰を抱きしめて顔を擦り付けました。

「ローゼン」

「ちょっと待って、こうしていよう。いいでしょ」

「正面は見ないのか?」

「うん?」

イアンは振り返ってローゼンを抱きしめるので、ローゼンはイアンの首に腕を回して頬と顔に口付けます。すると、イアンがローゼンを見つめながら「ブラックにするようなのではなくて…他のを」と言うので、ローゼンはイアンの言いたいことを理解して「昨夜と朝も…」と言いつつも、イアンのそのお願いを聞くことにした。

私はイアンの唇にそっと唇を重ねた。息が切れて顔が赤くなる頃、私はベッドに横たわっていた。私の服はもう半分脱げていた。

私は枕にもたれかかって、それまでまともな格好をしていたイアンの上着のボタンを一つずつ外し始めた。焦点がぼやけた目と荒れた息を見れば、彼も身なりだけまともで、正気ではないようだった。

ローゼンはイアンの服をぬがせ、その肩にある大きな傷が気になりました。イアンはそれを「飛行機の修理中に馬鹿なミスをして怪我をした」と教えてくれます。

心配するローゼンに対して、「痛くない」とイアンが言うので、ローゼンはイアンの腰を抱きしめながら「本当に痛くなかった?」と聞きました。

「痛いって言ったらチューしようと思ったのに」
「………」
「痛かったでしょ?」
固まっていた彼がすぐに頷いた。私はにやにや笑って約束を守った。

夕方にはイアンと手を繋いで浜辺を散歩しました。ローゼンは雰囲気作りが得意では無かったので、そのまま用意していたプレゼントを渡します。小箱の中に入っているのは青い宝石が飾られた銀色の指輪でした。

「実は宝石じゃなくて魔獣が流した涙が固まるとこうなるの。それでもあの子たちは滅多に泣かないから貴重で、持っていると幸運が訪れるんだって。幸運のコインのようなものだと思って受け取って」

しかし、イアンは指輪を見つめたままだったので、ローゼンは気に入らなかったのかと心配になりました。

「どうしたの?イマイチだった?」

「いや、ありがたいが……」

「どうして?嫌なの?まさか私がいない間に独身のふりでもするの?」

「ローゼン」

イアンが言葉を遮るが、ローゼンも真剣に言ったわけではなかった。けれど、万が一ということがあるとも思っていました。

イアンは島では自分たちの関係を知らない人間はいないと説明しますが、イアンの顔がハンサムすぎるのが問題だし、イアンは外で口付けをしないので知らない人もいるかもしれないとローゼンが主張します。

けれど二人の仲を知らない人は絶対にいないとイアンは断言しました。ローゼンはその根拠がどこから来ているのか分からなかったが、頷いてから「つけてね」と念を押しました。

ローゼンは夕暮れの海が一番好きだった。昔から夕方が好きだったけど、今は昔より好きだったので、「どうしてかわかる?」とイアンに聞くと、イアンは「夕焼けが綺麗だから?」と答えました。

「明日が楽しみなの。日が暮れるのを見ると、あー今日は一日幸せだったって考えて、もうワクワクするの・明日はどんな幸せな日なのかなって。早く明日になったらいいなって。あんたはどんな時間が好き?」

「毎瞬間。すべての時間。全部」

イアンはそう話しながら、ローゼンの頬に触れて、熱があることを指摘します。エミリーを船着場で見送った時も、エミリーから風邪をひいたのではないかと心配されていたのをローゼンは思い出しました。

イアンはローゼンを抱き上げて家まで運び、ベッドに寝かせました。うつるから向こうに行ってと言ってもイアンは聞きませんでした。

「私は風邪をひいたことがない」

「嘘をつかないで」

「本当だ。怪我をしたことはあっても病気になったことはない」

「今回初めて風邪をひくかも。私のせいで。あんたは私のせいで人生で初めてをたくさん経験してるんだから、そこに風邪まで追加することないでしょ」

「どうせいつか一度かかるならお前のせいでかかった方がいい」

「本当にどうかしてるの?」

イアンはローゼンの額にのせたおしぼりを変えたあと、ベッドに入ってきてローゼンを抱きしめました。ローゼンは押しのけようとしますが、イアンもローゼンと同じくらい頑固でした。イアンは「お前が痛いと私は心が痛い」と言い、船でローゼンが熱を出した時も同じように痛かったと話しました。

「私は長い間お前を頼ってきた。それで、お前まで消えると思ったから…お前がいない世界が想像できなかった」

ローゼンは自分もイアン・コナーは消えることのない人だと思っていたので、イアンが存在しない世界は想像できませんでした。

「だから体調を崩さないで、ローゼン」

ローゼンは頷き、イアンの腕枕の上で目を閉じます。うとうとする中で、イアンの声が聞こえました。イアンは、自分がそばにいる時はいつも幸せであって欲しいと言いました。イアンはローゼンにとっての休憩所であり、帰れる場所でありたいと思いました。そしてローゼンもイアンと同じように自分が平穏な安息の地であることを願いました。

翌朝目を覚ますとすっかり頭痛がひいていました。イアンは隣でまだ眠っていて、中々見られないその珍しい姿を堪能し、イアンに熱がないのを確認して部屋を出て台所に向かいます。

しかし、すでにテーブルにはまだ温もりが残っているスクランブルエッグやパンケーキ、サンドイッチが並べられていました。久しぶりに朝食を作るつもりだったローゼンはイアンの完璧さに腹を立てつつ椅子に座ります。

そこで、ローゼンは自分の指の四本目に指輪がはまっていることち気がつきました。昨日ローゼンがイアンにあげた幸運の指輪が自分の指に付いているのは不思議に思わなかったけれど、さらにもう一つ、白金のリングにまるで星のように輝く黄色い宝石が着いた指輪がはまっていました。

指輪を日光に当てて眺めていると、背後からイアンに抱きしめられました。イアンはプリムローズ諸島で採れる宝石だと説明します。

「本当に綺麗!これをあげようとしたのに、あの時私が先手を打ったから慌てたの?」

「……私がお前の実力を見誤っていただけだ」

ローゼンがプレゼントした指輪は捨ててもいいよとイアンに話しますが、イアンは「二つともつければいい」と言いました。イアンの指にも同じように二つの指輪がはまっていました。

黄色の宝石は夜空の意味もあり、花言葉のように魔法という言葉を持つとイアンが教えます。

戦争の英雄と脱獄囚が出会い、この平和な島で向かい合って笑っているのは確かに非常に珍しく幻想的なことだから。だから今まで私たちに起きたこのすべてのこともやはりそう呼んでもよさそうだった。夜空の星のように美しい、本当に魔法のような愛だと。

外伝を読んだ感想

全体を通した感想

終わってしまったーーーーーーー!!!!

この話を読むのは2回目なのですが、先の展開がわかっていてもハラハラしたし、ドキドキしました。最初は硬い雰囲気が漂うので入りにくいのですが、最後は特大ハッピーエンドが待っているので!というか外伝あってこその本編ですよね。まさに砂を吐く甘さ。最高でした。

最後に

途中、コロナにかかってしまったので更新をお休みになるかも!という危機が訪れましたが、無事に更新を続けることができました。

最後までお付き合いありがとうございました!感想などのコメントは、記事のコメント欄もしくはTwitterなどで頂けると、今後の更新の活力となります!

来週はまとめ記事を出しながら、次に更新する予定の「悪女が手懐けた獣」の更新の準備を進めます。詳しい更新開始の日程はtwitterにてお知らせします。

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いり
異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

POSTED COMMENT

  1. ぬぬ より:

    いりさん、完走おめでとうございます〜✨

    めちゃくちゃハラハラして読み進めてましたが、最後の甘々が半端ないです(T ^ T)

    もうずっとこの2人を見ていたい……心からそう思える作品です。
    ありがとうございました!
    次回も楽しみにしています♪

    • いり より:

      ぬぬさんコメントありがとうございます!
      わかります…!最後の甘々がたまらないですよね…
      最後までお付き合いありがとうございました!

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