原作ネタバレ

「永遠なる君の嘘」韓国の原作小説ネタバレ感想 |3巻・中編

永遠なる君の嘘(영원한 너의 거짓말)の韓国の原作小説3巻(中編)のネタバレ感想です。今回で本編は完結となります。

原作:jeonhoochi

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12章 告白 後半

エミリーの仕事を手伝っていたローゼンは、エミリーの下で色々なことを学び、薬草の選別を担当していました。見目が似ているが、薬草に使われるマエリアの葉と、毒草であるリリアの葉も見分けられるようになっていたのです。

エミリーを閉じ込められた翌日の夜、競馬から帰っきたヒンドリーにローゼンはスープを出しました。いつもはすぐに台所に引っ込むけれど、その日は向かいに座り、肘をついてヒンドリーを眺めます。

「ヒンドリー、こんなことを考えたことはないですか?」

「どんな考え?」

「人は簡単に死ぬということ」

ローゼンが物騒な話を出しても、ヒンドリーはローゼンが自分を殺せないと思っていました。

「面白いことを言ってるな。お前は私を殺せないだろう。それとも、お前もあの年増のように魔法使って私を殺すのか?」

「そうです。エミリーは魔女で、私は魔女じゃありません。だけどそれが理由でエミリーではなく私を選んだのなら、ヒンドリーは間違っていますね」

ヒンドリーは小柄で見た目の良いローゼンを選んだのだろうけど、孤児院の生活記録まで目を通していたなら、ローゼンのことを「良い子」だと思わないはずでした。そこまで確認していなかったヒンドリーが間違っていました。

確かに、私さえこの家に来てからは長い間忘れていた。
私は良い子じゃなかった。一度もそうしたことはなかった。
私はもらったものは必ず返す子供だった。
「ヒンドリー・ハワーズ、あなたは奥さんを選び間違えました」

ヒンドリーは白い顔で慌てて喉に指を入れて吐き出そうとしたけれど、もう手遅れでした。ヒンドリーはもう四肢を動かすことしかできない。マエリアに似たリリアの葉は筋肉を麻痺させ、内臓には燃えるような苦痛が広がっているはずです。ヒンドリーが椅子から床に転がり落ちました。

ローゼンはヒンドリーを早く死なせるつもりはなかった。簡単な死はヒンドリーにとってあまりにも贅沢なように思えたから。それでこそ公平だとローゼンは思いました。

「私に魔法なんていらないよ、ヒンドリー」

ローゼンはテーブルの下から包丁を取り出します。それまでローゼンとエミリーを苦しめていた凶悪な暴君が、とても小さな存在に思えました。こんな簡単なことなのに、どうしてこれまで考えなかったのか不思議だとローゼンは思いました。

ヒンドリーはローゼンの足元で助けを求めるけれど、ローゼンはエミリーのように優しくはありませんでした。

「こうなりたくなかったら私を先に殺すべきだった。私が殺せないと思ったの?あなたは毎日私たちを殺すと叫ぶじゃない」

「私を……殺せば……」

ヒンドリーは「助けて」と命乞いしながらも最後までローゼンを脅そうと呟いていました。しかしローゼンには明確な殺意があって、ヒンドリーを殺せるなら自分は更に酷い地獄に落ちても構わないとさえ思っていました。そうしてローゼンはヒンドリーを殺しました。

監獄に入り、魔女だと言われて火刑になるかもしれないと思ったけれど、それでもヒンドリーは殺すべきだった。結局、ローゼンたちかヒンドリーか、どちらかが死ぬまでこの戦争は終わりません。

兵士たちが人を殺すことについて「人間であることを諦めることがどれだけ恐ろしいことか」と話していたけれど、ローゼンは全くそんな考えは浮かびませんでした。罪悪感も恐怖もなく、血を被ったまま大声で笑いました。

もう息をしないヒンドリーは、ただの肉の塊に過ぎない。どうして自分はこれまであれほどヒンドリーを恐れていたのか。結局はこの程度だったのに、とローゼンは思いました。

ヒンドリーによって命をずっとおびやかされていた状況だったので、この結果はいつかは起きてしまうことでしたね。ローゼンの言う通り、ローゼンたちか、ヒンドリーか、どちらかが死ぬまで続いたでしょうから……。

ローゼンはヒンドリーのベルトから倉庫の鍵を取り出し、エミリーが驚かないよう血を拭いたあと、食料や衣類や地図、お金とエミリーの傷の薬草をかばんに入れ、倉庫に向かいます。

「エミリー、起きてください」

「……ローゼン?一体何が…」

エミリーはまだ熱はあったけど体を起こすのが難しいほどでは無さそうでした。血は拭いたけれど、全身にかかった血の匂いまでは消せなくて、エミリーは酷く驚きました。ローゼンはヒンドリーを殺したことを報告し、エミリーには逃げるよう言いました。

「よく聞いてください。夜明け前に汽車に乗って。検問が一番緩い時間帯だから何事もなく乗れると思います。今度は誰も追いかけてきません」

「私に一人で行けって?ローゼン、とんでもないこもを言わないで。死体はどこにあるの?私たちで片付けて…」

「借金取りが毎朝来るのにどうやって隠すの」

「魔法でも使って!」

エミリーがネックレスをぎゅっと握ると鉱物が緑色に光り、すぐに茶色に変化しました。瞬間的に力を抑えられたエミリーはぐったりと倒れてしまいます。

「この体で何をするって?力を無駄にしないで。ワルプルギス島に行ってください。魔女なら辿り着けるから、そこでこのネックレスも外して…。私のことは心配しないでください。エミリーが出たもう少し後に逃げます」

ローゼンはとにかくエミリーをできるだけ遠くに逃げさせたかった

「私と一緒にいるとエミリーまで巻き込まれます。魔女だとバレたら2人とも銃殺され流けど、私だけなら裁判が開かれます。エミリー、私まで殺すんですか?それとも何とか生きてまた会いますか?」

エミリーは馬鹿ではないので二人一緒に逃げても無事でいられるというのが現実的では無いことを理解していました。エミリーはネックレスを引っ張って泣きました。

「全部私のせいだよ。私がもっと早くこれを解く方法を見つけていたら、怖がらなかったら…まともな魔女だったら私たちは逃げることができたはずなのに。あなたはいつも私を守ってくれたのに…これが私を守ると思っていたけど、守ってくれたのはあなただった」

エミリーはいつもネックレスが壊れることを恐れてハンカチを巻いていました。そんなエミリーがネックレスを解きたいと言ってくれたことがローゼンは嬉しかった。

「私は死にません。絶対に死にません。約束するよ、エミリー。人が来る前に行って。追いかけます。私たちはいつか必ずまた会える」

エミリーは決心をして泣きやみ、足を踏み出し、ローゼンを抱きしめました。

「あなたは永遠に私の姉妹。だから必ず迎えに来るよ。今回は本当の魔女になって、私たち二人が永遠に幸せに暮らせるところに行こう。覚えていて、ローゼン。ひとりの血、ひとつの願い、一度の魔法」

そうしてエミリーは暗い夜の中を逃げていきました。ローゼンはエミリーに自分も逃げると言ったけれど、それはローゼンの嘘でした。逃げることはせず、ヒンドリーの死体の前に蹲って朝を待ちました。そうして人々がヒンドリーの死体を発見し、ローゼンの手に手錠がかけられる頃、エミリーは遠くに逃げられます。

翌日は空が晴れ、空には飛行機が飛んでいました。その日はローゼンの人生にとって最も素晴らしい日だった。初めて自分自身を誇りに思えた日でした。

再会を約束していたけれど、それはエミリーを安心させるためのローゼンの嘘でした。本当にエミリーが大切だったんですね。

イアンはなぜその話を法廷でしなかったのかと尋ねました。ヒンドリーから長い間虐待を受けていたと言えば、減刑も有り得たはずです。

しかし、もちろんローゼンも最初から口を噤んでいたわけではありません。

マスコミに公開されない一次裁判で、ローゼンは全てを素直に明らかにしました。ローゼンは自分が無罪になれると思っていなかったし、全ての証拠が自分を指すことも知っていました。自白したあと、ローゼンは服を脱ぎ捨てて体を見せることまでしました。傷を見ればわかると思っていたから。けれど、それは間違っていました。

「本当に殴られたの?」

「はい、全身を。私の体が見えませんか?」

「殴られた理由はなんだと思う?」

「忙しいと言って殴り、暇で退屈なら殴り、雨が降れば殴るような人でした」

「浮気をしたという噂があったけど。それで殴られたんじゃないかな?他に方法はなかったの?殺すんじゃなくて」

「あったと思いますか?」

「君の言う通りだとして、それでも殺すのはやっぱり悪魔みたいだが…お互い対話で解決できなかったのかな」

ローゼンはこの二年間で何度も対話を試みました。やめて、殴らないでください、生かしてください。けれど一度も返事が帰ってきたことはありません。

その後も裁判では同じやり取りが続いて、ローゼンは言葉が通じないことを悟りました。彼らはローゼンの言うことに耳を傾けることはありません。世の中は公平ではなかったのです。

だからローゼンはマスコミに公開される二次裁判で意見を変え、無罪を主張しました。女性調査官から事前に「マスコミに噛みつかれることになるから罪を認めて祈った方がいい」というアドバイスも受けたけど、噛み付いてみろとローゼンは思いました。

「私が殺したんじゃない」

それはヒンドリーが招いたことだったから。

「私は嘘をついていない」

幼い頃に売られ、浮気もしていないのに殴られました。どうか助けてくれと何度言っても聞いてくれなかった。ローゼンは人でなく家畜で奴隷で、ヒンドリーの付属品だから聞いてくれなかったのだと理解しました。

居眠りしていた記者たちがローゼンに注目しカメラを回します。ざわめきが大きくなり、ローゼンに対する批判の声が響きました。裁判官も傍聴席も驚愕した目でローゼンを見つめていました。

「裁判の結果を発表する。ローゼン・ハワーズに50年の懲役刑を言い渡す」

ローゼンはおかしくて笑い声をあげると法廷が静まり返りました。笑うローゼンに恐怖した人々が「魔女」だと叫びます。彼らがローゼンの笑顔を恐れていることを知ったローゼンはその瞬間とても満たされました。

「私はローゼン・ウォーカー!私は無罪だよ!そしてこれは最後じゃない!私は必ずこの法廷に再び立つ!」

そうして、ヒンドリー・ハワーズの妻として大人しく反省しながら50年を過ごすよりも、ローゼン・ウォーカーとして脱獄囚になることをローゼンは選んだのです。彼らの望み通りに罪を認めて反省して、そして運が良ければ、おばあさんになった時にエミリーと再会できるでしょう。でも、ローゼンはそうしたくありませんでした。

人々が正しい。 私は殺人者だ。

ナイフでヒンドリーを36回刺して殺し、嘘を繰り返して厚かましく帝国を欺瞞し、2度の脱獄を成功させたアルカペズの魔女だ。

それが世の中が言う真実なら…… それなら私は最後まで嘘つきになる。どうせ彼らにとって、すべての女性は魔女であり、すべての魔女は嘘つきだから。

「私は無罪だよ!」

何を言っても変わることがなければ、言いたいことだけ言わなければならないだろう。それが嘘でも。それが世の中が聞いてくれない私たちだけの真実であっても。

13章 永遠なる君の嘘

「これが私に出来る話の全て。あんたに言ったことは全て嘘だったの」

ローゼンはイアンを真っ直ぐ見つめ、これが真実の言葉であることを信じてくれるよう祈りました。ローゼンは嘘つきだけど、それでも最後までイアンを騙すことはなかったということを知ってほしかったのです。

「騙された気分はどう?」

ローゼンがイアンに真実を伝えたのは、彼がローゼンに銃を握らせてくれたから。そして、ローゼンがイアンを愛しているからでした。

「関係ない」

イアンから返ってきたのは海底をかくような沈んだ声でした。そして、イアンは銃を頭に突き付けられたまま、ローゼンに口付けをしました。イアンが真実を聞いて、騙されたと知って怒ると思っていたローゼンはこの状況に混乱しました。

「最初から関係なかった。言ったじゃないか」

「あんたバカ?聞き取れないの?私が殺したんだってば!」

イアンはローゼンを見つめたあと、ローゼンのそばでイアンを睨んでいる魔獣を指さします。

「これがお前の味方でよかった。それなら海にいるのもお前の味方だろう」

イアンは勝手に動き始めてレバーやボタンを触り始めます。どうやって証明すれば自分が殺したことを信じてくれるのかローゼンは尋ねますが、イアンは「証明するな」と言いました。

「私にも、誰にも何も証明するな。 お前がそうする必要はない」

ローゼンは本来なら勝手に動いているイアンを撃つべきなのに、拳銃を床に落としてしまった。それは、イアン・コナーが涙を流していたからでした。

「よくやった。ここまで一人で来るのに本当に苦労しただろう。私が言える言葉がこれだけで、すまない」

イアンは誰かの前で泣いたことがないに違いないとローゼンは思いました。そうでなければ、声も出さず、すすり泣くこともない、まるで泣き方を知らない人のように果てしなく涙を流すことなんてないはずだから。

「帝国法上、殺人罪は8年から50年。17歳から25歳で8年」

イアンはローゼンを抱きしめながら言いました。イアンに話したのは人生の一部のはずなのに、それでも抱きしめられて、ローゼンはイアンが全ての過去を理解してくれたように感じました。

「お前には罪がない。そしてもう刑期は終わったんだ、ローゼン。お前はそれ以上の刑を受けなれけばならない理由がない……だからもう自由になって」

装置が動いて、甲板に浮かんだ救命ボートに向かってイアンに誘導されます。イアンは自分であらかじめ用意した水や食料、地図を救命ボートに乗せました。そいて救命ボートの鍵を渡された時、ローゼンはようやくイアンを引き止めました。イアンが馬鹿げたことをしていたから。

「あんたは軍人でしょ。刑務官で…」
「……ああ」
「戦争の英雄で」
「そうだな」
「私を解放してくれたら何を言われるか分からないよ? あんたが命を捧げて得た名誉だよ!惜しくないの?それを一瞬でこうやって投げるの?戦争中ずっと……」

ローゼンはイアンを裏切るつもりで、脱出を優先にこれまで考えていました。けれど、ローゼンが思っていたのはこのようなやり方ではありません。イアンは正気ではないので、頬を打ったら、また初めて会った時のような理性的な人に戻るだろうかとローゼンは考えました。

イアンの顔にはもう涙はなくて、ローゼンはその事に安心しました。このままイアンが涙を流し続けていたら、ローゼンまで泣いてしまいそうだったから。

「最初から私がお前の鎖を解いた理由は何だと思う?本当にわからないのか?」

イアンはローゼンを抱きしめ、首筋に口付けました。

「私はただお前に会いたかった」

イアンはローゼンを救命ボートの中に押し込みました。ローゼンはイアンの灰色の瞳を最初に見た時に、温度がわからないその色が怖かった。けれど、今はその灰色の瞳がとても暖かい色に見えました。

「心配するな。私はお前が思っているよりずっと前から狂っていた。お前に騙された気分はどうかと聞いたな。良かったと言えばお前が信じないと思ったから関係ないと言った」

イアンが救命ボートのエンジンに手を伸ばすと、ローゼンの指先が青く光り、エンジンが振動しました。ローゼンは驚いたけれど、イアンは驚くことも無く口元を上げた。そして、イアンはローゼンの耳元で囁きました。

「お前の嘘がこれからも永遠でありますように」

「……」

「私だけでなく、みんなを騙せますように。嘘を言い張ってついに真実になることを願っている」

イアンは自分の赤いマフラーを解き、ローゼンに巻きながら「お前が勝った」と言いました。イアンがレバーを下ろすと救命ボートが水面に向かってゆっくりと下ろされます。

「愛している、ローゼン・ウォーカー」

「……」

「お前が信じようが信じまいが、これは嘘じゃない」

イアンの口元が上がり、それまで身にまとっていた陰鬱さはいつの間にか風に吹き飛ばされていたようでした。静止した写真とは違って、生きて動いているイアン・コナーが笑顔を浮かべてローゼンの目の前にいました。その笑顔は誰もが知っているような謹厳なものではなく、もう少し意地悪な少年のような笑みだった。

謹厳(きんげん)…まじめで、いかめしいこと。

引用:goo辞書

ローゼンとイアンの距離が遠のき、声が届くかもわからないほど離れた時に、ローゼンは我慢できずに叫びました。

「また会おう。今回は嘘じゃない。その時にあんたに言わなくちゃいけないことがある、イアン!」

「今度は捕まって帰ってくるな」

「私たちはまた会えるよ!」

救命ボートが水面に浮かび、数十の魔獣が押し寄せ、ローゼンの進む道を照らしました。ローゼンの肩にいた魔獣も海に戻ります。道の通りに進んでいく中、ローゼンが振り返ると、甲板にイアンの姿が見えました。ローゼンが巻いた赤いマフラーはまるで勝利の旗のように見えているでしょう。

『お前の嘘がこれからも永遠でありますように』

嘘も永遠なら真実になれる。船は勢いよく進み、ローゼンはその時になってようやく涙が流れました。それは悲しみではなく解放感からでした。

もう一度私を折ろうとするすべてのものを越えて水平線の向こうに消えて生き残る。

耐えて耐えて、ついに私の嘘がついに真実になるまで。

私は風に吹かれながら灰色の空中に青い光を投げた。そして笑った。これからも続く私の嘘のために。永遠の私の勝利のために。

エピローグ 墜落または着陸

イアンは皇帝に謁見して「やめます」と伝えました。戦争後に授与されたコナー卿という爵位も返還し、ただのイアン・コナーとなりました。

初めて任務に失敗したイアンは将軍たちに呼び出され、難色を示されたり、何があったのか責められたり、火のように怒る人もいました。銃殺の話まで出ていたので、必要ならそうしても構わないとイアンは答えました。

「お前、おかしくなったのか?」

「近日中に銃殺されないのであれば、主治医と治療計画について話し合ってみるつもりです」

軍部での会議は長引き、新聞のゴシップにはイアンがローゼンに惑わされたと書かれました。皇帝はその新聞をイアンに見せ、これは事実かと尋ねます。イアンは注目されることに慣れていたけれど、取り上げられていたのがゴシップ誌なのは初めてで新鮮でした。おまけに自分とローゼンの名前が並んでいると妙な満足感をイアンは得ていました。

「申し上げることはありません。ローゼン・ウォーカーは再び脱獄に成功し、私は囚人を逃しました」

皇帝はイアンが本土から離れた島に行くことになるだろうと話しました。それは休養だという名目の蟄居令であり、流刑でした。

蟄居令(ちっきょれい)とは、一定の場所に閉じ込めて謹慎させる刑罰の一つです。銃殺の話まで出ているくらいですが、流石に戦争英雄をそのようなことにするわけにもいかず、数年は離島で謹慎させられるということのようです。

名誉を重んじる軍人にとってはこの上ない屈辱でしたが、イアンは気にしていませんでした。

2、3年はそこに居る必要があると話す皇帝に、イアンは「2、3年では短すぎます」と話しました。

「私は辞めたいんです。数年経てば私は忘れられるでしょう。その頃に早期退役を申し込もうと思います」

「……飛行機には二度と乗らないつもりか?」

「島で軽飛行機でも乗ろうと思ってます」

自分が人生を生き延びた老人のようなことを言っているのを知っているか。才能がもったいない」

「持っている燃料を燃やす速度はそれぞれ違います。私はそれを他の人より早く使い果たしました。それだけです」

皇帝はそんなイアンに「それにしては幸せそうだ。表情がよくなった」と指摘しました。実はその指摘はヘンリーにもアレックスにもライラにも、ましてやグレゴイにまで言われていたことでした。

皇帝は引き出しから地図を広げ、「力のない皇帝でも友人を些細な部分で助けることは出来る」と言って、流刑地を選ばせてくれました。暮らしやすい休養地を皇帝は勧めますが、イアンが選んだのは住みにくいと言われるプリムローズ島でした。人口が少なく、本土から離れすぎているので輸送便は月に一度しか訪れません。

暖かい休養地ではく魔獣がわく黒い海の真ん中にある島に行きたいと。よりによってワルプルギス島があると噂されている海域の島に行きたいというのは、ただの君の独特の趣向のためだろう?」

イアンが応えず頭を下げると、皇帝は「わかった」と返事をし、敬礼してから出ていこうとするイアンに「本当に何も無かったの?」と再び聞きました。

「何もありませんでした」

皇帝は笑みを浮かべて新聞の見出しを読み上げます。

「『英雄の墜落』か…。単語の選定がよくないね。墜落ではなく着陸ではないかと思うけど」

「………」

「あ、それからもう一つだけ。いつも思っていたことだけど、君は本当に嘘がつけないね」

皇帝に送り出され、イアンは外の噴水に金貨を投げ入れました。ここは金貨を投げいれれば願いが叶うという迷信のためでした。イアンに残された願いはひとつです。

プリムローズ島は静かな島で、住民のほとんどは農作業をしていて、本土や世間の事情に関心がありませんでした。戦争ですらこの島をおびやかすことはなかった。帝国民という認識もなく、自分たちを「プリムローズ人」と呼ぶほどです。ラジオを持っている家庭も少なく、本土からの情報はほとんど入りません。

突然現れた若い将校で、しかもイアン・コナーだったため、最初はイアンを見物しにきたけれど、それも数日で止まりました。イアンはこの島の静かさと無関心さが気に入り、海がよく見える家を借りました。家主の老婦人は喜びながらも、家の修理が必要なことや、将校が借りるには狭い家であることを心配してくれたけど、イアンにはどちらも必要のない心配でした。

「まあ一人暮らしには悪くないでしょう。ところで本当に結婚していないの?本土に妻を置いてきたんじゃなくて?こんなにハンサムな顔なのに」

「恋人がいます」

老婦人はさらに聞いてきたが、イアンは曖昧な笑顔でごまかしました。

ヘンリーは輸送便でやって来てイアンを訪ねました。海軍に正式に所属して3ヶ月後、海軍は合わないと言い出してヘンリーは医師が勧めたリハビリに専念することになりました。ヘンリーの主治医から手紙での報告によると、ヘンリーの状態はだいぶ良くなっていて、まだ飛行機への愛情が残っているということでした。現役のパイロットではなく、教官としての道ならヘンリーに残されています。

ヘンリーは飛行機には乗らないのかと聞いてきますが、イアンには軽飛行機がありました。いつ乗せるか約束すらしていなかったけれど、イアンには乗せたい人がいました。

『あなたは遠すぎる。空にいるじゃん』

ヘンリーはイアンが誰を乗せたがっているのか知っていたけれど、それ以上は何も言いませんでした。

ライラは予備士官学校に入り、軍人を目指していました。まさか空軍に選ぶのかと慌てる周りを他所に、ライラはライラの思うまま進んでいます。

ヘンリーは新人パイロットと一緒に乗って試験飛行をしている途中で撮影した写真をイアンに渡しました。雲の間から撮られたそこに映るのは恐らくワルプルギス島です。その海域に入ると計器盤がおかしくなり、新人がパニックになっている後ろでヘンリーがこっそり写真を撮影しました。ワルプルギス島の座標は誰にも知られてはいけません。イアンも近くにいたくてプリムローズ島を選んだが、調べるつもりはありませんでした。

「私も座標は知りません。そこの海域に入ると計器盤がおかしくなったので、魔女たちは本当に凄いですね」

「どうやって抜け出したんだ?」

「ベテランパイロットの勘です。司令官がいないので今が私がエースですから」

フィルムはもうヘンリーによって処分してしまったので、写真をイアンに渡したかったのだけど、感謝の言葉すらないのでヘンリーはイアンから写真を取り上げます。しかし、イアンが手を差し出すので大笑いしながら写真をまた渡しました。

「元気に暮らしているはずです。私は信じます。帝国最高の脱獄囚じゃないですか」

「私もそう思う」

また会ったら泣きながら引き止めてここで新婚生活でもしていてください。どうせここの人達は凄く遅れているから魔女をそんなに悪く思わないでしょう」

ヘンリーがまだローゼンのことでイアンをからかうので、イアンは静かに拳銃を握りしめました。

「すみません!黙ってるから銃を出さないでください!」

プリムローズ島ではワルプルギス島が近いせいか、未だに魔女に対する畏敬の念が残っていました。プリムローズ島を出向する船は事前に海に金貨を投げ入れ、魔獣から守るよう祈る風習もありました。

月の明るい冬の夜。首都よりは悪夢を見る回数が減ったといっても小さな物音ですぐにイアンは目を覚ましました。最近は悪夢よりも良い夢を見る回数が多く、先程まで見ていたのも良い夢でした。

夢の中で気がつくとそばにはローゼンがいて、イアンは精一杯彼女を抱きしめます。夢の中のローゼンは話すことはなかったけれど、それでもイアンは様々な質問をしました。

島に無事に到着したのか、エミリーと会って幸せに暮らしているのか。そして、私のことを忘れなかったか、お前も私に会いたいのか、と幼稚な事まで聞きました。

返事が返ってくることはなかったけれど、問題はその次で、夢だからイアンは自分の欲望にも素直になっていて、自制ができませんでした。

ローゼンウォーカーが質問の洗礼を浴びせる彼を見てにっこり笑った瞬間、彼はドジっ子のように固まった。

彼はすぐにローゼンを抱いてベッドに横になり、その体温を感じながらしばらく夢の中で熟睡し、起きてからは服を脱いでローゼンの露出した肌ごとにキスをした。息が上がり、熱気が体を虜にする頃には、彼は例外なく夢から完全に覚めた。

自分が狂った変態のように思えたけれど、後悔のあとには閑散とした寂しさが訪れました。悪夢よりも違う意味で苦しめられたので、島にひとりしかいない医者を訪ねて睡眠薬をもらおうとしたけれど、既に定量を与えられていたので却下されてしまいました。

そうして考えに耽っていると、窓を叩かれます。イアンが注意深くあけると、そこには子供たちがいました。子供たちは夜だと言うのに森を探索中で、イアンの飛行機が気になっていたようでした。乗せてとせがまれて、断固とした態度で断りますが、島の子供たちはイアンのことをあまり怖がりませんでした。

「乗せてくれないなら僕たちもお使いはしません」

子供たちは他の人からお使いを頼まれたと言い、ガス灯に照らされた庭の入口を指さしました。ヘンリーはすでに本土行きの船に乗って出発したので、イアンを訪ねる知り合いはいません。

「嘘をついても飛行機には乗せない」

「嘘じゃないのに!二人とも女性です!私たちに将校さんの家はどこかと尋ねました!」

イアンが見た目を尋ねると「一人は金髪だった」と教えられ、イアンは立ち上がり、コートを羽織りました。テーブルに置かれたコップが落ちたが気にしていられなかった。

「将校さん!でもちょっと変な人たちでした。将校さんに永遠の嘘をつきに来たそうです。拳銃を持っていった方がいいかも!」

イアンは玄関のドアをあけて走り出します。イアンの背中に、「お使いだから飛行機に乗せてくれますよね?」という子供たちの声に頷きながら、庭を走りました。しかし、結局庭には誰もいなくて、イアンは落胆しながら家に帰ることになりました。

子供たちは帰ったのかすでに居なくて、イアンはコートをかけ、窓から見える海を見つめながらベッドに腰掛けます。気分が沈んで窓のカーテンをしめ、おそらく眠れないだろうけれどベッドに横になりました。

その時、布団の中から誰かが飛び出してイアンをぎゅっと抱きしめました。

「こんばんは、イアン・コナー」

小麦色の髪。ローゼン・ウォーカーだった。

「久しぶりだね。元気だった?」

イアンは目の前の光景が信じられなくて、ローゼンを押して「夢ならいっそ今起きたい」と呟きました。

「どうしたの?まさか私に会いたくなかった?こうしたらびっくりしながらすごく喜ぶと思ったのに」

「目が覚めた時に虚しくなるから。夢ならどこかに行って」

「わあ、呆れた。私がワルプルギス島から外出する資格を得るのにこれまでどれだけ苦労したか知ってる?それなのにどこかに行けって?」

「………」

「どうしたら本物だって信じてくれる?こうなるならエミリーの言う通り玄関から来ればよかった。もう一度歩いて入ってこようか?そしたら信じる?」

ローゼンは首に巻いた赤いマフラーを見せました。そのマフラーの感触に、イアンはこれが現実であることをようやく理解します。目の前にいるのは本当にローゼン・ウォーカーでした。

「愛してる。もう自信を持って言えるよ。その話をしに戻ってきたの。私たち、また会おうって約束したでしょ」

イアンは今度は迷わずローゼンを力いっぱい抱きしめました。

「外にエミリーがいるんだけど入ってきていいって言ってもいい?

「そうだな」

「お茶も出して。来るのに寒かった」

「そうだな」

「それしか言えないの?他の言葉は?」

「会いたかった。帰ってきてくれてありがとう」

イアンは笑って、皇帝に言われた言葉を思い出しました。言われた時はよく分からなかったけれど、今はわかるような気がしました。

彼は燃料切れの飛行機で長い砂浜をゆっくりと滑空した瞬間を思い出した。

彼はその時を飛行機で最も手に負えない瞬間として保管していた。それは墜落とは違った。 長い滑走路の先に安全な着陸地点が彼を待っていることが分かったから。

実際、パイロットにとって一番気持ちいい瞬間は空に浮かぶ時ではなく、長い飛行を終えてついに世の中に戻ってくる時だった。 彼が愛する、守りたい土地へ。

それなら、これは確かに墜落ではなく着陸だった。

3巻中編を読んだ感想

これにて本編は完結です!次の3巻後編〜4巻までは全て外伝になります。ローゼンとイアンのその後やIFの話だったりがあるので楽しみにしていてください。

この作品を読むのはこれで二回目なのですが、永遠に嘘を言い続けてやがて真実になるから「永遠なる君の嘘」という意味になるこの作品のタイトルがすごく好きです。何度読んでも実感します。

ローゼンにとってヒンドリーを殺したのは罪だと思っていないし、生きるために仕方ないことだったので、たとえ嘘でも自分が思う真実である「罪がない」という主張をしていました。ただ、実際にはやはり人を殺してしまっていたので、刑の最低ラインである8年間、罪人として頑張り続けたっていうバランスの良さも好きです。

漫画だと設定に大きな違いが出てきていますが(エミリーがヒンドリーの娘だったり、魔女が遺伝によって継げたり)花火の後のイチャイチャや脱出などの展開も早く読みたいですね。

次回の更新は来週を予定しています。更新はtwitterにてお知らせします!

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いり
異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

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