原作ネタバレ

「永遠なる君の嘘」韓国の原作小説ネタバレ感想 |2巻・中編

永遠なる君の嘘(영원한 너의 거짓말)の韓国の原作小説2巻(中編)のネタバレ感想です。

原作:jeonhoochi

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9章 ワルプルギスの夜 後半

ローゼンの戦争

イアンは甲板のパーティに着ていくドレスを選ぶローゼンを眺めながら、彼女のふっくらとした唇の感触を思い出します。性的な意図ではなく、憧れによってされた口付けだったので、イアンはローゼンを拒絶することができませんでした。しかし、それも自分を誤魔化すための言い訳のような気がしていました。なぜなら、拒絶しなかった理由が他にもあったから。

イアンはあの時、ヘンリーやライラが来ていなかったら、自分も彼女に手を伸ばしていたけれど、手を伸ばして、何を言おうとしたのか。自分の衝動をイアンは理解できませんでした。

ドレスに着替えるため、ローゼンはイアンが目を背けるよりも早く室内用のワンピースを脱ぎ捨てました。下着だけを身につけたローゼンの痩せた体には酷い虐待の跡がありました。虐待を受けたという話を聞いていたのに、目の前にしてイアンは絶句しました。

イアンの戦争は10年前からですが、ローゼンの戦争は生まれた時から始まり、まだ終わっていないかもしれないと思いました。

「よく殴られたのか?」

「ほぼ毎日」

ヒンドリー・ハワーズが殺害当日にローゼンと夫婦喧嘩をしたと新聞には書いてあったけど、ヒンドリーは1メートル80センチを超えます。イアンより少し小さく、ヘンリーと同じくらい。そんなヒンドリーとローゼンでは相手になりません。それは喧嘩ではなく、一方的な暴力です。

「新聞には、お前が正しいという事実は出ていなかった」

「当然だよ。だから私は昨夜、記者も知らない話を特別に全部話したでしょ」

ヒンドリー・ハワーズ。30歳男性。平凡で善良だった貧民街の医者で、妻に殺害される。それがイアンが新聞で知ったヒンドリーの情報の全てでした。

もちろん証拠は十分でしたが、ローゼンは裁判中でさえ発言権を得ていなかった。政府が送った国選弁護士の誰もローゼンを弁護してくれなかったからでした。民衆はローゼンに石を投げたくて仕方なかったので、帝国はローゼンという魔女を作り上げたのです。

イアンが裁判官だったとしても全ての証拠が、ローゼンを犯人だと指していたので、有罪判決を下すでしょう。結果は同じ。けれど、誰かはローゼンの話を聞くべきだった。

「憎む人が必要でしょ。私は大丈夫。私はよく知らない人達から嫌われるのに慣れてるから、大したことないよ。それにもう全部終ったし。ところでどうして急にそんなことを言うの?話を聞いたら私が可哀想になった?」

ローゼンはドレスを身につけだが腰紐が結べずに苦労していました。イアンは話を変えるために「助けが必要に見えるので乗務員を呼ぶ」と言います。

「いや。あんたがやって」

「……」

こういうパーティはパートナーが全部気遣ってくれるんだって。今日はあんたが私のパートナーじゃない」

ローゼンは知能の高い囚人でした。イアンが聞いてくれそうな些細な頼みを選ぶのが上手かった。イアンは腰紐を結びながら、ローゼンの痩せた体つきを見ます。

子供の頃は貧しくて食べられず、成長しても夫のせいでまともに食べられず、さらに成長したら監獄にいて食べられなかった。色々な考えが押し寄せ、イアンは目眩がしました。脱獄時は絶壁を降りて山脈を越えたという話だったけど、それどころか監獄の冬を耐えきれないように見える体つきでした。何がローゼンのエンジンをここまで燃やすのだろうか。

腰紐を結び終わるとローゼンは鏡の前で確認し、「やっぱり黄色を着る」と意見を変えようとします。イアンは自分が身につけていた赤いマフラーを外し、ローゼンの首にぐるぐると巻きました。

「勝利の象徴。コナー卿の赤いマフラー!私にはちょっと身の丈に合わないけど…私が借りてもいいの?」

イアンはそこで囚人には所持品が許されないことを思い出したけど、もうマフラーをつけた後でした。再び取り上げるのは稚拙だし、何よりイアンは勝利の象徴である赤いマフラーがローゼンの首に巻かれている事実に満足していました。

イアンの部隊では元々グレーでしたが、印象づけるためにカメラマンの提案により、赤いマフラーを指定されて首に巻いていました。ローゼンにその赤いマフラーを渡したのは、イアンや仲間たちを壊した帝国への無意識の反抗かもしれないし、イアンが生かしたリオリトンの女の子に何かプレゼントをしてあげたいという気持ちもあったのでしょう。ローゼンに巻くなら鎖ではなくマフラーの方が良かったとイアンは思っていたようです。

「本当に私が借りてもいいの?あんた、私のことが嫌いでしょ。これ捨てるつもりなの?私が持っていってもいい?」

ローゼンの言葉を聞いて、イアンはあの時に自分が何を言いたかったかを理解した。ローゼンがイアンに口付けをした時。イアンは「私はお前が嫌いではない」と言いたかったのです。それは変なことではなくて、実はローゼンのことを好きな人は彼女自身が思っているよりずっと多くて、イアンもその中の一人というだけ。しかし、イアンはそれを口に出しては行けないことだと理解していました。

初めての祭り

甲板の上は雨が上がり、色とりどりの仮面や衣装をみにつけた人で賑わっていました。ローゼンは目の前に広がる景色を見て、石像のように固まります。監獄は灰色1色だったので、世界がこんなにも色鮮やかだとは思っていなかった。ローゼンがイアンの腕をしっかりと抱き込むと、イアンは「あまりくっつくな。怪しまれる」と言いました。

「バレたらどうなるの?私は失うものがないけど、あんたは違うじゃない」

「バレなければいい」

イアンらしくない言葉でした。普段のイアンなら絶対に言わないだろう言葉。それが滑稽だけどなぜだか胸がいっぱいになって、ローゼンはイアンを見上げて笑います。イアンはそれを見てため息をついたので、ローゼンがこの状況でもヘラヘラしているのが気に入らないのだろうとローゼンは思いました。

イアンは何がしたいのかとローゼンに聞きます。ローゼンはこういう場に来たことがなかったので勝手がわからず、「何をしたらいい?」と逆にイアンに尋ねました。

「お前がやりたいこと」

ローゼンはワルプルギスの夜の祭りすらまともに過ごしたことがなかった。祭りの日に広場に出てしまうとヒンドリーが浮気を疑って怒るから。ローゼンの事情を聞いたイアンはまず食事を勧めました。ワルプルギスの夜は2日間にわたって食べて飲んで騒ぐ祭りでした

2人に話しかけてくる人がいたけど、イアンが無愛想なことは周知なのかしつこく話しかけてくる人はいませんでした。ローゼンの事を聞かれてもイアンは「ヘンリー・リービルの親戚」とだけ答えます。

イアンは1番奥のテーブルにローゼンを座らせ、赤ワインを勧めました。イアンは飲まないのか尋ねると、勤務中だからだと返されます。

ローゼンはイアンの表情を変えたくて「マエリアの実はないの?」と聞きますが、イアンは「ない」と答えた。厨房にはあるんじゃない?と尋ねてみるけど、イアンは顔を固くして「この船には無い」と言いました。

「私が全て海に投げ捨てたから、見つけたいなら海の底だ」

ローゼンはそこまでするイアンの行動に驚きました。平凡でまともな人に看守はつとまらないので、イアンもやはりまともではなかった。

イアンに酒を勧めても断るので、ローゼンは「軍人はみんな犬のように飲むんだと思った」と軽口を叩きます。しかし、イアンの目線がローゼンに向くので「あんたや同僚を侮辱してるわけじゃない」とすぐに弁明しました。

リオリトンは激戦区ではなかったけど、首都マローナに近い軍事要塞都市でした。そのため、軍隊用のジープが入ってきて、リオリトンには軍人が一気に増えました。

突然増えた軍人(陸軍後方部隊)を収容する施設がなかったため、一定面積以上の家を持つ住民は部屋を提供する必要がありましたが、ヒンドリーは賄賂を使ってそれを回避していました。

リオリトンにやってきた軍人達はイアン・コナーのように民衆を守ってくれるような存在でなかった。彼らは通り過ぎる女性達に口笛を吹き、昼でも夜でも酒を飲んでいました。そこで喧嘩が起きれば銃を持ち出します。それを見て、ローゼンは「戦争は負ける」と思いました。戦うべき人達がこんなにめちゃくちゃなのだから、負けるに決まっている。

「軍人が嫌いだったのか」

「もちろん、私はあんた以外の軍人はみんな嫌いだよ。今もそう」

イアンの放送とは違って、彼らがローゼンを守ってくれたことなど1度もなかった。

『どうか家に返さないでください。帰ったら私は死んでしまいます。夫が…』

そんな訴えにも、耳を傾けてくれることはなかった。

「でももうそこから空軍は外してあげる。あんたの同僚は一生懸命戦ったんだから。私はあんたの言うことは信じるよ。何を言っても、全部」

イアンのサイン

ローゼンは4杯目のワインを注ぎます。少し気分が浮かれていたが、それでも自分の飲める量が分かっていたので、まだ大丈夫だと判断しました。ローゼンはワイン1本あけても10分風に当たればよくなるほど、お酒に強かった。

しかし、それでも酔ったフリをしてイアンを油断させなくてはいけません。酔っ払いに何かするような性格には見えないけれど、何もしないよりはマシでした。

しかし、ローゼンが話す前にイアンが「なぜ殺したんだ」と聞いてきました。殺しをしたかどうかではなく、殺した理由を聞いてくるイアンに、ローゼンは「殺してない」と答えます。もう全部終わったのになぜ理由が必要なのかローゼンにはわからなかった。

取り調べのようなことはしたくなったので、ローゼンは「ペン持ってる?」と話を変えて、イアンにサインをねだりました。

刑務所の看守がイアンのサインを持っているのを見たことがあったからでした。一晩寝てあげるからと言っても、その看守はイアンのサインを絶対に渡してはくれなかった。意外にもイアンの字は端正というよりは、飛ぶように自由奔放だった。

「……紙がない」

「言い訳はもういいから、私の手に書いて」

「それをどうして欲しがるかもわからない」

「愛してるから。愛してる、イアン・コナー。だから私にもサインして。どうせなら落ちないペンで。死ぬ時、それを見ながら死にたい」

イアンはローゼンが頬にキスをした時のような奇妙な表情をしていました。ローゼンがイアンの胸ポケットにタバコと一緒に入っているペンを取りだして渡すと、イアンはローゼンの手のひらを広げ、ペン先を動かします。

それを眺めながら、ローゼンはこれまで色んな人がイアンに対して羨望の眼差しを向けていたのだろうと考えました。そしてふと、ローゼンや多くの人たちはイアンを心の拠り所として戦争に耐えたけど、逆にイアンは何を頼りにして耐えたのだろうか。

「……あんたは何を見て戦争に耐えたの?」

イアンの手が止まり、灰色の瞳がローゼンに向きましたが、答えたくないようで口を閉ざしていました。イアンにも、イアン・コナーのような存在がいればいいのにとローゼンは話しますが、イアンは「…終わった」と言ってローゼンのてのひらからペンを離しました。

ローゼンはてのひらを見て、眉をひそめます。そこに書かれたのはイアン・コナーの名前ではなかった。

「なんで私をからかうの?」

ローゼンが字を知らないと思って、イアンはわざと自分の名前を書かなかった。その事実に腹が立ちました。字を知らなくても、本1冊さえ読めなくても、ローゼンには唯一書ける文字があった。ローゼンはペンを奪ってイアンの手に彼の名前を書き、そのままペンを投げつけます。

「私、あんたの名前は書けるよ!世の中でたった一つ、あんたの名前は書けるの。どうして人をこんなに弄ぶの?」

「……お前の名前だ」

頭に沸騰していた怒りはおさまり、戸惑って、ローゼンは少し恥ずかしくなりました。どうしてローゼンの名前を書くのかわからなかった。

「……ただ1度は使ってみたかった。これといって意味はない」

死ぬ時に見ると言ったから、最後まで自分の名前の文字さえ知らない囚人が可哀想に思えたのだろうか。手のひらに書かれた文字は生まれて初めて見るものでした。

「ローゼン・ハワーズって書いたの?」

「ローゼン・ウォーカーと書いた」

「きちんとハワーズって呼んでたのに、どうしたの」

イアンがウォーカーと呼ぶのをローゼンは初めて聞きました。もちろん書いた文字を口にしただけだったけど、それでもイアンが書いた字が「ハワーズ」ではなく「ウォーカー」であることが嬉しかった。

魔女の行進曲

甲板で流れていた1曲が終わり、次の曲が始まった。次に始まったのは「魔女の行進曲」。ローゼンも知っている曲だったので、立ち上がってイアンの袖を引っ張ります。

「踊ろう」

魔女の行進曲は上品なワルツなどではなく、軽快で早く、腕組みをして飛び跳ねる踊りでした。ライラとヘンリーも遠くでぴょんぴょんと飛び跳ねているのが見えます。

ライラは可愛らしいうさぎの仮面をつけていたけど、ヘンリーはスーツ姿に素顔のままでした。素顔なのには理由があって、ヘンリーは視界が遮られるのが怖いため仮面は付けられません。飛行機に乗った時を思い出すのだそうです。

イアンはローゼンの誘いには乗らず「ローゼン・ハワーズ、お前は酔っている」と言いました。確かに酒が回ってはいたけど、おかしくなるほどではありませんでした。早く踊ろう、と強引に誘うけど、イアンは士官学校ではワルツしか教えてくれないので踊れないと言いました。

「じゃあワルツが流れるまで待てばいいね」

ローゼンはそう言って甲板を歩き、あたりを見回します。イアンはローゼンの視線が1箇所に留まることを警戒していたのでアレックスから教えられた救命ボートがある方をあまりじっくり見ることができませんでした。やはりどんな手を使っても酒を飲ませるべきだったとローゼンは思いました。

ローゼンはイアンの顔を掴んで「どこ見てるの?他の女を見てるの?」と言うと、ローゼンの行動に慣れてきたのか、イアンは眉を寄せて「お前を見てる」と答えます。

「嘘」

「……私がお前以外に誰を見るんだ。ここにお前より怪しい人はいない」

ローゼンは注意をそらすために楽器に視線を向けて「あれはチェロだよね?」と聞きます。

「エミリーが教えてくれた。実はライラを救った方法もヒンドリーに教わったんじゃないの」

エミリーの話ができることがローゼンは嬉しかった。裁判中、エミリーが事件に巻き込まれるのを恐れて、彼女の名前はずっと口に出していなかったからでした。

ローゼンはイアンに自分たちがワルプルギスの夜をどう過し、ケーキに何を願ったのか、他にも些細な話をしました。ワルプルギスの夜にリオリトン広場に毎年、士官学校の行進のために行っていたと話すイアンに、ローゼンは同じ場所で過ごしていたのに出会っていないことを、皮肉な運命だと思いました。

本心

「お前が言ったエミリー・ハワーズは今どこにいるんだ?どうしてお前は一人で残って…」

イアンはローゼンの話をよく聞いていました。だから、結局こうして返ってくる言葉も危険な質問になってしまいます。イアンはエミリーも共犯ではないのか、それともエミリーの罪をローゼンが被ったのではないのかと考えているようでした。ローゼンはただ「知らない」と答えます。

「重要な質問だ。私はこれに対する質問がなぜ裁判で1度も出なかったのか理解できない」

「エミリーはヒンドリーを殺してないし、エミリーの行方についても知らないからよ。私は答えられない」

「裁判の結果が変わる可能性があった。もしかしたら今からでも…

「もう終わったの。やめて。追求しないで。取り調べもしないで。何も知らないんだから答えなんて絶対に出ない」

ローゼンはエミリーの話を出したことを後悔しました。ローゼンが望んでいるのは事件の把握ではなく、ローゼンを可哀想だと思って隙を見せて欲しいだけ。弁護士のように問い詰めることではありません。

「あと私に怒らないで。あんたが怒るのに慣れないの」

「怒ったことはない」

「いいえ、あんたはよく怒ってる」

ローゼンが子供のように文句を言うと、イアンは微妙な顔つきをして、「お前に怒ってるんじゃない」と答えました。どう接して欲しいのか聞くイアンに、ローゼンは同じリオリトン出身者なのだから、故郷の友人のように接して欲しいと笑いながら言いました。

その時、船が揺れました。イアンはローゼンを捕まえ、ローゼンはよろめきながらイアンの腰に抱きます。イアンは体を強ばらせ、ため息をついたけど引き離しはしなかったので、ローゼンはもっと強く抱きつきます。

「ローゼン、酔ってるな」

どうせ死ぬのなら気持ち良く死にたいな、とローゼンは言いつつ、イアンに睡眠薬か毒薬か麻薬とか、とにかくそういうものは無いのか聞いてみました。

「お前は一体何に使うつもりなんだ」

「約束は守るよ。船では自殺しないから、持ってたらちょうだい。大人しくモンテ島に降りたらそれで死ぬから。それならなんの問題もないでしょ」

それは落ち着き払った顔をしているイアンを揺さぶるためにローゼンがついた嘘でした。

「私の最後が苦痛だったらいいと思ってる?あんたも私をそんなに憎んでるの?本当に…本気で嫌いなの?」

嘘を話していたはずなのに、酒のせいかローゼンは自分の本心が混じっていることに気がつつきます。本当は、イアンが「憎んでいない」と言ってくれるのを望んでいました。けれどローゼンはイアンの返事を聞くのが怖くて、彼の腰を抱きしめて表情を見ないようにします。

ローゼンは酔っている頭を冷やし、気を引き締めてイアンの顔を見ようとすると、ローゼンの背中に固い手が触れました。その手はローゼンを抱きしめ、ぎこちなく背中を撫でました。イアンの声が耳元に届く。

「誰も信じないが…私は1度もお前のことが嫌いだったことはない」

でも好きになったこともないはず。それでも、まだ酔っているせいか、イアンの声がいつもより優しく聞こえたので、ローゼンはそのまま勘違いをすることにしました。今日は魔法のような夜で、どうせ全ては夢に過ぎないから。

「ありがとう、そう言ってくれて。嘘でもいいの。私にそんなこと言ってくれる人はあまりいないから」

イアンの経験

ワルツが始まったけれど、踊ることなくそのまま抱き合っていました。そうしてイアンがローゼンから手を離し、2人の距離が離れます。ローゼンはほんの少しではあったけど、イアンがローゼンを抱きしめてくれたことがとても凄い進歩だと思えました。計画への影響があるかどうかはさて置き、きっとヘンリーが知ったら大騒ぎするでしょう。ローゼンは浮かれたままイアンに話しかけました。

「あんたは本当に面白くない人だから、私を抱きしめたことを後悔してるだろうけど、1日くらいは好き勝手に行動できる魔法の日があってもいいでしょ

脱獄囚が英雄に対して「面白くない」なんて、ローゼンは自分で言っておいて呆れたけれど、イアンはかすかに笑みを浮かべてくれました。笑った方がハンサムだから、その笑顔を見れるならローゼンは喜んでピエロにだってなれそうでした。戦争中でもそうでなくても、イアンの顔はポスターにして全国にばら撒くべきだとローゼンは思います。

イアンは真面目で頑固な人だから、衝動的にローゼンのことを抱きしめて慰めると、その行為は任務から逸脱しているため、きっと後悔しているに違いないと思っていました。

ローゼンはそこで周囲の視線がイアンに向いていることに気がつきました。先程の抱擁を見ていたのか、歯を食いしばって強烈な目つきで見ている令嬢もいます。

自分がいなかったらワルプルギスの夜を楽しめたのに、とローゼンは二つの意味を込めてイアンに言いました。ローゼンに構っていて良い機会を逃していてどうするのかという冷やかしと、だから自分と過ごさないかという誘いでしたが、イアンが妙な沈黙をするのでローゼンはイアンを手招きして、耳打ちします。

「まさか女と寝たことないの?」

「うるさい」

イアンの反応を見て、ローゼンはそれが真実だとわかってしまいました。まさかイアンに女性経験がないと思っていなかったので驚きます。

「本当にないの?どうしてそんなことができるの?嘘じゃないの?

「うるさいと言った」

ローゼンは「潔癖症なの?」「男が好きなの?」と次々と質問をしたけど、イアンは「違う」と淡々と答えを返します。ローゼンは酒の勢いのまま、「私が貰ってあげようか?」と聞きますが、イアンは酔っ払いだと思ってまともに相手をしません。酔ったローゼンを船室に戻そうとイアンが歩き出すので、ローゼンは床に座り込みました。

「起きて」

「嫌だけど?行かない。今引っ張っていけば私と寝るって意味だと思うから」

ローゼンは先程までは冷静になれていたのに、いつの間にか魔法にかかったようにわがままなことを言っていました。目を閉じて、真っ暗な視界を満たすのは1番幸せだった思い出です。

「お酒を飲むとエミリーに会いたくなる」

イアンはローゼンをどうすればいいのか分からない様子でした。結局イアンはしゃがみこみ、ローゼンと目線を合わせながら話します。

「お願いだ。私がお前に好意を与えたことを後悔させないでくれ」

命令口調ではあったけど、それは懇願でした。途方に暮れるイアンの顔が面白くて、ローゼンは笑った後に「手錠を外したことを後悔してるの?」と聞くと「今ちょうど後悔している」と返されました。

グレゴリ卿の登場

ローゼンはイアンの助けを借りて甲板の片隅にある椅子に座ります。そこは船の頭側で、右に曲がって5歩歩くと救命ボートに降りるはしごがある。ローゼンは頭の中で、イアンの船室から抜け出して救命ボートまで来るルートを考えますが、救命ボートまでたどり着けても、エンジンを回す鍵が足りなかった。さっきイアンを抱きしめた時に腰を触ったけど、救命ボートの鍵どころか手錠の鍵さえもありませんでした。

ローゼンとイアンが話していると、男に話しかけられ、イアンはローゼンの前に立って受け答えをしていますが、イアンの背中は異様なほど緊張していました。

今回のパートナーは今までよりコナー卿と親交があるように見えます。レディー、これは珍しいことですよ。コナー卿は見た目ほど性格は良くないから、あなたにしたように親しく接することはないんです」

グレゴリ卿と呼ばれる人物は、にこにこ笑いながらもイアンに対して棘のある言い方をしていました。お互いの呼び方からして、グレゴリ卿も軍人のようですが、イアンの上司ではなさそうなので、仲の良くない同期かもしれないとローゼンは思いました。

何も話さないローゼンに対して「声が出せないんですか?それとも恥ずかしがってるのかな?」と言って近づき、ローゼンをダンスに誘います。

「私はコナー卿よりハンサムな男じゃないと踊りません」

恥をかかせるべく選んだ言葉でしたが、グレゴリ卿は笑って流します。ローゼンは自分の嫌いな性格の持ち主だと思いました。そのままイアンを無視して強引にダンスを誘おうとするグレゴリ卿はローゼンに手を伸ばし、腕をつかみました。思ったより強く掴まれて、あとで痣になっていないか心配になるほどです。

そこへ、イアンがグレゴリ卿を強引にローゼンから押しのけます。

「ジョシュア・グレゴリ。突っかかっていないで行け。嫌だと言われたのが聞こえていないのか?」

イアンはグレゴリ卿に怒っていると言うよりうんざりしているようでした。ローゼンは大人しく座って2人のやり取りを眺めます。

グレゴリ卿は「軽蔑的な目を向けるな、気分が悪い」と言うけれど、イアンにそのような目を向けられるということは、それだけの事をしたはずでした。

2人の話からして、グレゴリ卿は士官学校時代に戦争に参加するのではなく、そのまま逃げたようでした。そして、グレゴリ卿のかわりに更に若い学生たちがイアンと共に戦争に行き、彼らのほとんどがそこで死んでしまった。

「死んだら名誉が何の役に立つんだ?私は賢明な判断をしたんだ。ほら、逃げなかったお前の編隊の奴らはみんな死んで遺体も回収できずに魚の餌になったけど、私はすぐ星をつけて要職につくことができる」

「死んだ者の手柄を横取りすることが、いつからそんなに誇らしいことになったのか。酒に酔って大声で叫ぶほどか?恥を知れ。お前が逃げたせいでお前より若い学生たちが…」

グレゴリ卿は予想していたより酔っているようでした。発音はめちゃくちゃで、焦点もあっていない。ただローゼンは、イアンが同僚や部下たちのことにどれほど敏感になるか知っていたので、黙っていれば怪我をしないですむのに、と思いました。イアンはローゼンの前だから、どうにか殴るのを我慢している様子でした。

花火

もう行こう、とイアンがローゼンを連れ出そうとしますが、グレゴリ卿が手を伸ばしてローゼンの仮面を取ろうとします。しかし、ローゼンの顔が見える前にグレゴリ卿はイアンによって顎を殴られ、甲板の上に倒れました。ローゼンはいつの間にかイアンに抱きしめられていて、彼の胸に顔を埋めていました。

「それくらいで済んで助かったな。アレックス・リービルやヘンリーがお前の今の姿を見たら、拳ではなく銃弾が刺さったはずだ」

イアンはローゼンを子供のように抱えて歩き出しました。イアンはグレゴリについて、士官学校の同期で、賢い奴では無いからローゼンの正体に気づいたわけではないと説明します。そこへ、グレゴリの叫び声が響きます。

「お前と私は何が違って言うんだ?故郷を捨てて図々しく凱旋したのは誰だ!」

「……」

「お前も壊れている。ヘンリー・リービルと同じくらい酷いね。だからみんなすぐに気づくだろう。イアン・コナーが守ったものなんて実はひとつもないことを」

その瞬間、イアンの体が固まり、そしてローゼンの体を強く抱きしめました。ローゼンは、自分がまるで廃墟の中で見つけた彼の大事な宝物のようだと錯覚しました。そんなはずないのに。

グレゴリ卿は士官学校にいましたが戦争が始まると敵国タラスに逃走し、戦争が終わって戻ってきました。今回は海軍に席が欲しいからアレックスの船に乗ったようです。グレゴリ卿の父親は将星(韓国で将官クラスの地位の人のことを指すようです)の息子なので敵国に逃げたとしても銃殺される様なこともありませんでした。

「あんたを憎む資格のある人なんて、帝国にはいないよ。帝国は私のことは嫌いだけど、あんたは英雄だから」

「お前は…私を嫌う人がいるのは信じないのに、なぜ世の中の全てがお前を嫌ってるのだと固く信じているのかがわからない」

「じゃああなたも私のことが好き?」

「……」

「ほら、答えられないでしょ」

イアンとローゼンは酒樽が積まれた甲板の隅に到着した。誰も行き来なんてしていません。もう中に戻ろうとするイアンに、ローゼンは花火だけ見たいとわがままを言いました。

イアンは自分の上着を脱いで床に敷いてくれたので、ローゼンはその上に座ります。音楽が止んで、最初の花火が上がった。

花火は高いはずなので、金持ちは金を空にぶちまけるのが好きなのだなとローゼンは思いましたが、それでも綺麗でした。いつの間にかローゼンの手はイアンに握られています。

ローゼンは笑顔のままイアンの方を向いて、そのまま固まってしまいました。

イアンの顔は血の気が引いて真っ白になっていました。花火の弾ける音がする度に、イアンの唇と手が震えます。イアンは固い動きで自分の両耳を塞くけれど、すでに呼吸が荒かった。

「コナー卿」

イアンは隠したがっていたけれど、もう手遅れでした。ローゼンはイアンの秘密を知ってしまった。空を切り裂いて広がる火の玉。あの美しい花火が、イアンには美しく映ることはありません。

甲板の上で身動きすらできなくなった傷心軍人のそばに今いるのは寄りにもよって囚人だけでした。

2巻中編を読んだ感想

9章めちゃくちゃ長くてびっくりしました。前回の記事で前後に分けているのに、それでもこの記事で1万文字を超えました。恐ろしい…

ローゼンの弱いところをイアンが埋めて、イアンの弱いところをローゼンが埋めようとしているやり取りにワーワー騒いでしまいました。

あと、自分を憎んでいないって言って欲しいのに、答えを知りたくなくて怖がっているローゼンがめちゃくちゃ可愛かったです。男慣れしているはずなのに、好きな人への態度が小さな女の子なんだよな…。

2巻はつらいこともありますが、甘さも増して行きますので、次を楽しみにしていてください!

次回の更新は来週を予定しています。更新はtwitterにてお知らせします!

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いり
異性愛・同性愛に関係なく読みふけるうちに気づいたら国内だけではなく韓国や中国作品にまで手を出すようになっていました。カップルは世界を救う。ハッピーエンド大好きなのでそういった作品を紹介しています。

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